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〈54〉決闘って 古風だねぇ。
しおりを挟む彩葉に借りたナイフを構えて、軽く腰を落とす。
「お前、そのナイフ!?」
「……?? なんだ? 欲しいのか?」
「やっぱ、ただの雑魚だな」
「……??」
彩葉が作ったナイフを見て驚いた?
そういえば、前にも同じ様な事があったな。
あの時は、彩葉の秘密がどうとか言ってたんだったか?
あいつらも確か、堅牢の壁のメンバーって話しだったよな。
「お前等の狙いはなんだ? 彩葉に関しても、メリアに関しても、何がしたいんだ?」
「雑魚には関係ねぇよ」
ちっ、話は終了か……。
仕方がない!
手に持っていたナイフを、男の顔目掛けて投げつける。
そのまま、隠し持っていたもう一本を、腹目掛けて投げる。
3本目を握り締めて、ヤツの膝を切りつける!
「はっ! おせぇよ、雑魚!」
「くっ……!」
顔と腹に投げた2本は槍の先で軌道を変えられて、斬りつけたナイフは槍の柄で止められた。
「死ねよ!!」
振り払われた槍の腹に乗って、爆転するように距離をとる。
「追撃! 追撃! 追撃ぃいいいいい!!!!」
追いかけてくる槍先を避けて、ナイフでそらして、紙一重で避けて。
「おらおら。下がってばっかでどうする気だよ?」
「はぁ、はぁ、はぁ……。そういう、お前は、殺しきれて、ねぇけど、な……」
「ほえてろ、雑魚が!」
更に繰り出される槍を必死に捌いていく。
自分の事を天才だと言うだけあって、槍の腕は本物らしい。
紙一重で避けるだけで精いっぱいで、反撃の余地なんてない。
やがては、赤い槍の男以外、見ている余裕がなくなって--
「ご主人様!!」
気が付いたのは、赤い槍が、大きな盾に強く弾かれた後だった。
「なんだと!?」
見えるのは、驚いた顔の男と、頼もしい小さな背中。
宙を舞う、赤い槍。
「ごめんなさい! タイミングが 中々見つからなくて!」
「いや、十分だ」
リリに声をかけながら、ナイフを握り締める。
大きく踏み込んで、男の腹にナイフを深々と突き刺した。
「おま……、ひきょう……」
「卑怯? 決闘してた訳でもねえだろ?」
それに、
「王女を守るって仕事やってんだ。それ以外に手を出してもパンは食えねぇんだよ」
“占い師”に産まれた俺には、誇りなんて飯にならない物に興味はないからな。
そんな思いを胸に、別のナイフで、男の首を切り裂いた。
このクソみたいな俺の世界には、慈悲なんて物も存在しない。
あるのは、飯だけだ。
「メリア!!」
「!! はい!!」
ピ----!!!!
思わず耳を塞ぎたくなるような音が響き渡る。
「みんな退いてねー!」
甲高い音が鳴り止むと同時に、今度は彩葉が何かを周囲の男たちに投げつけた。
やがて、風下にいた男たちの周囲だけが、紫色の煙に包まれていく。
「なんだこれは!!」
「目が! 目が!!」
「どうよ! 私特製の毒霧は!! あっ、ちなみにだけど、すぐ目と口を洗ったら大丈夫かも」
「「……」」
煙の中から出てきた男たちが、目に涙を浮かべながら、彩葉を見上げる。
「「!!!!」」
そして、誰からとなく俺たちに背を向けて、走り出した。
たぶんだけど、水場を探しに行ったんだろう。
残ったのは、風上にいた半数。
「どうする? 騎士たちはすぐにくるぞ? それまでに俺たちを殺して、逃げれるのか?」
「「「…………」」」
「まぁ、第4王女であるメリア様は、俺と違って慈悲深い。素直に捕まれば、奴隷で済むかもな」
「「「…………」」」
反応は悪くない。
あとひと押し、ってところか……。
(メリア。悪いんだけど同意してくれ)
(わかりましたわ。お兄さまのお願いなら、否はありませんもの)
「皆さんにも深い事情があるのでしょう。素直に従って頂けるのであれば、悪いようには致しませんわ」
「……ほんとう、ですか?」
「えぇ、お兄さまに誓って、本当ですわよ」
「……投降します。助けてください」
「おっ、おれも!」
「申し訳有りませんでした!!」
「俺は、脅されただけで! ほんとうはこんなこと……!!」
ひとり、またひとりと武器を捨てた男たちが、頭の後ろで両手を組んで這い蹲る。
ふと、遠くに目を向けると、こちらに向けて馬を走らせる騎士の姿が見えていた。
あちらは本物らしい。
ローラが残していった直属の部下らしく、メリアもアンナさんも良く知る人物のようだ。
「こっちは、どうにかなったか……」
張り詰めていた重たい空気を吐き出して、ホッと肩の力を抜く。
「立ちなさい! 不届き者!」
「サトリ様。水飲み場にいた男たちも全員確保しました!」
「御苦労様! 全員ぐるぐる巻きにして、縛りに縛って連れてきなさい! 洗いざらい吐かせてやるんだから!」
「でしたら、巨大スライムの近くの天幕に連れて行きませか? 正直に話した者だけ、スライムから遠ざける。どうでしょう?」
「良い案ね! 採用よ!」
……男たちよ。強く生きてくれ。
そんな事を思いながら、巨大なスライムの方へと目を向ける。
「んゅ? 何かしら これ……。青い、玉?? 星みたいな模様が入ってるから、魔石じゃなさそうだけど……?」
ふと背後を見ると、サトリ様と呼ばれていた女騎士が、手のひらサイズの青い石を不思議そうに見詰めていた。
「あんたたち。これ、何か知ってる?」
ぷるぷると首を振る男たちの様子を見る限りだけど、本当に知らないらしい。
「どうかしたんですか?」
「んー、なんかね。私のセンサーがビビビー、ってしてるのよ。赤い槍の根元から出て来たんだけど、なんかビビビー、って来ない?」
「ビビビー、ですか?」
「そう! ビビビー!」
いや、まぁ、言いたいことはわかる。
どう見ても怪しいし、あの赤い槍の男が隠し持ってた、とかってなると余計に怪しいな。
でも、ビビビー、はないでしょうよ。
「まぁいいわ! ニンジンさん部隊は不届き者を詰め所に連れて行って! ウサギさん部隊はメリア様の護衛の引き継ぎ! クマさんとヒツジさん、カメさんは、巨大スライム狩りよ! 良いわね!?」
「「「はい!」」」
いろいろと思うところはあったけど、すべてを自分の中に飲み込む。
大きく息を吸い込んで、暴れ続けている巨大なスライムに目を向けた。
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