落ちこぼれ“占い師”が造る 最強ギルド! ~個性豊かな仲間や年下王女に頼られる“ 立派なギルマス”になってました~

薄味メロン

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〈48〉帰るための説得は ボンさんが!

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「ボンさんだけ、こちらへ」

「……おう。お前らは少し休憩だ。スライムどもが川を超えてきそうになったら、魔法でもなんでも使え」

「はぁ、はぁ、はぁ……、すらいむ、が、水の、なか、なんて--」

「有り得ない話じゃねぇ。用心しとけって話だ」

 それだけを言い残して、ボンさんは俺の方に向き直った。

 スライムは飛び跳ねる事と転がる事は出来ても、泳げく事は出来ない。

 ましてや、自分より深くて流れのある川は越えられない。

 常識で考えるなら そうなる。

 もしあり得るとすれば、丸いスライムの体から長い足が生えて歩きだすとか、羽が生えて空を飛ぶとか、そんな異常事態だ。

「お前等、これが常識の範囲だとでも思ってんのか?」

「「「…………」」」

 だけど、たった今渡ってきた川の向こうを見ると、有り得ないとも言い切れない。

 川の向こうには、200匹を越えるスライムが、こちらを見上げるようにとどまっていた。

 その数も、1匹、また1匹と木々の隙間から飛び出していて、未だに増え続けている。

「スライムどもには、こちらから手を出すな。休憩が最優先だ」

 そう言い残して、ボンさんが森の中へと入っていく。

 その背中を追いかけていくと、大木の幹に背中を預けたボンさんが、はぁ~……、と盛大に息を吐き出した。

 どうやら、相当に疲れていたらしい。

 地面にぺたりと腰を下ろして肩を落とす姿に、普段の力強さは感じられなかった。

「悪いな。正直 助かったぜ。異常事態を前にして、下のもんを制御しきれなかった……」

 大きく息を吸い込んで、グッと右手を握りしめる。

 音がしそうなほど奥歯を噛み締めたボンさんは、何処までも悔しそうに見えていた。

「……愚痴なんてみっともねぇわな。……でだ。どうしてここに来た? 実力をアピールしに、って訳じゃねぇんだろ?」

「ええ。まずは これを」

 自分で話すよりも、ルーセントさんに書いてもらった手紙を渡した方が早いからな。

 録音機の言い訳は必要なくなったから、占いの結果と要点が書かれた物だけだ。

 魔物を前にしているかのような緊張感を孕んだ視線が、綺麗に整った文字を追いかけていく。

「あいつらの6人が死ぬ。俺も死ぬ……。そこまでの異常か……」

 思わず、と言った様子で川の方を振り返るけど、今見えるのは、視線を阻む木々の姿だけた。

「有り得ない未来じゃねぇわな。俺の勘も厄介事だと告げてやがる」

 そう口にして、大きく息を吐き出していく。

 落ち着きを戻した瞳が、俺の方へと向き直っていた。

「川への案内だけじゃなくて、もっとでけぇ借りが出来たらしいな。悪いけど借りとくぜ」

「いえ、たまたまですから。気にしなくていいですよ」

 返済は、最高級ステーキで大丈夫です。

 腹一杯 食わせてください。

 言葉にしなくても、そのくらいは分かりますよね? 大人ですもんね?

「ここに書いてある第4王女の合図、ってのは、さっきの空砲か?」

「えぇ、おそらくは」

「……なるほどな。Fランクのギルドが、王族を動かすか……。まだ2人だろ? 新人を引き抜いても3人。俺の記憶違いじゃねぇよな?」

「えぇ、まぁ。ですけど、王女と出会えたのは たまたまですし。彼女が動いてくれたのは、リリが頑張ってくれたからだと思いますよ」

「……まぁ、そう言うことにしておいてやるよ」

 どうにも不満らしいけど、ボンさんはそこで話しを切り上げた。

「状況はわかった。俺たちは、このまま王都に帰ればいい。そうだな?」

「はい。俺の“占い”を信じるなら、ですが……」

「今更なに言ってやがんだ。こんな結果を見せられたら、信じる以外ねぇだろ」

 軽く目を閉じたボンさんが、もう一度大きく息を吸い込む。

 自分の膝を叩いて立ち上がり、調子を確かめるように肩を回した。

「おまえさん、攻撃の手段は?」

「いえ、何も。強いて言えば、魔物が嫌う臭いの煙幕を投げつけるくらいです。非力な“占い師”ですので……」

「……わかった。帰り道のサポートを頼めるか? 危険そうな魔物を見つけたら、声をかけてくれると有り難い。報酬は俺が出す」

「わかりました。そのくらいなら」

 帰り道を同行するだけで、飯が増えるらしい。

「決まりだな。あいつらを説得してくる。適当に仕事を始めてくれや」

「わかりました」

 これまでのように木を選んで登って、河辺に戻るボンさんを視線で追いかける。

 木々の隙間を抜けたボンさんが、盛大に溜め息を吐き出していた。

「異常繁殖にしても、行き過ぎだな。400を超えてんじゃねぇのか?」

 スライムの山。

 そう表現したくなるような光景が、川の向こうに広がっている。

「撤退するぞ」

「なっ!? 正気か!?」

「何がだ?」

「あんなもの、雑魚の山だろ! 雑魚はいくら群れても所詮は雑魚! 蹴散らせばいい!!」

 真っ赤な槍を握った男がそう主張しているけど、周囲は困り顔に見える。

 反対の声をあげないところを見ると、あの男がリーダーか。

 なんとも、面倒なヤツに強めの実権を持たせたみたいだな。

「おまえさん、何か勘違いしてやしねぇか?」

「……なにがだ?」

「今回の仕事は、森の調査だ。スライムの討伐じゃねぇ。違うか?」

「だから、その調査ってやつを--」

「異常を確認した。国にそう報告する」

「国!? これは冒険者おれたちが受けた仕事だろ!!」

「だからなんだ? 俺たちだけでやる。尻尾を巻いて逃げるな、とでも言いたいのか? そんな矜持は騎士にでも食わせとけ」

「…………」

 開いた口がふさがらない。

 そんな感じだろうか。

 剣術の天才だと周囲に誉められて、1人で森に行って死んだ、田舎の知り合いと同じように見える。

「お前、国のスパイか? ……!!!! おい、“占い師”の雑魚はどこ行ったんだよ」

「雑魚かは知らんが、お前たちより優秀なあいつは、先に帰らせた。大切な報告があるからな」

「なっ! てめぇ!!」

 顔を真っ赤に染めた男が、槍の先をボンさんに向ける。

 伸ばされた槍の先をくぐったボンさんが、拳をぐっと握り締めた。

「がはっ……」

「死なないだけ有り難いと思え」

 背筋が凍るような声がして、男が白目を向く。

 ボンさんの肩に担ぎ上げられた男が、崩れ落ちるように地面に放り投げられた。

「野営の準備はもう必要ねぇ。ソイツは、拾うも捨てるも好きにしろ。他に異論のあるヤツは? ねぇな? 帰るぞ」

 大慌てで動き出した男たちが、ボンさんの後を追いかけて、川を下っていった。
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