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第14話 アルトの仮説
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「アイラって、色々魔法使えるじゃない?」
「そう、ですね。得意なのは治癒魔法になりますが…」
「結構魔法組み合わせたりとかもするじゃない?」
「ええと…?」
「水系統の魔法に火の魔法混ぜてお風呂に使ったりとか」
え、なにそれおもしろ、と呟いたのはミィだ。
「水系統と風系統混ぜてシャワーにして花壇の水やりしたりとか」
ま、魔力の無駄遣い、と呟いたのはディック。
普通はしないことなのか、と顔に出ていたアイラに、アルトが笑いながら続ける。
「複数の魔法の系統を組み合わせること自体は珍しくはないんだ。ただ、それって一般的に2倍から3倍の魔力がいるって言われてる」
「そんなに、ですか…」
アイラは魔力ぎれ、というものを感じたことがない。どのタイミングで増えたのかはわからないが、現時点では底なしと言える魔力量を持っていることは、先日の検査で解っているから、それが理由なのだろう。
有り余る魔力があるから、そして、本人は気づいていないがたまたま高いセンスを持っていたから、魔法を使うことは、彼女にとって呼吸するのとあまり変わらなかった。
「だから、その複数掛け合わせの魔法の中でたまたま魅了の効果を持つものが出来上がってしまった。けれど、メインの効果が魅了ではなかったから気づかなかった…というのが一つ目の仮説」
アルトは非常に楽しそうで、声が弾んでいる。
「もう一つはね、治癒魔法に魅了が付随したたのではないか、説!」
「治癒魔法に、ですか?」
「そう!これはさっき思いついたんだけどね。ほら、アイラの治癒魔法の効果が、通常より高いって話したの覚えてる?」
そういえば、それについても調べてみたい!と宣言されていた、と思い出して、アイラは頷く。
「魔法ってのはイメージが大切ってのは、魔法を習う時に最初に教えられると思うんだけど…、ああ、アイラも教えてもらったんだね、よかった。
で、そのイメージと魔力の量と系統のコントロールがうまく噛み合うことで魔法が発動する。だから、さっき言ったうっかり魅了の効果が付随しちゃった…というのはまあ、はっきり言って眉唾だし、今言ってる治癒魔法に魅了が付随したのではないかっていうのも眉唾ではあるんだけど、研究において!常識なんてものは!邪魔でしかなーい!」
「アルト様、話を続けて。アイラが困ってるよ」
ディックがアルトの肩をぽんぽんと叩いた。
あはは、とアルトは笑って続ける。
「そうだね、話がずれちゃった。そうそう、イメージなんだよ。上級魔法になればなるほど、明確なイメージ、治癒魔法であれば怪我や病気が「治る」イメージが大事になるよね。でも治癒魔法ってさ、炎や水を操るよりもずっと難しいんだ。他者の体を操るようなものだからね。だから、上級治癒魔法において、想定以上の効果が出ることは、まずないと言っていい」
「そうなんですか」
「そう。だからこそ、相手の体を操るために、相手を強制的にいうことを聞かせることができる、精神的な関与があるのではないか。逆にいうと、魅了をかけると治癒魔法の効果が高まるのではないか…みたいな仮説。どう、面白くない?」
面白いかと聞かれてもアイラは反応に困るだけだったが、ミィやディックがそれぞれブツブツと呟きながら考え事を始めたので、彼らに取っては面白い発想だったのかもしれない。
「まあ、そういうわけで、この紙の束の人たちにアイラの魔法を見たことがあるか、見たことがあるなら、それがどんな魔法だったかという聞き取り調査をしたいなー、って思ってるんだよね。とりあえずテオに聞いたら、治癒魔法かけてもらったことあるって言ってたよ」
「あ、はい。そうですね。模擬試合の際に、たしか一度」
そういえば、その後だったかもしれない。テオがアイラに話しかけるようになったのは。と呟くと、アルトはニヤァ、と笑った。
「うふ、うふふふ、この仮説、いいとこいってるんじゃない?これが証明できたら、アイラを軟禁する必要なくなるね!」
アルトは嬉しそうに、じゃあ、聞き取りの段取り組んでみるー!と出て行ったが、アイラの心はぎゅう、と萎んだ。
