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四方山日記
雄清の宿題
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概して、日本男児にはロリコン傾向があるらしい。童顔、JKといった言葉がひとつのキーワードになっていることが、それを如実に示している。
光源氏という創作上の人物に始まり、女子高生に手を出して、芸能界を後にする御仁もおられることから、そのような輩は、古今東西、津々浦々、腐るほどいるに違いない。
若さ、言ってしまえば幼さが、日本男児の性的嗜好に合致するというのには何か訳があるのだろうか。
日本男児は、少年時代を懐古する嫌いがあるのだろうか。少年時代にできなかったことをいつまでも引きずって、大人になってしまうために、いい年になってから、未熟な少女に手を出してしまうんじゃないだろうか。
要するに、男はいつまでたっても、子供のままで、大人になれていないということなのだ。
結論。男は概して馬鹿である。
若さとは未熟さであり、必ずしも美点ではないということを、この国では啓蒙する必要があるらしいな。
少々熱暴走気味の、俺の頭は、ランニングの最中、そのようなくだらないことを演算していた。
場所は夏休みも終わり、生徒で賑わう九月の放課後の学校だ。
神宮高校の九月は一年で一番活気に満ちている。九月の最後の週に、一週間に渡って開かれる学校祭があるからだ。
我ら山岳部も文化祭の方に、部誌を出品することになっている。山の記事の方は夏休み中に仕上げていたのだが、コラムとして書く予定だったものがまだ出来上がっていなかった。
「神宮高校の名前の由来」どう調べればよいのやらと、考えてみるのだが、考えたところで答えが出てくるわけもなく、集中力が切れた俺は運動をすることにしたのだ。
構内のあちこちで、文化祭と体育祭に向けての準備が進められている。合唱部や吹奏楽部をはじめ、音楽系の部活の演奏が四方から聞こえてくる。去年流行った、ドラマや、映画の主題歌などが、校内に響き渡っている。今、ブラスバンド部が演奏しているのは、流行に疎い俺でもさすがに知っているような曲だ。たしか、あるアニメ映画の主題歌だった気がする。俺は見に行っていないのだが、雄清と佐藤が言うには、絵が綺麗だったと。始めにストーリーを褒めないというのは、……どうなのだろうか。
体育館の周りでは、演劇部の部員があちらこちらで、大きな声を出して練習している。朴念仁であり、外交的人間の真逆を行く、俺にしてみれば、あのような事をできる彼らは、異世界の住民そのものだ。感心はするが、自分があのようになりたいとは決して思わない。
とはいってもだ。普段は仏頂面で走っているだけなのだが、このように学校全体が熱に浮かされていると、俺もなんだか、普段とは違った気分になってくる。ワクワクだとか、うきうきだとか、得も言われぬ高揚感。
もちろん、主体的に参加しようとまでは思わないのだが。
走り終えて、部室に戻ると綿貫がいた。
「深山さんお疲れさまです」
綿貫は制服を着ていた。
いつも疑問に思っているのだが、うちの高校の女子生徒は、真夏でも、長袖の制服を着ている。学校の指定でそうなっているのではなく、白色の夏用制服には、半袖と、長袖の二種類があって、生徒は自由にどちらを着用するか選べるのだが、ほとんどの女子生徒が長袖を着ているのだ。
暑いではないか。
聞くに、日焼けを気にしてとのことらしい。そんなことも分からないようじゃ、あんた一生彼女出来ないわ、というコメントと一緒に、佐藤に教えてもらった。
さすが、二十一世紀とあって、教室にはクーラーが完備されている。そう考えると、長袖でもそれほど不便はないのかもしれないが。
「おう」
軽く挨拶を交わした後は、俺も綿貫もあまり会話をしない。
夏休みの終わりに、互いの気持ちを確認しあってはいたのだが、それきりなんの進展も俺たちの間には見られなかった。
綿貫は本当のところはどう思っているのだろうか。全くアクションを起こさない俺のことを。
勉強を今まで通りにやっていたのでは駄目だという認識はあるし、綿貫も俺に対し、私に構うより先に勉強をしっかりしろと言っている。
それでも、ほとんど放置のような状態でいることを、彼女は本当は嫌なのではないかと、俺は考えてしまうのだった。
