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正義を煮つめてジャムにして〜3
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買い食いで私と出歩くことが増えた瑞獣さまは、神社を中心として行動範囲が広がっている。
免許保有者の柏翁さんが車に乗せてくれたら遠くにだって行けるのに、保護者に許可もなく連れ回せないとお断りされてしまった。
仕事の予定とコンプライアンスの二刀流は手ごわくて、私の安易な提案はことごとく弾かれてしまう。
中学校の場所くらいはわかっているけれど、私が通う学校以外の校区なんて把握していない。
瀬尾さんへの悪意がねじ曲がって発現するのは、クラスメイトの自宅や外出先という可能性もある。
地図アプリで周辺地域を表示して、このあたりだと教えようとしたのに、瑞獣さまはふてくされた顔をしていた。
「なんですか、その顔」
ツノがぺたりとつぶれてるわけではないけど、何となく色合いや輝きがぼんやりしている。
これは瑞獣さまがいじけているサインだ。
声はかけずに様子を見ていると白いもふもふのちいさい生き物となって、こちらをじっと見つめてくる。
瑞獣さまの本来の姿は教えてもらってないけれど、てのひらサイズになった時は青い小枝を耳にした雪うさぎみたいで最高にキュートなのだ。
そうっと指でなでても嫌がらないので、許可も取らずにやさしく触れた。
もふもふ、もふもふ。グミみたいなマシュマロみたいなやわらかさは癖になる。
「……お前は、そこのミルクセーキが好きなのか?」
見た目に引きずられるのか、声も少し幼くてあまったるい。
はい、そうですよと返事をしてツノのつけ根をくすぐると毛をふわふわさせながら、不平をもらす。
ウミウシ界の中でも妖精みたいでかわいい、シラユキウミウシに似てる気がした。
「オレは多くを識るものとして生まれたのに、世の中はあまりにも変わってしまった。皆の記憶から薄れ、存在意義を無くした獣はあの絵の中で眠り続けているべきだったのだろうか」
ぼそぼそと弱音を吐く瑞獣さまの小さなツノを私は指でこすってみがいてあげた。
「瑞獣さまはかっこいいですよ。ひとりになるのが不安だった私の前に飛びこんできてくれたヒーローです」
「そのわりには扱いが雑ではないか?」
雪うさぎが本物のうさぎくらいの大きさに変わっていく。
小枝のようだったツノはきらめきを取り戻しつつあった。
「だって、私が生きる小さな世界に入ってきてくれるって言ったのは、瑞獣さまじゃないですか」
燈子を嫌いになることはないし、夏凪を避けることもしたくない。
大切なふたりのこれからを祝福し、何でも相談し合える友達でありたい。
だから、閉じていた3人だけの輪の中に気まぐれでも入ってくれたことに感謝している。
「柏翁よりも、オレを頼ってくれるのか?」
すがるような目にひきこまれて、こくこくとうなずいたけれど、優先順位の割り振りがシビアな柏翁さんは、最初からこの案件をこちらに回す気でいた。
大人の事情はあえて伝えず、私は瑞獣さまの欲しがっている言葉を差し出す。
「今年は3年ぶりに【ひんやりスイーツスタンプラリー】をやるって聞きました。瑞獣さまも私と一緒にスタンプのコンプめざしましょう!」
「……それは、面白そうだな」
「はい。ですから……」
この地域に降りかかる災いを放置なんかしておけるはずがない。
「かすかな澱みが近くで発生しているようだ。お前がいると心強い、案内してくれ……伊桜里」
はじめて名前を呼ばれて、喜びで心が舞い上がる。
目線が合うよう身体を見慣れたサイズに戻してくれた瑞獣さまは守護神獣でもあり、私の頼れるパートナーでもあった。
免許保有者の柏翁さんが車に乗せてくれたら遠くにだって行けるのに、保護者に許可もなく連れ回せないとお断りされてしまった。
仕事の予定とコンプライアンスの二刀流は手ごわくて、私の安易な提案はことごとく弾かれてしまう。
中学校の場所くらいはわかっているけれど、私が通う学校以外の校区なんて把握していない。
瀬尾さんへの悪意がねじ曲がって発現するのは、クラスメイトの自宅や外出先という可能性もある。
地図アプリで周辺地域を表示して、このあたりだと教えようとしたのに、瑞獣さまはふてくされた顔をしていた。
「なんですか、その顔」
ツノがぺたりとつぶれてるわけではないけど、何となく色合いや輝きがぼんやりしている。
これは瑞獣さまがいじけているサインだ。
声はかけずに様子を見ていると白いもふもふのちいさい生き物となって、こちらをじっと見つめてくる。
瑞獣さまの本来の姿は教えてもらってないけれど、てのひらサイズになった時は青い小枝を耳にした雪うさぎみたいで最高にキュートなのだ。
そうっと指でなでても嫌がらないので、許可も取らずにやさしく触れた。
もふもふ、もふもふ。グミみたいなマシュマロみたいなやわらかさは癖になる。
「……お前は、そこのミルクセーキが好きなのか?」
見た目に引きずられるのか、声も少し幼くてあまったるい。
はい、そうですよと返事をしてツノのつけ根をくすぐると毛をふわふわさせながら、不平をもらす。
ウミウシ界の中でも妖精みたいでかわいい、シラユキウミウシに似てる気がした。
「オレは多くを識るものとして生まれたのに、世の中はあまりにも変わってしまった。皆の記憶から薄れ、存在意義を無くした獣はあの絵の中で眠り続けているべきだったのだろうか」
ぼそぼそと弱音を吐く瑞獣さまの小さなツノを私は指でこすってみがいてあげた。
「瑞獣さまはかっこいいですよ。ひとりになるのが不安だった私の前に飛びこんできてくれたヒーローです」
「そのわりには扱いが雑ではないか?」
雪うさぎが本物のうさぎくらいの大きさに変わっていく。
小枝のようだったツノはきらめきを取り戻しつつあった。
「だって、私が生きる小さな世界に入ってきてくれるって言ったのは、瑞獣さまじゃないですか」
燈子を嫌いになることはないし、夏凪を避けることもしたくない。
大切なふたりのこれからを祝福し、何でも相談し合える友達でありたい。
だから、閉じていた3人だけの輪の中に気まぐれでも入ってくれたことに感謝している。
「柏翁よりも、オレを頼ってくれるのか?」
すがるような目にひきこまれて、こくこくとうなずいたけれど、優先順位の割り振りがシビアな柏翁さんは、最初からこの案件をこちらに回す気でいた。
大人の事情はあえて伝えず、私は瑞獣さまの欲しがっている言葉を差し出す。
「今年は3年ぶりに【ひんやりスイーツスタンプラリー】をやるって聞きました。瑞獣さまも私と一緒にスタンプのコンプめざしましょう!」
「……それは、面白そうだな」
「はい。ですから……」
この地域に降りかかる災いを放置なんかしておけるはずがない。
「かすかな澱みが近くで発生しているようだ。お前がいると心強い、案内してくれ……伊桜里」
はじめて名前を呼ばれて、喜びで心が舞い上がる。
目線が合うよう身体を見慣れたサイズに戻してくれた瑞獣さまは守護神獣でもあり、私の頼れるパートナーでもあった。
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