14 / 19
第13話 血中魔力濃度の確認と、魅了にかかった人リストのチェック
しおりを挟む
次の日になって、魔道具が直ったというので、アイラの血液に含まれる検査が行われた。
今日の担当は、ディックとミィ。
「血中魔力濃度は魔力量の割には普通だねぇ」
数値をみながら、ディックはうーん、と唸る。数値を覗き込んだミィも、そうねぇ、と頷く。
「まあ、自分の血液や体液で魔法を使うっていうのは本当に特殊な例だもんねぇ。あ、でも魔法使ってる時だとまた違うのかな。今日はもう血をもらっちゃったから、今度また改めて魔法使用時の血液取らせてもらってもいい?」
「今でも大丈夫ですけれど…」
血を取られたといっても、ほんの少しの傷を作ってポタポタと数滴垂らしただけだ。その傷も、ミィがかけてくれた治癒魔法でもう治っている。
アイラはそういうが、だめだめ、とディックは首を横に振った。
「人の体に傷をつける実験を、一日に何度もするなんて、非人道的なことは、僕たちの流儀に反します」
でも、私は罪人で、それを償うためにここにいるのだから、少しくらい…と口に出す前に顔に出ていたらしい。
ミィが「アイラちゃん」と少し低い声で呼んだ。
「あなたが罪を犯したという事実に基づいてここにいるということと、あなたを人として扱わないということは、別の事よ。私たち魔法研究員は、自分のため、そして人のために研究をしているの。誰かを害するためじゃなくて、守るために。…その、ハッスルしちゃってびっくりさせちゃうことは、あるだろうけど」
最後は少しおちゃらけてミィが笑って、ディックも頷く。
腕のアンクレットの宝石は、白いままだ。
ちら、とそれを見たアイラに、ディックとミィは心の中だけで苦笑するが、その確認でアイラの心が落ち着くなら、必要なことだろう。
「さて、じゃあ今からの時間は、魅了にかかった人たちの共通項について、考えていきたいと思います!」
そう言って、ディックは、彼が持っていた大きなかばんから、紙の束を取り出した。「それは…?」
「現時点で確認できている、アイラの魅了にかかった人たちのリストだよ」
一枚一人だとしても、その紙の束の厚みに、アイラはゾッとした。これだけの人の人格を、私は狂わせていたのか。
「すごい数に思えるかもしれないけど、これは、魅了のかかり具合がすごく軽度だった人も含めてるから、そこまで引かなくていいよ。隔離が必要だったくらい重度の症状だった人のはね、これくらい」
あらかじめ分けてあったのだろう、ディックが紙の束の一部を机に置いた。
それでも、そこそこの厚みがある。
自分で把握してるだけで、学園で八組、両親が亡くなるまでに一組の婚約破棄を引き起こしているのだ。当然と言えば当然なのかもしれない。
「でも、不思議なのよねぇ」
ミィが言う。
「アイラは、最初は優しくしてくれた人が自分を崇拝していく、って言っていたじゃない?」
「そう、ですね」
「でもね、この数。特に軽度だった人たちなんだけど、アイラとの接点がない人も多いのよ」
アイラは目を開く。
「ちょっとだけ、見せてもらっても大丈夫ですか?」
「もちろん。一緒に確認するために持ってきたからね」
アイラはまず、隔離されるほど重度だった、という人の束をぱらぱらとめくる。
そこにはビアンカの婚約者、テオをはじめ、確かに自分に「愛している」と言ってきた人の名前が多く書いてあった。孤児院時代の人たちもいた。
次に、中度がこれ、とディックに渡された紙の束を捲る。アイラと同じクラスだったり、寮が同じだったり。挨拶を交わせる距離にいたけれどそこまで関わりのなかった、辛うじて名前はなんとなく知っている。そう言う人たちがいた。
「じゃあ、最後は軽度な人たちのぶんだね」
「ありがとうございます」
ぱらり、とめくる。
書いてある簡易プロフィールのおかげで同じ学園に通っていた、もしくはアイラが時々出かけたことのある町や場所の近くに住んでいる、といったことがわかる程度の、名前も顔もわからない人たちがいた。
「アイラが行ったことのある場所、という共通項はあるんだけどさ」
ディックが言う。
「たとえば学園ね。アイラの寮の隣のひと、シンシア嬢って覚えてる?」
「はい、よく気にかけてくださっていたので」
「そう。アイラとよく喋っていたはずの彼女、かかってないんだよ。魅了に」
「え?」
そういえば、シンシアの名前はなかった、とアイラは紙の束へ視線を落とす。
「同じく、同じクラスの隣の席、オルガスくん。彼もかかってない。つまり、アイラと喋ったことがある、とか、常に近くにいる、ということが発動条件ではないんだ。たぶんね」
「シンシア様や、オルガス様が魔封じの何かを持っていたとかではなく、ですか?」
アイラの疑問に、ディックとミィが同時に頷いた。
「そこ、僕らも気になったから調べて見たけど、彼女たちは魔封じの加護も持ってないし、魔封じに関する魔道具も持ってない。魅了に関係する魔法を持つ祖先や親族がいるわけでもなかった」
いつの間にきたのか、突然後ろから声がして振り向くと、そこにはアルトが立っていた。
「だからさ、僕思うんだ。アイラの魅了って、常に無意識に発動してるものじゃなくて、無意識は無意識でもやっぱり発動条件があるんじゃないかなって!」
キラキラした目をしながら急に近づかれて、アイラはびくり、と体をそらした。
「アルト様、今日は缶詰めの予定じゃなかったんですか?」