それを話したらひどく叱られた。「あなたの気持ちが本当なら、あなたが今すべきことは、自明のことのはずです」と。
それ以来触れないようにしているのだが、やはり不安を拭い去ることはできないのだった。
着替えを終え綿貫との関係をどのようにすればよいのかと、考えていたところ「深山さんはクラスの方とか郡団の方とかは手伝わなくていいんですか?」と間仕切りの向こうから出てきた綿貫が聞いてきた。
「一応、役はもらってないが」
「でもなにもしないって、いいんですかね」
「別にクラスの奴らは……」俺がクラスの奴らは気にしていないと言おうとしたところ、
「クラスの皆さんではなくて、深山さんが参加しなくて寂しくないのかということです」と綿貫に遮られた。
ふむ。綿貫というやつは俺という男のことがよく分かっていないようだな。
「俺は別段、イベントがあるからといってはしゃぎたいとは思わん」と俺は言い放った。
綿貫は俺をじっと見るだけで何も言わなかった。
残暑というものは年々ひどくなっているんじゃないかと思う。九月も半ばだというのに、夏のように暑い。
額ににじむ汗を拭いながら、帰り支度をしていたところ、雄清が部室にやって来た。
「やあ太郎。部活していたのかい」
「ああ」
雄清は軽く走ると言って、俺は雄清と綿貫を残して家に帰ることにした。
次の日の放課後、俺は部室に行って、綿貫が座っているのを見た。
「こんにちは深山さん」
「よお」
鞄を机に置いて、一息つく。
綿貫が注いだ作り置きの冷たい麦茶を口に含みながら、今日の部活は何をしようかとぼんやりと考える。
すると綿貫が、
「あの、実は深山さんにお願いしたいことがあるのですが」とおずおずと言った。
「なんだ」
「山本さんが部誌に書こうとしていた、二十年前の事件の調査がうまくいっていないみたいなんです」
……。俺は綿貫が何を言っているのかわからなかった。
「……綿貫、いろいろ足りない気がするんだが。まず、二十年前の事件てなんだ。そしてどうして俺に頼む。しかも雄清自らではなく、お前から」
「あっ、すみません。舌足らずでした。その、二十年前の事件というのは、深山さんも前に話を聞いていると思うんですけど、生徒会が今のように、立案委員と執行委員に分かれる原因となった事件のことです。山本さんは一体何が起こったのか、というのを調べようとしているんです」部誌にそんなものを載せたがる、雄清の気持ちがわからん。「山本さんは深山さんならば解決できるのではないかと、期待してらっしゃるんです」そんな、期待はうれしくない。むしろ、甚だ迷惑だ。「それで、私が深山さんにお願いするのは、昨日、山本さんに頼まれたからです」
「なんて」
「……私から頼むのであれば、深山さんは断らないだろうって」たく、雄清のやろう。
「俺はお前から頼まれようと、ホイホイと手伝ったりはしないぞ」
「はい、私もそう、山本さんに伝えました」
「どうしても分からないのだったら、主題を変えればいいだろう。今からでも十分間に合うはずだ」
「でも、彼、本当に困っているようでしたし、私は志半ばで調査を終えてしまうことのつらさが身に染みて分かるんです」雄清とお前の問題とでは大分スケールが違う気がするんだが。綿貫は続けた。「それに部誌が完成しないとなれば部長である私も困ります。深山さん、どうか助けてくださいませんか」
雄清本人にはいろいろ文句も言ってやりたかったのだが、俺も部員の一人だ。部誌が完成しないのをよしとするわけにはいかない。
「……はあ、わかったよ」俺がそういったところで、戸がガラリと開き、雄清が部室に入ってきた。
「さすが、僕の親友だ。太郎なら助けてくれると思ったよ」この野郎。
「なんか奢れよ」と俺がいったら、あまり高いのは勘弁して、と雄清は言った。
俺が雄清に調査がどれほど、進んでいるのか尋ねたところ、雄清に図書室へと連れていかれた。
「分かっているのはこれだけ」と言って雄清が差し出したのは、分厚い学校誌だった。
雄清はそれを開いて見せ、指で読むべき場所を指し示した。
そこに書かれてあったのは「問題発生により、学校祭は二日目で中止」という記述だった。今からちょうど二十年前の年だ。
「何か事件らしいのが、あったってことと、それが二十年前の学校祭期間中ってことしか分かってないってことかよ。お前、夏の間何してたんだよ」
