瑞獣さまは遠慮しない

初椛

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柏翁宮司のご明察の通り〜4

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 どんな場面でも空気を読んでくれない瑞獣さまは、帰っていった夏凪の心情なんて気にもとめてくれない。
 神社から離れると、感覚が人間寄りになるそうだ。
 わずらわしいとぼやきながら、長い黒髪を片側に寄せ、首回りの風通しを気にしている様子は生活感があっておもしろい。

「この学校の生徒を観察して重大なことに気がついた。学生には一人一台タブレットが渡されているようだな。あれがあるなら、伊桜里のスマホはオレが使っていても問題ないのではないか?」

 なんで今、それを確認するんだろう。スマホ依存が深刻すぎません?
 時と場合を考えるように注意しかけた私の代わりに、現代女子代表みたいなニナさんが解説をしてくれた。

「アレは学習用でセキュリティも強めなんで、SNSとかそういう個人使用には向かないですよ」
「なるほど」

 教えてもらったことは素直に受け入れるタイプなので、瑞獣さまはそれ以上の無理難題を言わなくなった。
 必要な情報をわかりやすく伝えてくれたニナさんは、処理能力が高そうである。どんな業種でのバイトでも評価されて、周りとも良好な関係を築けるだろう。
 将来のバイトリーダーは今日会ったばかりなのに、前からの知り合いみたいな錯覚を起こさせる。

「そうだ、柏翁はくおうさん! 瑞獣さま専用にタブレットを購入しませんか? 美容室とかにフリーで使えるタブレットあるじゃないですか! あんな感じで利用するなら、経費とかで落とせますよね?」

 世話の焼ける神の眷属を神社に丸投げしたかったのに、柏翁はくおうさんの対応はスマートかつナチュラルソルトで反論をふうじてくる。

「小さな子がよくわからずにスマホを使うと、間違いなくトラブルに巻きこまれます。それなら雨見さんの管理下においたほうがいいでしょう。ログインせずに入手できる情報には限りがありますし、一日中あの状態になられても困ります。スマホ依存は現代病ですからね。何より、瑞獣さまが現世に執着しているのは、あなたがいるからということをお忘れなく。共に青春を分かち合ってください」

 推しを早口で語る人みたいに一方的に説明されたって、内容が頭に入ってこない。
 情報を整理しながら、軽く首をかしげると、柏翁はくおうさんがかすかに笑う。
 ほわんと光が舞うような笑顔は、性別も年齢も超越して尊かった。
 
「ああ、なるほど、あなたは意外と鈍いんですね」

 みんなの情報が正しいなら、神職者であるこの人も恋愛とかお付き合いを経験してないはずである。
 それなのに、わかったようなことをそれっぽく言う大人ってずるい。
 
「ああ、そうだ伊桜里いおり。週末発売される八鳳堂はちおうどうの復刻みつ豆はフォロワー限定のクーポンで…」
「あー、もう!」

 自分のやりたいことを優先する瑞獣さまの都合ばかりを聞いていられない。
 とにかく手がかかるし、こっちから教えなければいけないことがすごく多い。

柏翁はくおう、お前も同行しろ。車があれば三十分で行けるらしいからな」
「前にも言いましたが、親御さんに許可なく雨見さんを車に同乗させることはできません」

 多少、厳しめに言われても瑞獣さまはへこたれない。

「見られなければ、かまわないのではないか?」
「この世の中、どこで見られているかわかりません。妙な噂を広められては困りますし、こんなに年の離れた大人がいてはお邪魔でしょう?」

 柏翁はくおうさんの言ってることは正論だけど、自分の仕事を増やさないように立ち回っているのがバレバレなんだよね。

「私が行かなくても、瑞獣さまと柏翁はくおうさんで楽しんできたらいいじゃないですか? 来週からテストだし、そんなに暇じゃないので」

 勝手に話を進めようとする2人に訴えると声をそろえて答えが返ってくる。

「それはない」
「それはないですね」

 やりとりを見ていたニナさんは、指で枠を作って私たちの一瞬を切り取った。

「K大行って伝奇作家になるのが夢なんで、今後いろいろ参考にさせてもらおうかな!」

 目を輝かせる彼女には、瑞獣さまと柏翁はくおうさんが本来の姿で見えているのかもしれない。
 そんなことをふっと思った。


 
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