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第16話 レッツゴー神殿!
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そして、出発の朝である。
「本当ですか?」
「ええ。アイラが嫌じゃないのなら」
ビアンカが仕事や学業を調整して、一緒に来るというのを当日聞いて、アイラは申し訳ない気持ちと、心強い気持ちで揺れる。アンクレットは白いまま。そして、ビアンカをはじめ、一緒に神殿へ向かう、ミィ、トール、アルトも何度も見てきたあの「アイラの話を聞かないアイラを好きな人」の目はしていない。
「…ご迷惑だとは思うのですけれど」
「なんですか」
「一緒に来ていただけると、心強い、です」
アイラのその本音に、ビアンカはにこり、と微笑んだ。それを見てアルトが「うわ」と声をだす。
「そんな顔初めて見たけど、ビアンカ」
「テオ様には見せてます」
「ビアンカの惚気も初めて聞いたよ…」
二人のやりとりに、ふわり、とアイラの頬が緩む。
アイラがここ数日で、笑えることが増えた、というのは研究メンバーのなかだけでの共通認識だ。ただそれを本人に言うと恐縮してまた暗い表情に戻るだろうというのも共通認識である。
研究メンバーはみんな、アイラのことを尊重していた。時々、暴走するように自身の研究について語り出すけれど、アイラにはそれすら心地よい。
私は罪人なのにこんなに優しくしてもらうなんて、という気持ちがいつだって覗いてくるが、それでも、自分自身を蔑ろにされない好意というのが、こんなに安心するものだと、アイラは久しぶりに実感できていた。
「じゃあ、確認として、アイラにもう一度伝えるね!」
アルトの明るい声が研究室に響く。
「移動手段は馬車。ビアンカが魔封じを施しているやつです!目的地は、山の上にある本神殿。そこの奥の部屋にカイト兄上が待ってるので、そこでアイラの加護について話を聞きます。
通信魔法でちょっと話をしたんだけど、盗聴される可能性がある場所では加護の話は基本しないというのが神殿の決まりらしいので、僕もまだ詳しいことは全然知りません。
到着まで結構な時間がかかるので、その間のアイラのフォローは主にビアンカとミィが、護衛がトールと僕になります。
普通なら騎士団とかが護衛につくんだけど、魔封じの加護の関係でこういう少数精鋭での移動になりました。でも安心してね。トールはなんで研究員やってんの?ってくらい剣の腕がたつし、僕とビアンカは魔法で防衛も応戦もできる。
魅了の発動条件が魔法かもしれないという状況だから基本的に君に魔法を使わせるつもりはないけど、アイラもいざとなれば戦える、と判断してるけど、いいよね?」
アイラは頷く。
癒し手としてだけじゃない。
魔法は得意なのだから、魅了のことが気がかりではあるが、攻撃や防御の魔法は使用可能だ。ミィは戦闘能力は低いらしいが、治癒の魔法は使えるのだという。
「向こうに何泊するかは未定だけど、多分2泊くらいかなー、と思ってます。以上!」
アルトが、そう言い切ってから、「じゃ、最後に加護調べる魔道具をもう一回使っておこうか!」と言うのでアイラは頷いて魔道具に指を入れた。
映し出される加護はやはり、「ごめんなさい」のままだった。
馬車に揺られていると、あっという間に山道へ入る。
アルト曰く、本神殿は山の上、と言っていたが、そこに向かうまでの道は険しくはなくともかなり遠回りなのだそうだ。
なんでも、神官の修行も兼ねているらしい。長く単調な山道を登ことで、自分の心と向き合うために必要な距離だという。もちろん、神官以外が馬車を使うことは珍しいことでもない。
「そういえばさ」
アルトが持ち込んだ資料をぺらり、とめくりながら呟いた。トールは行者をして、ミィはその隣にいるため、馬車の中にはアルトとビアンカ、アイラの三人だ。
「魅了魔法にかかった人たちが、アイラの魔法を見たことがあるか、という調査を進めているんだけど、やっぱり治癒魔法がキーっぽいんだよねぇ」
「そう、ですか」
アイラの声が沈んだことに気づいているのか気付いていないのか、アルトは続ける。
「うん。まだ重度だった人たちにしか、ちゃんと聞き取りできてないんだけどね。上級初級は問わず、アイラに治癒魔法をかけられた、もしくはそのすぐそばにいた、ってパターンみたい」
やはり自分には、癒し手になる道は、資格はないのだ、と思うと悲しい。
そこまで考えてから、自分が未来を強く希望している事実がアイラは恥ずかしくなった。
自分の意思ではなかったのは事実でも、人の人生を狂わせたのも事実なのだ。そんな私が自分の幸せを考えるなんて、と。
「治癒魔法と魅了がセットなのであれば、アイラに相手を魅了する強い意志がなかった、という証明にもなるのではないですか?」
「うーん、そこは難しいところだよね。逆に、治癒にかこつけて魅了を広めた、という言葉に対抗する強い理由が見当たらないから」
アイラの意思を、見えないものを証明するのは難しい。
アルトが作っている「うそみっけ」などの魔道具はその一助にはなるだろうが、それらの魔道具は、声や心拍などを元に嘘を見抜く。魔力を感知するものではないため、精度は完全ではないのだ。