「調べようとしたんだよ。でも何も出てこなかった」どうだか。俺が眉をひそめていると雄清は反撃してきた。「太郎こそ、学校名の由来は分かったのかい?」あっ。
夏休みに部誌を作る、という話を聞いた時に、決まった俺の担当のことをすっかり棚に上げていた。
俺の調査が進まなかった原因は、綿貫の調査の手伝いをしていたことに因るのだが、雄清には話せないし、言い訳であることには変わりがない。
「……。これからやろうとしてた」
「太郎こそ人のこと言えないじゃないか」
「お二人とも、静かに。ここは図書室ですよ」綿貫に叱られる。
気を取り直して、
「……それで、これが生徒会分断の原因の事件だってどうしてわかるんだ?」俺は雄清に尋ねた。
「執行部は議事録を作っているんだけれども、その一番古い資料が、十九年前のものなんだ。まさに記念すべき第一回の議事録がね。生徒会が立案と執行に分かれた原因が、学校祭で生徒会がやらかした事件だというのは確かだと思うし、二十年前に事件があったのなら間違いないだろう。それに前の年をさかのぼってみたけれど、旧制中学から高校に変わってからは二十年前の事件みたいなことはなかったみたいだよ。つまり学校祭が中止になったのはその年だけのことだったのさ」
確証というにはすこし物足りないような気もしないわけではないが、おおよそ納得のいく説明だろう。
「で、そのあと資料が見つかっていないと」
「そうなんだ」まあ、わざわざ、学校の、しかも生徒会が引き起こした黒歴史を進んで晒すようなことはしたがらないだろう。
「生徒会の資料にはないだろな」
「その点は保証するよ。僕大分引っ掻き回したけど見つからなかったもん」だろうな。
「探すとすれば、ほかの部活とかだな」俺がそういうと、雄清は首を傾げるようにした。
「ほかの部活?」
「ああ。事件が大好きな部活なんて限られてくるだろうよ。記事を書くのが大好きな人たち、だーれだ」
俺がそういうと雄清も分かったようだ。「ああ、新聞部か」
でも、問題は……。それを雄清は即座に指摘する。
「問題はバックナンバーがあるかどうかってとこかな。素直に見せてくれかどうかも」
「そうだな。あとは俺が首を突っ込むことじゃないな。雄清よ、執行委員様の職権を十分に濫用して新聞部から記事を奪い取って来給え」
職権濫用は嫌いなんだけどな。と雄清は言いつつも図書室を出て行って新聞部の部室へと向かって行った。
光源氏という創作上の人物に始まり、女子高生に手を出して、芸能界を後にする御仁もおられることから、そのような輩は、古今東西、津々浦々、腐るほどいるに違いない。
若さ、言ってしまえば幼さが、日本男児の性的嗜好に合致するというのには何か訳があるのだろうか。
日本男児は、少年時代を懐古する嫌いがあるのだろうか。少年時代にできなかったことをいつまでも引きずって、大人になってしまうために、いい年になってから、未熟な少女に手を出してしまうんじゃないだろうか。
要するに、男はいつまでたっても、子供のままで、大人になれていないということなのだ。
結論。男は概して馬鹿である。
若さとは未熟さであり、必ずしも美点ではないということを、この国では啓蒙する必要があるらしいな。
少々熱暴走気味の、俺の頭は、ランニングの最中、そのようなくだらないことを演算していた。
場所は夏休みも終わり、生徒で賑わう九月の放課後の学校だ。
神宮高校の九月は一年で一番活気に満ちている。九月の最後の週に、一週間に渡って開かれる学校祭があるからだ。
我ら山岳部も文化祭の方に、部誌を出品することになっている。山の記事の方は夏休み中に仕上げていたのだが、コラムとして書く予定だったものがまだ出来上がっていなかった。
「神宮高校の名前の由来」どう調べればよいのやらと、考えてみるのだが、考えたところで答えが出てくるわけもなく、集中力が切れた俺は運動をすることにしたのだ。
構内のあちこちで、文化祭と体育祭に向けての準備が進められている。合唱部や吹奏楽部をはじめ、音楽系の部活の演奏が四方から聞こえてくる。去年流行った、ドラマや、映画の主題歌などが、校内に響き渡っている。今、ブラスバンド部が演奏しているのは、流行に疎い俺でもさすがに知っているような曲だ。たしか、あるアニメ映画の主題歌だった気がする。俺は見に行っていないのだが、雄清と佐藤が言うには、絵が綺麗だったと。始めにストーリーを褒めないというのは、……どうなのだろうか。
