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1章 ハブたる郁羊
2話
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「ふんぐっ」
急な襲撃に思わず、声にならない声をあげてしまう。
彼女の手首を掴みジタバタと脚も揺らしながら、必死に抵抗する。
「ま、待てって……」
鶴の恩返しとか浦島太郎とか、そんな物語を教えとして育ってきた。話が違うじゃないか。
「動物を救った」ので「殺されました」。そんな物語、国語の教科書には載ってなかったぜ。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。もっと話し合おう」
「で、でも……」
「た、頼む。俺は命の恩人だろ」
その言葉に、彼女はすっと身を引いた。
「命の恩人か……。ま、まあ。そうなんだけどさ」
がっくしうなだれると、こめかみに指を当てためらいの表情を見せる。
勝手なようでいて、言えばわかってくれそうなとこもある。
「だ、だろ。心配して助けたってのに、殺すなんて酷すぎるって」
「うーん……。でもさ、人間に本当の姿を見られた場合、姿を見たその人間を殺すのがケーユンマジムンのシキタリだからよ。人間に見られたってのが一族にバレたら、恐ろしい罰を受けるわけ」
「罰?」
「ふんどしってあるさ。人間の男が履いた、そのふんどしを食わされたり。あれは……地獄。苦くて、口当たりも悪くて、お腹も壊すし……。ああ、想像するだけで不愉快……」
考えるだけで辛いのか、女は眉間にシワを寄せクチをすぼめ、苦悶の表情を浮かべる。
俺はどちらも食べたことがなく、というか食べたことなどあるはずもなく、しまパンとふんどしとの味の細かい違いは知りようもない。
ただ、ふんどしを食わされるのが耐え難い地獄ってのは、そうだろうなと想像はつく。それなら、しまパンを食べる方がまだましだ、うん。
と無理に納得してみる。
「はっ!」
と急に発すると女は目をかっと見開いた。
かつてのふんどし地獄を思い出したのか「やっぱ殺さなきゃ」とつぶやきながらまた、首を絞めようと俺の体にのしかかってくる。
「ちょっと待て、待てって。俺の話も聞いてくれ」
「話……?」
「ああ。そのさ、姿を見た人間を殺すってのはつまり、お前らの存在がバレたらマズいってことだろ。人間にケーユンマジムンという妖怪の存在が知られちゃマズい、だから殺すわけだ。だよな?」
「うん、そうだよ」
「なら、大丈夫だ」
「なんで」
「なにせ、俺は口が堅いから。絶対誰にも言わないよ。今日の出来事は墓場まで持っていく」
というか、言ったところで誰も信じちゃくれないだろう。
まず、妖怪に会ったなんて話をマトモに聞いてくれる人間はごくわずかである。さらにその妖怪がしまパンを食糧として生きている、なんて本気で語り出したら次々と話し相手を失い、家族や親戚からも距離を置かれ、大学受験にも就活にも失敗し、安アパートの腐った畳の上で孤独に人生を終えることになる。これは間違いない。
女はこれみよがしにため息をついて、悩ましげな様子を見せた。
「誰にも言わない、なんて言われてもよ。ただの口約束だからな。信じる根拠もないし」
「こんな出来事、誰に言ったって嘘つき呼ばわりされるだけだよ」
「うーん、そうだなあ……。じゃあさ、殺さんからひとつ、お願いしていいかな」
「お願い?」
「あのさ、お腹すいて仕方ないわけ。だから、狩りに付き合ってよ」
「狩りって……」
「しまパン狩り。そろそろ食わんとわー、死んでしまうから」
急な襲撃に思わず、声にならない声をあげてしまう。
彼女の手首を掴みジタバタと脚も揺らしながら、必死に抵抗する。
「ま、待てって……」
鶴の恩返しとか浦島太郎とか、そんな物語を教えとして育ってきた。話が違うじゃないか。
「動物を救った」ので「殺されました」。そんな物語、国語の教科書には載ってなかったぜ。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。もっと話し合おう」
「で、でも……」
「た、頼む。俺は命の恩人だろ」
その言葉に、彼女はすっと身を引いた。
「命の恩人か……。ま、まあ。そうなんだけどさ」
がっくしうなだれると、こめかみに指を当てためらいの表情を見せる。
勝手なようでいて、言えばわかってくれそうなとこもある。
「だ、だろ。心配して助けたってのに、殺すなんて酷すぎるって」
「うーん……。でもさ、人間に本当の姿を見られた場合、姿を見たその人間を殺すのがケーユンマジムンのシキタリだからよ。人間に見られたってのが一族にバレたら、恐ろしい罰を受けるわけ」
「罰?」
「ふんどしってあるさ。人間の男が履いた、そのふんどしを食わされたり。あれは……地獄。苦くて、口当たりも悪くて、お腹も壊すし……。ああ、想像するだけで不愉快……」
考えるだけで辛いのか、女は眉間にシワを寄せクチをすぼめ、苦悶の表情を浮かべる。
俺はどちらも食べたことがなく、というか食べたことなどあるはずもなく、しまパンとふんどしとの味の細かい違いは知りようもない。
ただ、ふんどしを食わされるのが耐え難い地獄ってのは、そうだろうなと想像はつく。それなら、しまパンを食べる方がまだましだ、うん。
と無理に納得してみる。
「はっ!」
と急に発すると女は目をかっと見開いた。
かつてのふんどし地獄を思い出したのか「やっぱ殺さなきゃ」とつぶやきながらまた、首を絞めようと俺の体にのしかかってくる。
「ちょっと待て、待てって。俺の話も聞いてくれ」
「話……?」
「ああ。そのさ、姿を見た人間を殺すってのはつまり、お前らの存在がバレたらマズいってことだろ。人間にケーユンマジムンという妖怪の存在が知られちゃマズい、だから殺すわけだ。だよな?」
「うん、そうだよ」
「なら、大丈夫だ」
「なんで」
「なにせ、俺は口が堅いから。絶対誰にも言わないよ。今日の出来事は墓場まで持っていく」
というか、言ったところで誰も信じちゃくれないだろう。
まず、妖怪に会ったなんて話をマトモに聞いてくれる人間はごくわずかである。さらにその妖怪がしまパンを食糧として生きている、なんて本気で語り出したら次々と話し相手を失い、家族や親戚からも距離を置かれ、大学受験にも就活にも失敗し、安アパートの腐った畳の上で孤独に人生を終えることになる。これは間違いない。
女はこれみよがしにため息をついて、悩ましげな様子を見せた。
「誰にも言わない、なんて言われてもよ。ただの口約束だからな。信じる根拠もないし」
「こんな出来事、誰に言ったって嘘つき呼ばわりされるだけだよ」
「うーん、そうだなあ……。じゃあさ、殺さんからひとつ、お願いしていいかな」
「お願い?」
「あのさ、お腹すいて仕方ないわけ。だから、狩りに付き合ってよ」
「狩りって……」
「しまパン狩り。そろそろ食わんとわー、死んでしまうから」
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