落ちこぼれ“占い師”が造る 最強ギルド! ~個性豊かな仲間や年下王女に頼られる“ 立派なギルマス”になってました~

薄味メロン

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〈53〉討伐するよ。何とかするよー。

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 飲み込まれた天幕が、巨大なスライムに溶かされていく。

 溶ける速度は、遅くもなく、早くもなく。

 そんな感じだ。

 だけど、溶けている事実に変わりはない。

「溶かしてる間は動かないのか……」

 その隙を狙って、剣や槍、弓矢などで攻撃をしているらしいけど、どう見ても火力が足りてない。

「……動き出したな」

 透明な体の中にあった天幕は、もうない。

「普通のスライムとは違って、跳ばないんだな」

 割れないシャボン玉が、風に流されるようにスルスルと動いている。

 次の狙いは、隣の天幕か……。

「人間は狙ってなさそうだな」

 だとすると、近くにある食い物を片っ端から、そんな感じか?

 魔法使いを召集しているようだし、ここまでは来ないだろう。

「何個食べれば、腹いっぱいになるのか知らねーけどな……」

 バカみたいな巨体を見てると不安になるけど、ここに来るまでには最短でも20個以上の天幕を食わなきゃだからな。

 歩みは遅いから、脱出も出来そうだ。

 あいつが何者かは知らねぇけど、そういうのは、専門家に考えさせとけばいい。

 森に入った連中の背後に巨大なスライムを残す形にはなるが、王都に逃げ帰る道に支障はない。

「よし、逃げるか--」

 そう思った矢先、ふと、気になる男が目に留まった。

 周囲と同じような騎士の装備を身に付けてはいるのだが、どうにも様子がおかしい。

 巨大なスライムに向かっていく訳でもなく、王都に逃げる訳でもない。

 貼られた天幕に隠れるように、俺がいる方へと向かって来ている。

「なにを……?」

 そう思って周囲を見ると、同じような動きをする者が、十数人。

 手に持っているのは、暗殺に向きそうな短剣やナイフばかりだ。

 その先にいるのは、護衛が離れた第4王女。

「……あのでかいのは、陽動かよ!!」

 正解か、不正解かなんて分からないが、俺の勘がそう言っている!

 違ってたら、笑い話にでもすればいい!!

 今は最悪を想定しないと!!

「リリ! 彩葉! 武器を構えて、天幕の繋ぎを斬れ!」

「!! わかりました!」

「え!? なに? どうしたのよ!?」

「いいから早く!」

「わっ、わかったわ!」

 慌ただしく動き出した2人の手で、天幕を止めていた紐が切られていく。

「メリア! アンナ! 救難信号のような物はないか!? 他の護衛が釣り出された!」

「えっ!? それって--」

「暗殺者が、近くまで来ている!!」

「!!!!」

 そうこうしている間にも、天幕を覆っていた布が風に煽られて飛んでいく。

 日の光が射し込み、大きな骨組みだけを残して、遮蔽物が消え去った。

 顔色を変えたアンナさんが、脇に置いていたリュックの中から赤い筒のような物を取り出していた。

「獣除けですが、大きな音を出す道具なら!」

「異常事態が分かれば、何でもいい! やってくれ!」

「承知しました!!」

 天幕を支えていた骨組みだけに赤い筒を貼り付けて、導火線らしき物を引っ張り出す。

「メリア様。火種を!」

「わかりましたわ!」

 その導火線にメリアが手をかざした時、

「おっと、そのまま動くなよ? 全員が死ぬことになるぜ?」

「!!!!」

 不意に、聞き覚えのある男の声がした。

 リリと彩葉、アンナさんが、示し合わせたかのように、王女メリアの周りを固める。

 俺もその一角を担いながら、周囲へと目を向けた。

 周囲に張ってあった天幕の影から、騎士の鎧を着た者が姿を見せる。

 その手には、騎士に似合わないナイフや剣、中には弓矢を持つ者の姿もあった。

 そして何よりも、たった今、声を出した男。

 その手にある赤い槍にも、その自信が無駄に溢れた声にも覚えがある。

「お前、森の調査の切り上げに反対していた槍使いだな?」

「へぇ、雑魚“占い師”のくせに、記憶力だけはあるんだな」

 くくく、くははは。と笑い声をあげたそいつが、顔を覆っていた兜を脱ぎ捨てた。

 やはり、河辺でボンさんに突っかかっていた男だ。

「お前、〈堅牢の壁〉に所属する冒険者なんだよな? なんだって、騎士の格好なんかを?」

「おいおい。なんか、って言い方はやめろよ雑魚。俺みたいな優秀なヤツが、冒険者なんて本気でやるわけないだろ?」

 ……どういう意味だ?

「察しが悪いな。雑魚は頭まで雑魚か」

「……それで? 優秀なヤツが、こんなに大勢で押し掛けてどうした?」

「あ?」

「雑魚の“占い師”に守られた王女を狙うのに、こんなに人数が必要なのか、って聞いてんだよ? 優秀なヤツでも、察しは悪いのか?」

「……くそ雑魚が、よほど死にたいらしいな」

 軽く手を挙げた赤い槍の男が、周囲に目を向ける。

「コイツは俺がやる。お前等は、そのまま--」

「こいつは? もしかして、俺だけしか殺せないのか? 優秀なくせに?」

 おー、眉間に皺が寄って顔真っ赤。

 分かり易い、素直な性格してんねぇ。

「安い挑発に乗ってやるよ。雑魚は見てるとイライラするんでな」

「そりゃ、どーも」

 スライムの援護があるのかも知れないけど、お前等の任務は暗殺だろ?

 こんなヤツと一緒に森の探索とか、ボンさん苦労したんだろうな。

 そんな事を思いながらメリアの側を離れて、赤い槍の男と向かい合った。
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