体育館の周りでは、演劇部の部員があちらこちらで、大きな声を出して練習している。朴念仁であり、外交的人間の真逆を行く、俺にしてみれば、あのような事をできる彼らは、異世界の住民そのものだ。感心はするが、自分があのようになりたいとは決して思わない。
とはいってもだ。普段は仏頂面で走っているだけなのだが、このように学校全体が熱に浮かされていると、俺もなんだか、普段とは違った気分になってくる。ワクワクだとか、うきうきだとか、得も言われぬ高揚感。
もちろん、主体的に参加しようとまでは思わないのだが。
走り終えて、部室に戻ると綿貫がいた。
「深山さんお疲れさまです」
綿貫は制服を着ていた。
いつも疑問に思っているのだが、うちの高校の女子生徒は、真夏でも、長袖の制服を着ている。学校の指定でそうなっているのではなく、白色の夏用制服には、半袖と、長袖の二種類があって、生徒は自由にどちらを着用するか選べるのだが、ほとんどの女子生徒が長袖を着ているのだ。
暑いではないか。
聞くに、日焼けを気にしてとのことらしい。そんなことも分からないようじゃ、あんた一生彼女出来ないわ、というコメントと一緒に、佐藤に教えてもらった。
さすが、二十一世紀とあって、教室にはクーラーが完備されている。そう考えると、長袖でもそれほど不便はないのかもしれないが。
「おう」
軽く挨拶を交わした後は、俺も綿貫もあまり会話をしない。
夏休みの終わりに、互いの気持ちを確認しあってはいたのだが、それきりなんの進展も俺たちの間には見られなかった。
綿貫は本当のところはどう思っているのだろうか。全くアクションを起こさない俺のことを。
勉強を今まで通りにやっていたのでは駄目だという認識はあるし、綿貫も俺に対し、私に構うより先に勉強をしっかりしろと言っている。
それでも、ほとんど放置のような状態でいることを、彼女は本当は嫌なのではないかと、俺は考えてしまうのだった。
それを話したらひどく叱られた。「あなたの気持ちが本当なら、あなたが今すべきことは、自明のことのはずです」と。
それ以来触れないようにしているのだが、やはり不安を拭い去ることはできないのだった。
着替えを終え綿貫との関係をどのようにすればよいのかと、考えていたところ「深山さんはクラスの方とか郡団の方とかは手伝わなくていいんですか?」と間仕切りの向こうから出てきた綿貫が聞いてきた。
「一応、役はもらってないが」
「でもなにもしないって、いいんですかね」
「別にクラスの奴らは……」俺がクラスの奴らは気にしていないと言おうとしたところ、
「クラスの皆さんではなくて、深山さんが参加しなくて寂しくないのかということです」と綿貫に遮られた。
ふむ。綿貫というやつは俺という男のことがよく分かっていないようだな。
「俺は別段、イベントがあるからといってはしゃぎたいとは思わん」と俺は言い放った。
綿貫は俺をじっと見るだけで何も言わなかった。
残暑というものは年々ひどくなっているんじゃないかと思う。九月も半ばだというのに、夏のように暑い。
額ににじむ汗を拭いながら、帰り支度をしていたところ、雄清が部室にやって来た。
「やあ太郎。部活していたのかい」
「ああ」
雄清は軽く走ると言って、俺は雄清と綿貫を残して家に帰ることにした。
次の日の放課後、俺は部室に行って、綿貫が座っているのを見た。
「こんにちは深山さん」
「よお」
鞄を机に置いて、一息つく。
綿貫が注いだ作り置きの冷たい麦茶を口に含みながら、今日の部活は何をしようかとぼんやりと考える。
すると綿貫が、
「あの、実は深山さんにお願いしたいことがあるのですが」とおずおずと言った。
「なんだ」
「山本さんが部誌に書こうとしていた、二十年前の事件の調査がうまくいっていないみたいなんです」
……。俺は綿貫が何を言っているのかわからなかった。
「……綿貫、いろいろ足りない気がするんだが。まず、二十年前の事件てなんだ。そしてどうして俺に頼む。しかも雄清自らではなく、お前から」
「あっ、すみません。舌足らずでした。その、二十年前の事件というのは、深山さんも前に話を聞いていると思うんですけど、生徒会が今のように、立案委員と執行委員に分かれる原因となった事件のことです。山本さんは一体何が起こったのか、というのを調べようとしているんです」部誌にそんなものを載せたがる、雄清の気持ちがわからん。「山本さんは深山さんならば解決できるのではないかと、期待してらっしゃるんです」そんな、期待はうれしくない。むしろ、甚だ迷惑だ。「それで、私が深山さんにお願いするのは、昨日、山本さんに頼まれたからです」
「なんて」
「……私から頼むのであれば、深山さんは断らないだろうって」たく、雄清のやろう。
「俺はお前から頼まれようと、ホイホイと手伝ったりはしないぞ」
「はい、私もそう、山本さんに伝えました」
「どうしても分からないのだったら、主題を変えればいいだろう。今からでも十分間に合うはずだ」
「でも、彼、本当に困っているようでしたし、私は志半ばで調査を終えてしまうことのつらさが身に染みて分かるんです」雄清とお前の問題とでは大分スケールが違う気がするんだが。綿貫は続けた。「それに部誌が完成しないとなれば部長である私も困ります。深山さん、どうか助けてくださいませんか」
雄清本人にはいろいろ文句も言ってやりたかったのだが、俺も部員の一人だ。部誌が完成しないのをよしとするわけにはいかない。
「……はあ、わかったよ」俺がそういったところで、戸がガラリと開き、雄清が部室に入ってきた。
「さすが、僕の親友だ。太郎なら助けてくれると思ったよ」この野郎。
「なんか奢れよ」と俺がいったら、あまり高いのは勘弁して、と雄清は言った。
俺が雄清に調査がどれほど、進んでいるのか尋ねたところ、雄清に図書室へと連れていかれた。
「分かっているのはこれだけ」と言って雄清が差し出したのは、分厚い学校誌だった。
雄清はそれを開いて見せ、指で読むべき場所を指し示した。
そこに書かれてあったのは「問題発生により、学校祭は二日目で中止」という記述だった。今からちょうど二十年前の年だ。
「何か事件らしいのが、あったってことと、それが二十年前の学校祭期間中ってことしか分かってないってことかよ。お前、夏の間何してたんだよ」
「調べようとしたんだよ。でも何も出てこなかった」どうだか。俺が眉をひそめていると雄清は反撃してきた。「太郎こそ、学校名の由来は分かったのかい?」あっ。
夏休みに部誌を作る、という話を聞いた時に、決まった俺の担当のことをすっかり棚に上げていた。
俺の調査が進まなかった原因は、綿貫の調査の手伝いをしていたことに因るのだが、雄清には話せないし、言い訳であることには変わりがない。
「……。これからやろうとしてた」
「太郎こそ人のこと言えないじゃないか」
「お二人とも、静かに。ここは図書室ですよ」綿貫に叱られる。
気を取り直して、
「……それで、これが生徒会分断の原因の事件だってどうしてわかるんだ?」俺は雄清に尋ねた。
「執行部は議事録を作っているんだけれども、その一番古い資料が、十九年前のものなんだ。まさに記念すべき第一回の議事録がね。生徒会が立案と執行に分かれた原因が、学校祭で生徒会がやらかした事件だというのは確かだと思うし、二十年前に事件があったのなら間違いないだろう。それに前の年をさかのぼってみたけれど、旧制中学から高校に変わってからは二十年前の事件みたいなことはなかったみたいだよ。つまり学校祭が中止になったのはその年だけのことだったのさ」
確証というにはすこし物足りないような気もしないわけではないが、おおよそ納得のいく説明だろう。
「で、そのあと資料が見つかっていないと」
「そうなんだ」まあ、わざわざ、学校の、しかも生徒会が引き起こした黒歴史を進んで晒すようなことはしたがらないだろう。
「生徒会の資料にはないだろな」
「その点は保証するよ。僕大分引っ掻き回したけど見つからなかったもん」だろうな。
「探すとすれば、ほかの部活とかだな」俺がそういうと、雄清は首を傾げるようにした。
「ほかの部活?」
「ああ。事件が大好きな部活なんて限られてくるだろうよ。記事を書くのが大好きな人たち、だーれだ」
俺がそういうと雄清も分かったようだ。「ああ、新聞部か」
でも、問題は……。それを雄清は即座に指摘する。
「問題はバックナンバーがあるかどうかってとこかな。素直に見せてくれかどうかも」
「そうだな。あとは俺が首を突っ込むことじゃないな。雄清よ、執行委員様の職権を十分に濫用して新聞部から記事を奪い取って来給え」
職権濫用は嫌いなんだけどな。と雄清は言いつつも図書室を出て行って新聞部の部室へと向かって行った。
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