しまパン食べ放題!

豪家以久男

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1章 ハブたる郁羊

3話

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 妖怪にも人間と同じように、それぞれに名前があるという。

 彼女の名前は狩俣カリマタ郁羊イクヨ。郁羊って下の名前で呼んでね、とにっこり笑った。
 しぶしぶ狩りに付き合うことを承諾したおかげで、幸いなことに郁羊から殺気は削がれていた。ちなみに先ほどアヒルの格好で倒れていたのは、しまパン物色中に体力の限界を迎えての気絶だったらしい。
 そんな郁羊の体力回復を補助するわけだ。
 仕方ない。命には代えられない。
 死ぬくらいなら「しまパン狩り」という奇怪な任務に取り掛かる他ない。

 彼女の名前を紹介したついでに俺の名も。
 流我伎ルガキ萩斗ハギト
 千葉の柏生まれ柏育ち、東柏校に通うK等部の二年生だ。大学生の姉とC等部の妹がいる。
 引っ込み思案というか、コミュニケーション下手というか、陰キャというか、そういったタイプの人種である。おそらく。うちのクラスはやたらと陽気で、きゃぴきゃぴしていて、そんなノリになかなか入り込めない。
 О型なのに。八月生まれだというのに。
 夏は好きだ。休みには、しばらく学校に行かなくていいから。家に籠ってテレビゲームに打ちこめるから。ああ、なんとわかりやすく面白みに欠ける陰キャの生態だろうか。
 えーと、あとはなんだ。女性経験は一切ナシだ。この先もしばらくは。
 以上。

 郁羊の妖怪としての姿が見つかってはマズい。
 動物に変身している姿が見られる分には問題ないが、変身をするのにも気力が必要で、余計な体力は使いたくないという。
 ひとまず、人目につきにくい場所に行かねばならぬ。
 というわけで、俺たちはこそこそと人の出払った宿舎部屋へと戻った。そしてそこから、中庭の男女の歓談をひっそりと眺めるのである。
 森の様子を伺う猟師といっしょだ。ひと狩り行く前に、しまパンを身に纏う「獲物」を見極めるのだ。

 丁寧なことに、郁羊は双眼鏡など用意していた。ジロジロとレンズ越しに中庭を覗いている。
 だがじっくり眺めたところでこんな遠くからじゃ、誰がしまパンを履いているかなどわかるはずがない。いや、近くにいてさえ他人の下着を確認するのは困難極まりないのだ。

「よっしゃ、しまパン履いてる女、見つけたよ」

 郁羊は、満足げニヤついた。
 え……?

「見えた……のか?」

「しまパンはね、視覚だけで見つけるんじゃないよ。感じるんだよ」

「感じる?」

「ほら」

 と郁羊は、自らの頭を指差した。ハイビスカスの真ん中から、やたらと長いめしべが伸びていて、柱頭がピカピカと光っている。
 チョウチンアンコウみたいだ。愉快だ。間抜けだ。

「この双眼鏡とわーの体が呼応しあっていてさ。双眼鏡がしまパン履いてる人をロックオンすると、柱頭が光るわけ。
 でね、見て。光ってるでしょ」

「はあ……」

 知れば知るほど、奇怪な生き物である。妖怪を生き物と言っていいのかわからないけれど。

「それで、誰がしまパンを履いているんだ」

「あの子。男子に囲まれている、男たらしみたいな子、いるでしょ。あれ」

 郁羊の指し示す先には、方々の男子にちょっかいをかけられている、ひとりの綺麗な女子がいた。
 エアリーな金髪をふんわりなびかせている。
 くりっと黒目大きな瞳に、笑窪がまた可愛げで、いっそうに男心をくすぐるのだ。
 男子たちがどうにか関わりたくなる気持ちは、俺も男子のひとりとして、わかる。

 ササ妃咲キサキである。

 去年から同じクラスなので、俺も彼女のことは存じている。愛想がよくて綺麗なので、男子たちにモテるのだ。
 いわゆる、クラスのマドンナってやつだ。
 俺みたいなクラス端っこのフンコロガシの煮っ転がし系男子にさえ、優しく話しかけてくれる天使である。

「笹か」

「知ってるば」

「ああ」

「どうにか、あの男ったらしのしまぱん、掴みとらんといけんさ」

 郁羊はぶつくさ言っている。
 客観的に笹は、そう見えてしまうのだろうか。男ったらしとはひどい言いようだけれど、他の女子の言いように比べればまだマシである。
 スクールカーストトップの 城爾奈ジョウジナ芹南セリナなんて、笹のことをヤリマンだとかビッチ呼ばわりして、全女子グループからはぶこうとしているし。そんな風に扱われるからこそ、笹は余計に男子寄りの環境に位置してしまうわけだ。
 ちなみに俺は城爾奈に「エンドレス童貞」なんて嫌味ったらしく呼ばれたこともあるが、一向に構わない。
 その程度のことで、傷つくことなどあろうものか!

「それで、どうやって笹のしまパンを手に入れるつもりだ。まさか、干してるところを盗むとか?」

「そんなやり方じゃだめだね。いいしまパンを味わうには、極意があるわけさ。
 まずは脱ぎたてであること。脱いでしばらくたったようなしまパンじゃ味も落ちて、食えたもんじゃないからさ。ましてや洗濯後となれば栄養も抜けて、もはや食い物とも言えんやっし」

 言えんやっし、と言われても。
 しまパンについての栄養学など、俺は持ち合わせてないって。

「くわえて、さらに美味しく頂くには、もうひとつ条件がある。
 人間が食べる前に、食材に料理という手間をかけるのとおんなじでね。しまパンを脱ぎ取る前にも、ひと手間が大切なわけ」

「ひと手間って?」

「よりよいしまパンを味わうためには、昂らせるわけさ、本能的に」

「は……?」

「何回も言わんとわからんね?
 要するにさ、しまパンを履いたその人間を本能的に昂らせたところで、パンツを狩り取るわけ。そうすることで、かくは美味なるしまパンを味わえるってこと」

 それってつまり……エロティックな気持ちにさせるってこと?

「そ、そんなことできるのか」

「難しいよ。とくに最近の人間はガードが固くてさ。昂らせるどころか、単純に奪うだけも苦労してさ。今や『ケーユンマジムン』そのものが滅びかけている状況でね。実際、わーも死にかけてたわけだし。
 だからこそこの狩りを、萩斗に手伝ってほしいわけ」

 笹妃咲は俺みたいな「さりげなきロンリー」にも気さくに話しかけてくれる素敵な女子である。
 彼女のパンツを狩り取るなど、嫌われるようなことはしたくない。
 いや、嫌われるだけで済めばまだマシだ。手錠をかけられても仕方ない行為である。ああ……ピーポーピーポーと鼓膜の奥でサイレンがこだまする。
 ましてや女を本能的に昂らせるなど「エンドレス童貞」の烙印を押されたこの俺に、できるはずないでしょう。

「殺されるか狩るか、ふたつにひとつだからね」

 戸惑う俺に釘をさすように、郁羊はひと睨み効かせてきた。

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