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正義を煮つめてジャムにして〜7
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ニナさんが羽瀬川仁奈さんだということは、帰宅前の生徒が集まった昇降口で教えてもらえた。
この時間なら、図書室だと思うよと教えくれた子たちは、もうちょっと他人を警戒した方がいいと思う。
私が無害で真面目な女子中学生に見えたからなら、それは正解なので人を見る目があったのかも。
ん? どっちなんだろ。
彼女の無事を確認しなければ、問題が解決したとは言い切れない。
放課後のにぎやかさにまぎれて、私たちはニナさんを探す。
クラスのみんなで守らなきゃいけない可哀想な女の子。
そんなイメージを持っていたのに、同級生と談笑しているニナさんは現状を悲観してなどいなかった。
羽瀬川は図書委員だから木曜は、カウンターか書架整理やってるよ。
3年の学年章をつけた男子はニナさんの正確な情報を知っていたし、周りの反応からすると彼女に興味がある風だった。
雑誌のモデルになれそうな華やかなルックス。みんなに好かれそうな愛嬌の良さ。
長い髪をゆるく巻き、レインフラッフィのシュシュでまとめているニナさんは、私たちにも温和な対応をしてくれた。
「へぇ~、じゃあ君たちはアタシのことを心配して見に来てくれたんだ。怖い目になんかあってないけど、わざわざありがとね」
話はこれで終わりだと言うように軽く手を振った羽瀬川さんは、日差しを遮るために図書室のブラインドを調整する。
「うち、兄妹多いのにお母さんしかいないんだ。そのお母さんも今の彼氏サンと仲良くするのにいそがしいみたいでさぁ。家事とかいろいろ毎日大変なんだよね。誰にも言わずにガマンしてたらおかしくなりそうで、ついみんなに愚痴っちゃった」
初対面の私たちが気軽に教えてもらっていい情報量をオーバーしている。
誇張やウソが混じっているのか、それすらわからなくて何も言えなくなる。
「仁奈さんはがんばってるよねって大人は言うんだ。かわいそうな仁奈ちゃんって、裏ではバカにしながら、寄ってくる人はたくさんいるし、理解者の顔してなれなれしくしてくる男子は多いよ。みじめな存在と一緒にいると、自分が楽しいからなんだろうけど」
日差しが差し込まなくなった室内は、彼女の大きな瞳にも光が入らない。
「みんなは、かわいそうなアタシに優しくできる自分が好きなんだろうね。そういうのってムカつくけどさ。いつ誰がこっちの立場になるかなんてわかんないでしょ。だから、アタシは人を恨んだり呪ったりしたくないな」
きちんと整った髪や手入れの行き届いた制服は、彼女の生活面がきちんとしていることの証明になる。
手助けしてくれる親族や知人がいるのだろうか。
学校は、社会は、彼女の状況を把握しているんだろうか。
ぶしつけに疑問を投げかけるには、彼女との関係性はまだ浅い。
「アンタたちはいい子だね。会いに来てくれてうれしいよ」
先輩らしく大人びた言葉をかけてくれる彼女に、私は何も返せなかった。
早足で大人になったのは、きっと環境がそれを彼女に押しつけてしまったから。
「何もないならそれでいい。もしも自分の手に余る事態になったら、いつでもここへ連絡をしてくれ」
瑞獣さまが彼女に手渡したのは、和花葉神社の連絡先が記された広報用カードだった。
「高校生になったら、バイトさせてくれないかな。和花葉の宮司って、代々純潔を尊ぶ身って話だし、絶対セクハラとかないのって安心じゃない?」
フヒヒと笑う彼女から、負の感情は一切伝わってこない。
嫌がらせをした人たちも彼女のために何かしたいという純粋な気持ちはあったんだろう。
「柏翁さんはコンプラ遵守の人だから、バイト先には超オススメしますよ」
「大学行きたいから、高校生になったらしっかり稼ぎたいんだ。和花葉神社なら歩いて行けるし、おばあちゃんにも反対されないと思うんだ」
彼女がつけているレインフラッフィは、アメフラシやウミウシのカラーやカタチをうまく表現したファッションアイテムを提供しているブランドだ。
