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正義を煮つめてジャムにして〜4
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怪奇現象の発生をお知らせしてくれるアプリがあればいいのになぁ。
小学生の妄想みたいなことを考えながら、見えないものを感じようとして目を凝らす。
疑心暗鬼になっているのか、背後や足元にぞわぞわした何かがある気がして警戒しまくっていた私に、瑞獣さまが今の状況を解説してくれる。
「和花葉神社に今回の件を相談に来た学生には良くない念がまとわりついていた。あの程度なら放っておいても問題はなかったが、年が近くて耐性のないお前になすりつけられたら厄介なことになる。だから、さっさと浄化したのは悪手だったようだな」
「瀬尾さんをあのまま帰した方が良かったってことですか?」
専門用語は使ってないのに内容が理解しにくいのは、瑞獣さまが肝心なところをすっとぼけているからだ。
「ずっと気になってたんですけど……柏翁さんと瑞獣さまって、瀬尾さんのこと名前で絶対呼ばないですよね。彼女は嫌がらせを受けている側なのに、寄り添う気持ちがなさそうなのも何か理由があるんですか?」
瑞獣さまが手を伸ばして何かを握りつぶす。
指を開いた時には何もなかったけれど、私には見えないものがさまよっているんだろう。
「あれは女の素性をひそかに調べさせていた。報告は聞いていないが、おそらく他でも同じようなことを繰り返してきたのだろう」
「……同じような?」
「他人の感情をかき乱し、攻撃性を持つようにけしかけて膨らませる。といっても諍いを楽しむわけでもなく、時々は神や怪異の力を借りてもめ事を大きくし、それを見物しているだけだ」
「そんなわけないですよ。だって瀬尾さんは……」
反論しようとしたけれど、私は瀬尾さんについて何も知らない。
「嫌がらせを受けるようにしたのも、和花葉神社に相談をしに来たのも、瀬尾さんの計画だったってことですか?」
「本人にどこまで自覚があるかは微妙なところだ。少なくとも己が悪だとは思ってはいないからな」
瑞獣さまの言葉で善悪が反転する。
本当の被害者は、彼女に対して嫌がらせをしたクラスメイトなのかもしれない。
「だったら、もうちょっと早くそのことを教えてくれませんか? 瀬尾さんからの連絡を待つより、他の人たちに被害がないかパトロールした方が合理的でしたよね!」
きつめの口調で訴えると瑞獣さまは肩を震わせ笑いはじめた。
「伊桜里は本当に、前向きだな」
おだやかな表情と声は、最初に見せてくれた大人の姿の時の印象と重なった。
とくん、とはねた心音が聞こえるわけないのに見透かされたくなくて、早口になってしまう。
「も、もちろん私も協力するので瑞獣さまは、ぱあっと派手に学校ごと浄化してください!」
「無茶を言うな。対象でないものに神力を浴びせるのは効率が悪い」
「ゲームみたいに全体攻撃でまるごと浄化していけたらいいんですけどね」
スマホは長時間貸してあげているけれど、瑞獣さまにゲームはまだ紹介していない。
特定のゲームにハマってしまったら、ますますスマホ依存が進んでしまいそうだ。
神社で働く人たちや参拝客だけでなく、このあたりの住民の生活をまるごと視察できてしまう瑞獣さまは、ゲームに関しての知識もどんどん吸収している。
「なんでも吸い込む三角キノコが猛進するゲームを何度か見かけた。要領さえつかめれば、オレに特殊スキルの発動など容易なものだ」
指で描いた方陣はうっすらと私にも見える。その中に次々と吸収されていく霧のようなものはここにあってはいけないものたちだ。
すべてが認識できていたら、あまりのかっこよさに私は見とれていただろう。
指揮者のように腕を振り、こちらへと向かってくる悪意を消滅させていく神の眷属は、ウミウシみたいだったのが嘘みたいに神々しい。
火花のようなものが散り、そのたびに補強を重ねるように方陣が上書きされる。