「ふふーん!僕、実は有能だからね。ちゃんと全部終わらせてきたよ!ゼクトからもちゃーんと許可もらってここにいます!」
アルトが胸を張る。
ゼクト、というのは魔法庁の次長、いつもアルト様に書類仕事押し付けられてる方よ、とミィがアイラにこっそり補足した。
「だってさ、ずるいじゃない。僕がアイラの魅了を調べることが国のためになるって陛下説得して研究室に呼んだのに、基礎研究とか聞き取りの部分、僕以外で進めちゃってさ。僕、加護の「ごめんなさい」のあたりしか関われてないでしょ」
いや、結構顔出しに来てた気がするよというディックの言葉は無視して、アルトはアイラに向き直す。
「で、さっきの話だけど。僕の仮説聞いてくれない?」
「は、はい」
アイラが頷いたのを確認してから、アルトにニコニコ続けた。
今日の担当は、ディックとミィ。
「血中魔力濃度は魔力量の割には普通だねぇ」
数値をみながら、ディックはうーん、と唸る。数値を覗き込んだミィも、そうねぇ、と頷く。
「まあ、自分の血液や体液で魔法を使うっていうのは本当に特殊な例だもんねぇ。あ、でも魔法使ってる時だとまた違うのかな。今日はもう血をもらっちゃったから、今度また改めて魔法使用時の血液取らせてもらってもいい?」
「今でも大丈夫ですけれど…」
血を取られたといっても、ほんの少しの傷を作ってポタポタと数滴垂らしただけだ。その傷も、ミィがかけてくれた治癒魔法でもう治っている。
アイラはそういうが、だめだめ、とディックは首を横に振った。
「人の体に傷をつける実験を、一日に何度もするなんて、非人道的なことは、僕たちの流儀に反します」
でも、私は罪人で、それを償うためにここにいるのだから、少しくらい…と口に出す前に顔に出ていたらしい。
ミィが「アイラちゃん」と少し低い声で呼んだ。
「あなたが罪を犯したという事実に基づいてここにいるということと、あなたを人として扱わないということは、別の事よ。私たち魔法研究員は、自分のため、そして人のために研究をしているの。誰かを害するためじゃなくて、守るために。…その、ハッスルしちゃってびっくりさせちゃうことは、あるだろうけど」
最後は少しおちゃらけてミィが笑って、ディックも頷く。
腕のアンクレットの宝石は、白いままだ。
ちら、とそれを見たアイラに、ディックとミィは心の中だけで苦笑するが、その確認でアイラの心が落ち着くなら、必要なことだろう。
「さて、じゃあ今からの時間は、魅了にかかった人たちの共通項について、考えていきたいと思います!」
そう言って、ディックは、彼が持っていた大きなかばんから、紙の束を取り出した。「それは…?」
「現時点で確認できている、アイラの魅了にかかった人たちのリストだよ」
一枚一人だとしても、その紙の束の厚みに、アイラはゾッとした。これだけの人の人格を、私は狂わせていたのか。
「すごい数に思えるかもしれないけど、これは、魅了のかかり具合がすごく軽度だった人も含めてるから、そこまで引かなくていいよ。隔離が必要だったくらい重度の症状だった人のはね、これくらい」
あらかじめ分けてあったのだろう、ディックが紙の束の一部を机に置いた。
それでも、そこそこの厚みがある。
自分で把握してるだけで、学園で八組、両親が亡くなるまでに一組の婚約破棄を引き起こしているのだ。当然と言えば当然なのかもしれない。
「でも、不思議なのよねぇ」
ミィが言う。
「アイラは、最初は優しくしてくれた人が自分を崇拝していく、って言っていたじゃない?」
「そう、ですね」
「でもね、この数。特に軽度だった人たちなんだけど、アイラとの接点がない人も多いのよ」
アイラは目を開く。
「ちょっとだけ、見せてもらっても大丈夫ですか?」
「もちろん。一緒に確認するために持ってきたからね」
アイラはまず、隔離されるほど重度だった、という人の束をぱらぱらとめくる。
そこにはビアンカの婚約者、テオをはじめ、確かに自分に「愛している」と言ってきた人の名前が多く書いてあった。孤児院時代の人たちもいた。
次に、中度がこれ、とディックに渡された紙の束を捲る。アイラと同じクラスだったり、寮が同じだったり。挨拶を交わせる距離にいたけれどそこまで関わりのなかった、辛うじて名前はなんとなく知っている。そう言う人たちがいた。
「じゃあ、最後は軽度な人たちのぶんだね」
「ありがとうございます」
ぱらり、とめくる。
書いてある簡易プロフィールのおかげで同じ学園に通っていた、もしくはアイラが時々出かけたことのある町や場所の近くに住んでいる、といったことがわかる程度の、名前も顔もわからない人たちがいた。
「アイラが行ったことのある場所、という共通項はあるんだけどさ」
ディックが言う。
「たとえば学園ね。アイラの寮の隣のひと、シンシア嬢って覚えてる?」
「はい、よく気にかけてくださっていたので」
「そう。アイラとよく喋っていたはずの彼女、かかってないんだよ。魅了に」
「え?」
そういえば、シンシアの名前はなかった、とアイラは紙の束へ視線を落とす。
「同じく、同じクラスの隣の席、オルガスくん。彼もかかってない。つまり、アイラと喋ったことがある、とか、常に近くにいる、ということが発動条件ではないんだ。たぶんね」
「シンシア様や、オルガス様が魔封じの何かを持っていたとかではなく、ですか?」
アイラの疑問に、ディックとミィが同時に頷いた。
