しまパン食べ放題!

豪家以久男

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1章 ハブたる郁羊

8話

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 たいそうな出来ごとの余韻がまだ幾分、体内を熱くさせていた。
 笹も、おそらくは同じではないか。彼女のエアリーな髪形は先ほどの乱れによりしなっていて、ほんのりと色気がある。
 昂りを落ちつかせるように、ふたりして、とぼとぼと時間をかけ宿舎への帰路を辿った。まったりと言葉も交わしながら。
 
「ふう、大変な目に合っちゃったね」

「ああ。あれだな、あの、もっと早めにハブひっ捕まえてりゃよかったな」

「うん……でも、萩斗くんのこと、素敵だなって思ったよ」

「そ、そうか。どうして」
 
 ハブから助けたからだろうか。
 すべては、実のところは、こちらから仕掛けたことなのだけど。
 
「わたしに、手を出してこなかったからね」

「手を出す?」

「私が、あんな状態になってもさ。……だってね、男子ってすぐに、手を出してこようとするでしょ」

「えっ」

「わたしにも、隙があるのかな。ちょっと仲良くなれたなって思ったら、そういう関係になろうとするっていうか……」

「手を……出されているのか?」

「う、うん。……あ、でも、大事な部分は守ってるよ」

「大事な部分?」

「……ハブは、カウントに入らないよね?」
 
 伏し目がちに、照れくさそうに問いかけてくる笹に俺は、なんともまあドギマギしてしまう。「そりゃ、な、なあ。まあ、ハブだしな」とか返事に窮して、声も震えてしまって。
 というか、おいっ、男子諸君!
 我が天使になんてことをしやがる。やめてやれっ。
 俺は心の中で一喝する。
 誰が、どんな風に手を出し、どこまでいったんだ。気になる。……気になるけど、聞きづらい話でもあるわけで。
 
「でも、わたしがあんな隙だらけの恥ずかしい状態になっても、萩斗くんは他の男子みたいな、そんな素振りは見せなかったからさ。素敵だなって」

「いや……そりゃ、そうだろ」
 
 とか言いつつ、理性が崩れそうな瞬間は度々あったけれども。
 
「女子にもなんか、疎まれているしね。あざとい女に見えるんだって。芹南ちゃんなんて、ビッチ呼ばわりしてくるでしょ」

「城爾奈の言うことなんて、聞き流しとけよ」
 
 笹にそう返しながら「エンドレス童貞」と称された自分自身にも、言い聞かすわけだ。ってか俺の見立てでは、城爾奈の方こそビッチである。
 
「やっぱり安心して話せるのは、萩斗くんと一舞カズマくんくらいだよ」
 
 一舞とは見た目も仕草もまるで女の子のような、男子である。男子用の制服を着ていなければもはや、女子としか思えない。柔らかいが微かにハスキーな声が、あえて挙げれば残された男子らしさで、とはいえハスキーな声の女子なんてのも多々いるわけで。
 笹の言うように、思い返してみれば彼女は男子にちょっかいをかけられ相手している様子ばかりで、彼女が自ら話しかけるのは俺や一舞だけかもしれない。
 笹が俺に声をかけてくれるのは、彼女の優しさからくるものだと思っていた。一人でばかりいる俺への気遣いではないかと。けれども笹は純粋に、俺と話したがっていたのか。
 マジで?
 ならば、有難いことだ。
 
「だからね」
 と笹はちらりと目を合わせ、はにかんだ。
「これからもよろしくね、萩斗くん」

 安心して話せる、というのは男として見られていない、ということかもしれない。
 でも、構わないのだ。笹の天使の頬笑みを向けられるのであれば。
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