起こっている現象が私には半分もわからない。それが残念だったけれど、力をふるい続ける瑞獣さまはギャラリーが他にいないことを気にしてはいないようだった。
小学生の妄想みたいなことを考えながら、見えないものを感じようとして目を凝らす。
疑心暗鬼になっているのか、背後や足元にぞわぞわした何かがある気がして警戒しまくっていた私に、瑞獣さまが今の状況を解説してくれる。
「和花葉神社に今回の件を相談に来た学生には良くない念がまとわりついていた。あの程度なら放っておいても問題はなかったが、年が近くて耐性のないお前になすりつけられたら厄介なことになる。だから、さっさと浄化したのは悪手だったようだな」
「瀬尾さんをあのまま帰した方が良かったってことですか?」
専門用語は使ってないのに内容が理解しにくいのは、瑞獣さまが肝心なところをすっとぼけているからだ。
「ずっと気になってたんですけど……柏翁さんと瑞獣さまって、瀬尾さんのこと名前で絶対呼ばないですよね。彼女は嫌がらせを受けている側なのに、寄り添う気持ちがなさそうなのも何か理由があるんですか?」
瑞獣さまが手を伸ばして何かを握りつぶす。
指を開いた時には何もなかったけれど、私には見えないものがさまよっているんだろう。
「あれは女の素性をひそかに調べさせていた。報告は聞いていないが、おそらく他でも同じようなことを繰り返してきたのだろう」
「……同じような?」
「他人の感情をかき乱し、攻撃性を持つようにけしかけて膨らませる。といっても諍いを楽しむわけでもなく、時々は神や怪異の力を借りてもめ事を大きくし、それを見物しているだけだ」
「そんなわけないですよ。だって瀬尾さんは……」
反論しようとしたけれど、私は瀬尾さんについて何も知らない。
「嫌がらせを受けるようにしたのも、和花葉神社に相談をしに来たのも、瀬尾さんの計画だったってことですか?」
「本人にどこまで自覚があるかは微妙なところだ。少なくとも己が悪だとは思ってはいないからな」
瑞獣さまの言葉で善悪が反転する。
本当の被害者は、彼女に対して嫌がらせをしたクラスメイトなのかもしれない。
「だったら、もうちょっと早くそのことを教えてくれませんか? 瀬尾さんからの連絡を待つより、他の人たちに被害がないかパトロールした方が合理的でしたよね!」
きつめの口調で訴えると瑞獣さまは肩を震わせ笑いはじめた。
「伊桜里は本当に、前向きだな」
おだやかな表情と声は、最初に見せてくれた大人の姿の時の印象と重なった。
とくん、とはねた心音が聞こえるわけないのに見透かされたくなくて、早口になってしまう。
「も、もちろん私も協力するので瑞獣さまは、ぱあっと派手に学校ごと浄化してください!」
「無茶を言うな。対象でないものに神力を浴びせるのは効率が悪い」
「ゲームみたいに全体攻撃でまるごと浄化していけたらいいんですけどね」
スマホは長時間貸してあげているけれど、瑞獣さまにゲームはまだ紹介していない。
特定のゲームにハマってしまったら、ますますスマホ依存が進んでしまいそうだ。
神社で働く人たちや参拝客だけでなく、このあたりの住民の生活をまるごと視察できてしまう瑞獣さまは、ゲームに関しての知識もどんどん吸収している。
「なんでも吸い込む三角キノコが猛進するゲームを何度か見かけた。要領さえつかめれば、オレに特殊スキルの発動など容易なものだ」
指で描いた方陣はうっすらと私にも見える。その中に次々と吸収されていく霧のようなものはここにあってはいけないものたちだ。
すべてが認識できていたら、あまりのかっこよさに私は見とれていただろう。
指揮者のように腕を振り、こちらへと向かってくる悪意を消滅させていく神の眷属は、ウミウシみたいだったのが嘘みたいに神々しい。
火花のようなものが散り、そのたびに補強を重ねるように方陣が上書きされる。
起こっている現象が私には半分もわからない。それが残念だったけれど、力をふるい続ける瑞獣さまはギャラリーが他にいないことを気にしてはいないようだった。
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