治癒魔法と魅了魔法が結びついているのだとしたら、アイラにはもう、『癒し手』としての未来は望めない。
「テオ、ちょっといいかな」
「カイト兄上⁉︎」
魅了が解けたあと、溜まっていた執務に追われていたテオのところにやってきたのは、第一王子、カイトだった。
穏やかなこの兄がテオはとても好きだが、とある事情から王位継承権を持たないこの兄は普段は王宮に居ない。そして今も、彼の姿は少し透けている。おそらく、魔法で映像だけをテオのそばに飛ばしているのだろう。そういうことができるだけの技量を、カイトは持っている。
とにかく、いないはずの人に突然声をかけられたテオが、少し透けた愛嬌のあるそばかすの顔を見ながら口をぱくぱくさせていると、カイトが苦笑しながら続けた。
「この間捕まったっていう聖女のことなんだけど」
「!」
「いま、どこ預かりになってる?テオって確か魅了かけられた当事者だろう?捕まえたのがビアンカ嬢だとも聞いているし…。あんまり公にせずに会いたいのだけど、何か知らない?」
カイトが聖女、アイラに会いたいということは、もしかして、とテオは眉を寄せる。
「女神様より、なにか罰が…?」
テオの言葉には何も答えず、カイトは知らないならいいんだ、と言った。
兄とアイラを会わせていいのか、いけないのか、テオには判断がつかない。少し考えてから、ビアンカに聞いてみます、と答えた。
カイトは、わかったありがとう。テオの部屋の鏡に通信繋いでおくから、何かわかったらそこに声かけて、とだけいってふわり、と消える。
カイトの加護は、女神の使いだ。神官になることが定められている特殊な加護。
第一王子にもかかわらず王位継承権がないのは、その加護のためだ。
テオは自分が魅了にかけられた側。アイラに対していい感情はない。
だが、ビアンカの話を聞いていると、どうにも彼女の意思で誰かを陥れようとしたわけではない、というふうにも聞いている。
もし、アイラの魅了を、女神が罰しようとしているのなら。
いつの間にかぎゅう、と握りしめていた掌をゆっくりと開いて、深く呼吸をする。
「僕一人で考えても、いい考えがでるわけないよね」
カイトに言った通り、まずはビアンカに相談してみよう。そう決めて、テオはビアンカに向けて、魔法の伝書鳩を飛ばした。
「そう、ですね。得意なのは治癒魔法になりますが…」
「結構魔法組み合わせたりとかもするじゃない?」
「ええと…?」
「水系統の魔法に火の魔法混ぜてお風呂に使ったりとか」
え、なにそれおもしろ、と呟いたのはミィだ。
「水系統と風系統混ぜてシャワーにして花壇の水やりしたりとか」
ま、魔力の無駄遣い、と呟いたのはディック。
普通はしないことなのか、と顔に出ていたアイラに、アルトが笑いながら続ける。
「複数の魔法の系統を組み合わせること自体は珍しくはないんだ。ただ、それって一般的に2倍から3倍の魔力がいるって言われてる」
「そんなに、ですか…」
アイラは魔力ぎれ、というものを感じたことがない。どのタイミングで増えたのかはわからないが、現時点では底なしと言える魔力量を持っていることは、先日の検査で解っているから、それが理由なのだろう。
有り余る魔力があるから、そして、本人は気づいていないがたまたま高いセンスを持っていたから、魔法を使うことは、彼女にとって呼吸するのとあまり変わらなかった。
「だから、その複数掛け合わせの魔法の中でたまたま魅了の効果を持つものが出来上がってしまった。けれど、メインの効果が魅了ではなかったから気づかなかった…というのが一つ目の仮説」
アルトは非常に楽しそうで、声が弾んでいる。
「もう一つはね、治癒魔法に魅了が付随したたのではないか、説!」
「治癒魔法に、ですか?」
「そう!これはさっき思いついたんだけどね。ほら、アイラの治癒魔法の効果が、通常より高いって話したの覚えてる?」
そういえば、それについても調べてみたい!と宣言されていた、と思い出して、アイラは頷く。
「魔法ってのはイメージが大切ってのは、魔法を習う時に最初に教えられると思うんだけど…、ああ、アイラも教えてもらったんだね、よかった。
で、そのイメージと魔力の量と系統のコントロールがうまく噛み合うことで魔法が発動する。だから、さっき言ったうっかり魅了の効果が付随しちゃった…というのはまあ、はっきり言って眉唾だし、今言ってる治癒魔法に魅了が付随したのではないかっていうのも眉唾ではあるんだけど、研究において!常識なんてものは!邪魔でしかなーい!」
「アルト様、話を続けて。アイラが困ってるよ」
ディックがアルトの肩をぽんぽんと叩いた。
あはは、とアルトは笑って続ける。
「そうだね、話がずれちゃった。そうそう、イメージなんだよ。上級魔法になればなるほど、明確なイメージ、治癒魔法であれば怪我や病気が「治る」イメージが大事になるよね。でも治癒魔法ってさ、炎や水を操るよりもずっと難しいんだ。他者の体を操るようなものだからね。だから、上級治癒魔法において、想定以上の効果が出ることは、まずないと言っていい」
「そうなんですか」
「そう。だからこそ、相手の体を操るために、相手を強制的にいうことを聞かせることができる、精神的な関与があるのではないか。逆にいうと、魅了をかけると治癒魔法の効果が高まるのではないか…みたいな仮説。どう、面白くない?」
面白いかと聞かれてもアイラは反応に困るだけだったが、ミィやディックがそれぞれブツブツと呟きながら考え事を始めたので、彼らに取っては面白い発想だったのかもしれない。
「まあ、そういうわけで、この紙の束の人たちにアイラの魔法を見たことがあるか、見たことがあるなら、それがどんな魔法だったかという聞き取り調査をしたいなー、って思ってるんだよね。とりあえずテオに聞いたら、治癒魔法かけてもらったことあるって言ってたよ」
「あ、はい。そうですね。模擬試合の際に、たしか一度」
そういえば、その後だったかもしれない。テオがアイラに話しかけるようになったのは。と呟くと、アルトはニヤァ、と笑った。
「うふ、うふふふ、この仮説、いいとこいってるんじゃない?これが証明できたら、アイラを軟禁する必要なくなるね!」
アルトは嬉しそうに、じゃあ、聞き取りの段取り組んでみるー!と出て行ったが、アイラの心はぎゅう、と萎んだ。
治癒魔法と魅了魔法が結びついているのだとしたら、アイラにはもう、『癒し手』としての未来は望めない。
「テオ、ちょっといいかな」
「カイト兄上⁉︎」
魅了が解けたあと、溜まっていた執務に追われていたテオのところにやってきたのは、第一王子、カイトだった。
穏やかなこの兄がテオはとても好きだが、とある事情から王位継承権を持たないこの兄は普段は王宮に居ない。そして今も、彼の姿は少し透けている。おそらく、魔法で映像だけをテオのそばに飛ばしているのだろう。そういうことができるだけの技量を、カイトは持っている。
とにかく、いないはずの人に突然声をかけられたテオが、少し透けた愛嬌のあるそばかすの顔を見ながら口をぱくぱくさせていると、カイトが苦笑しながら続けた。
「この間捕まったっていう聖女のことなんだけど」
「!」
「いま、どこ預かりになってる?テオって確か魅了かけられた当事者だろう?捕まえたのがビアンカ嬢だとも聞いているし…。あんまり公にせずに会いたいのだけど、何か知らない?」
カイトが聖女、アイラに会いたいということは、もしかして、とテオは眉を寄せる。
「女神様より、なにか罰が…?」
テオの言葉には何も答えず、カイトは知らないならいいんだ、と言った。
兄とアイラを会わせていいのか、いけないのか、テオには判断がつかない。少し考えてから、ビアンカに聞いてみます、と答えた。
カイトは、わかったありがとう。テオの部屋の鏡に通信繋いでおくから、何かわかったらそこに声かけて、とだけいってふわり、と消える。
カイトの加護は、女神の使いだ。神官になることが定められている特殊な加護。
第一王子にもかかわらず王位継承権がないのは、その加護のためだ。
テオは自分が魅了にかけられた側。アイラに対していい感情はない。
だが、ビアンカの話を聞いていると、どうにも彼女の意思で誰かを陥れようとしたわけではない、というふうにも聞いている。
もし、アイラの魅了を、女神が罰しようとしているのなら。
いつの間にかぎゅう、と握りしめていた掌をゆっくりと開いて、深く呼吸をする。
「僕一人で考えても、いい考えがでるわけないよね」
カイトに言った通り、まずはビアンカに相談してみよう。そう決めて、テオはビアンカに向けて、魔法の伝書鳩を飛ばした。
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