私は、まだニナさんのことを知らないけど、ウミウシ好きに悪い人はいないと信じたい。
この時間なら、図書室だと思うよと教えくれた子たちは、もうちょっと他人を警戒した方がいいと思う。
私が無害で真面目な女子中学生に見えたからなら、それは正解なので人を見る目があったのかも。
ん? どっちなんだろ。
彼女の無事を確認しなければ、問題が解決したとは言い切れない。
放課後のにぎやかさにまぎれて、私たちはニナさんを探す。
クラスのみんなで守らなきゃいけない可哀想な女の子。
そんなイメージを持っていたのに、同級生と談笑しているニナさんは現状を悲観してなどいなかった。
羽瀬川は図書委員だから木曜は、カウンターか書架整理やってるよ。
3年の学年章をつけた男子はニナさんの正確な情報を知っていたし、周りの反応からすると彼女に興味がある風だった。
雑誌のモデルになれそうな華やかなルックス。みんなに好かれそうな愛嬌の良さ。
長い髪をゆるく巻き、レインフラッフィのシュシュでまとめているニナさんは、私たちにも温和な対応をしてくれた。
「へぇ~、じゃあ君たちはアタシのことを心配して見に来てくれたんだ。怖い目になんかあってないけど、わざわざありがとね」
話はこれで終わりだと言うように軽く手を振った羽瀬川さんは、日差しを遮るために図書室のブラインドを調整する。
「うち、兄妹多いのにお母さんしかいないんだ。そのお母さんも今の彼氏サンと仲良くするのにいそがしいみたいでさぁ。家事とかいろいろ毎日大変なんだよね。誰にも言わずにガマンしてたらおかしくなりそうで、ついみんなに愚痴っちゃった」
初対面の私たちが気軽に教えてもらっていい情報量をオーバーしている。
誇張やウソが混じっているのか、それすらわからなくて何も言えなくなる。
「仁奈さんはがんばってるよねって大人は言うんだ。かわいそうな仁奈ちゃんって、裏ではバカにしながら、寄ってくる人はたくさんいるし、理解者の顔してなれなれしくしてくる男子は多いよ。みじめな存在と一緒にいると、自分が楽しいからなんだろうけど」
日差しが差し込まなくなった室内は、彼女の大きな瞳にも光が入らない。
「みんなは、かわいそうなアタシに優しくできる自分が好きなんだろうね。そういうのってムカつくけどさ。いつ誰がこっちの立場になるかなんてわかんないでしょ。だから、アタシは人を恨んだり呪ったりしたくないな」
きちんと整った髪や手入れの行き届いた制服は、彼女の生活面がきちんとしていることの証明になる。
手助けしてくれる親族や知人がいるのだろうか。
学校は、社会は、彼女の状況を把握しているんだろうか。
ぶしつけに疑問を投げかけるには、彼女との関係性はまだ浅い。
「アンタたちはいい子だね。会いに来てくれてうれしいよ」
先輩らしく大人びた言葉をかけてくれる彼女に、私は何も返せなかった。
早足で大人になったのは、きっと環境がそれを彼女に押しつけてしまったから。
「何もないならそれでいい。もしも自分の手に余る事態になったら、いつでもここへ連絡をしてくれ」
瑞獣さまが彼女に手渡したのは、和花葉神社の連絡先が記された広報用カードだった。
「高校生になったら、バイトさせてくれないかな。和花葉の宮司って、代々純潔を尊ぶ身って話だし、絶対セクハラとかないのって安心じゃない?」
フヒヒと笑う彼女から、負の感情は一切伝わってこない。
嫌がらせをした人たちも彼女のために何かしたいという純粋な気持ちはあったんだろう。
「柏翁さんはコンプラ遵守の人だから、バイト先には超オススメしますよ」
「大学行きたいから、高校生になったらしっかり稼ぎたいんだ。和花葉神社なら歩いて行けるし、おばあちゃんにも反対されないと思うんだ」
彼女がつけているレインフラッフィは、アメフラシやウミウシのカラーやカタチをうまく表現したファッションアイテムを提供しているブランドだ。
私は、まだニナさんのことを知らないけど、ウミウシ好きに悪い人はいないと信じたい。
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