アルトとビアンカが唸ったとき、がたん、と馬車が大きく揺れた。
「本当ですか?」
「ええ。アイラが嫌じゃないのなら」
ビアンカが仕事や学業を調整して、一緒に来るというのを当日聞いて、アイラは申し訳ない気持ちと、心強い気持ちで揺れる。アンクレットは白いまま。そして、ビアンカをはじめ、一緒に神殿へ向かう、ミィ、トール、アルトも何度も見てきたあの「アイラの話を聞かないアイラを好きな人」の目はしていない。
「…ご迷惑だとは思うのですけれど」
「なんですか」
「一緒に来ていただけると、心強い、です」
アイラのその本音に、ビアンカはにこり、と微笑んだ。それを見てアルトが「うわ」と声をだす。
「そんな顔初めて見たけど、ビアンカ」
「テオ様には見せてます」
「ビアンカの惚気も初めて聞いたよ…」
二人のやりとりに、ふわり、とアイラの頬が緩む。
アイラがここ数日で、笑えることが増えた、というのは研究メンバーのなかだけでの共通認識だ。ただそれを本人に言うと恐縮してまた暗い表情に戻るだろうというのも共通認識である。
研究メンバーはみんな、アイラのことを尊重していた。時々、暴走するように自身の研究について語り出すけれど、アイラにはそれすら心地よい。
私は罪人なのにこんなに優しくしてもらうなんて、という気持ちがいつだって覗いてくるが、それでも、自分自身を蔑ろにされない好意というのが、こんなに安心するものだと、アイラは久しぶりに実感できていた。
「じゃあ、確認として、アイラにもう一度伝えるね!」
アルトの明るい声が研究室に響く。
「移動手段は馬車。ビアンカが魔封じを施しているやつです!目的地は、山の上にある本神殿。そこの奥の部屋にカイト兄上が待ってるので、そこでアイラの加護について話を聞きます。
通信魔法でちょっと話をしたんだけど、盗聴される可能性がある場所では加護の話は基本しないというのが神殿の決まりらしいので、僕もまだ詳しいことは全然知りません。
到着まで結構な時間がかかるので、その間のアイラのフォローは主にビアンカとミィが、護衛がトールと僕になります。
普通なら騎士団とかが護衛につくんだけど、魔封じの加護の関係でこういう少数精鋭での移動になりました。でも安心してね。トールはなんで研究員やってんの?ってくらい剣の腕がたつし、僕とビアンカは魔法で防衛も応戦もできる。
魅了の発動条件が魔法かもしれないという状況だから基本的に君に魔法を使わせるつもりはないけど、アイラもいざとなれば戦える、と判断してるけど、いいよね?」
アイラは頷く。
癒し手としてだけじゃない。
魔法は得意なのだから、魅了のことが気がかりではあるが、攻撃や防御の魔法は使用可能だ。ミィは戦闘能力は低いらしいが、治癒の魔法は使えるのだという。
「向こうに何泊するかは未定だけど、多分2泊くらいかなー、と思ってます。以上!」
アルトが、そう言い切ってから、「じゃ、最後に加護調べる魔道具をもう一回使っておこうか!」と言うのでアイラは頷いて魔道具に指を入れた。
映し出される加護はやはり、「ごめんなさい」のままだった。
馬車に揺られていると、あっという間に山道へ入る。
アルト曰く、本神殿は山の上、と言っていたが、そこに向かうまでの道は険しくはなくともかなり遠回りなのだそうだ。
なんでも、神官の修行も兼ねているらしい。長く単調な山道を登ことで、自分の心と向き合うために必要な距離だという。もちろん、神官以外が馬車を使うことは珍しいことでもない。
「そういえばさ」
アルトが持ち込んだ資料をぺらり、とめくりながら呟いた。トールは行者をして、ミィはその隣にいるため、馬車の中にはアルトとビアンカ、アイラの三人だ。
「魅了魔法にかかった人たちが、アイラの魔法を見たことがあるか、という調査を進めているんだけど、やっぱり治癒魔法がキーっぽいんだよねぇ」
「そう、ですか」
アイラの声が沈んだことに気づいているのか気付いていないのか、アルトは続ける。
「うん。まだ重度だった人たちにしか、ちゃんと聞き取りできてないんだけどね。上級初級は問わず、アイラに治癒魔法をかけられた、もしくはそのすぐそばにいた、ってパターンみたい」
やはり自分には、癒し手になる道は、資格はないのだ、と思うと悲しい。
そこまで考えてから、自分が未来を強く希望している事実がアイラは恥ずかしくなった。
自分の意思ではなかったのは事実でも、人の人生を狂わせたのも事実なのだ。そんな私が自分の幸せを考えるなんて、と。
「治癒魔法と魅了がセットなのであれば、アイラに相手を魅了する強い意志がなかった、という証明にもなるのではないですか?」
「うーん、そこは難しいところだよね。逆に、治癒にかこつけて魅了を広めた、という言葉に対抗する強い理由が見当たらないから」
アイラの意思を、見えないものを証明するのは難しい。
アルトが作っている「うそみっけ」などの魔道具はその一助にはなるだろうが、それらの魔道具は、声や心拍などを元に嘘を見抜く。魔力を感知するものではないため、精度は完全ではないのだ。
アルトとビアンカが唸ったとき、がたん、と馬車が大きく揺れた。
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