「そこ、僕らも気になったから調べて見たけど、彼女たちは魔封じの加護も持ってないし、魔封じに関する魔道具も持ってない。魅了に関係する魔法を持つ祖先や親族がいるわけでもなかった」
いつの間にきたのか、突然後ろから声がして振り向くと、そこにはアルトが立っていた。
「だからさ、僕思うんだ。アイラの魅了って、常に無意識に発動してるものじゃなくて、無意識は無意識でもやっぱり発動条件があるんじゃないかなって!」
キラキラした目をしながら急に近づかれて、アイラはびくり、と体をそらした。
「アルト様、今日は缶詰めの予定じゃなかったんですか?」
「ふふーん!僕、実は有能だからね。ちゃんと全部終わらせてきたよ!ゼクトからもちゃーんと許可もらってここにいます!」
アルトが胸を張る。
ゼクト、というのは魔法庁の次長、いつもアルト様に書類仕事押し付けられてる方よ、とミィがアイラにこっそり補足した。
「だってさ、ずるいじゃない。僕がアイラの魅了を調べることが国のためになるって陛下説得して研究室に呼んだのに、基礎研究とか聞き取りの部分、僕以外で進めちゃってさ。僕、加護の「ごめんなさい」のあたりしか関われてないでしょ」
いや、結構顔出しに来てた気がするよというディックの言葉は無視して、アルトはアイラに向き直す。
「で、さっきの話だけど。僕の仮説聞いてくれない?」
「は、はい」
アイラが頷いたのを確認してから、アルトにニコニコ続けた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界召喚されたアラサー聖女、王弟の愛人になるそうです
籠の中のうさぎ
恋愛
日々の生活に疲れたOL如月茉莉は、帰宅ラッシュの時間から大幅にずれた電車の中でつぶやいた。
「はー、何もかも投げだしたぁい……」
直後電車の座席部分が光輝き、気づけば見知らぬ異世界に聖女として召喚されていた。
十六歳の王子と結婚?未成年淫行罪というものがありまして。
王様の側妃?三十年間一夫一妻の国で生きてきたので、それもちょっと……。
聖女の後ろ盾となる大義名分が欲しい王家と、王家の一員になるのは荷が勝ちすぎるので遠慮したい茉莉。
そんな中、王弟陛下が名案と言わんばかりに声をあげた。
「では、私の愛人はいかがでしょう」
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される
柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。
だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。
聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。
胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。
「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」
けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」
噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情――
一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。
昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど
睦月はむ
恋愛
剣と魔法の国オルランディア王国。坂下莉愛は知らぬ間に神薙として転移し、一方的にその使命を知らされた。
そこは東西南北4つの大陸からなる世界。各大陸には一人ずつ聖女がいるものの、リアが降りた東大陸だけは諸事情あって聖女がおらず、代わりに神薙がいた。
予期せぬ転移にショックを受けるリア。神薙はその職務上の理由から一妻多夫を認められており、王国は大々的にリアの夫を募集する。しかし一人だけ選ぶつもりのリアと、多くの夫を持たせたい王との思惑は初めからすれ違っていた。
リアが真実の愛を見つける異世界恋愛ファンタジー。
基本まったり時々シリアスな超長編です。複数のパースペクティブで書いています。
気に入って頂けましたら、お気に入り登録etc.で応援を頂けますと幸いです。
連載中のサイトは下記4か所です
・note(メンバー限定先読み他)
・アルファポリス
・カクヨム
・小説家になろう
※最新の更新情報などは下記のサイトで発信しています。
https://note.com/mutsukihamu
※表紙などで使われている画像は、特に記載がない場合PixAIにて作成しています
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
聖女だと呼び出しておいて無能ですか?〜捨てられた私は魔王様に溺愛される〜
みおな
恋愛
学校帰りにいきなり眩い光に包まれて連れて来られたのは異世界でした。
王子はこんなちんちくりんは聖女ではないと言い放ち、私を王宮から追い出しました。
元の世界に帰る方法は、魔王の持つ帰還の指輪が必要と言われ、途方にくれた私の前に現れたのは、美形の魔王でした。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる