25 / 88
四方山日記
部長の好奇心
しおりを挟む
橋田は俺たち山岳部員を新聞部の部室につれて行き、新聞部部長に紹介することを了承した。
部室棟4階から一度一階まで降り、本館の二階へと向かう。
橋田真紀《はしだまき》が先頭を歩いたのだが、先も言ったように彼女はスカートの裾《すそ》をずいぶんと短くしていたので、階段を上がる際は、下着が見えるんじゃないかと心配したが、そのようなことはなかった。さすがに十数年とスカートと付き合ってくると、どれくらいで見えてしまうのか、というのもわかるようになるのかもしれない。
あえていうが、決して熱心に見ようとはしていない。
新聞部の部室に到着して、まず橋田が先に入った。部長に話をつけてくれるらしい。
俺は、部室の入り口から一番離れたところに立っていた。山岳部総出で来てしまって、おそらく新聞部の連中はいい顔をしないだろう。さっき雄清が門前払いをされたばかりなので、なおさらだ。不機嫌な先輩と話をするなんて御免被る。それに俺はお世辞にも交渉に長けているとは言えない。やはり雄清や佐藤に任せておくのが得策だろう。
橋田が中に入ってから、五分ほどしてから、三年の先輩が新聞部の部室の中から出てきた。
「こちら、新聞部の部長の西脇理人《にしわきりと》先輩です」
一緒に出てきた橋田がそのように彼を紹介した。
西脇先輩は縁なしの眼鏡をかけていて、身長は俺と同じくらい。文化部らしく日に焼けておらず、青白い顔をしていた。それでも病弱という感じは見られず至って健康そうだ。眼鏡の奥できらめく眼光が、彼の聡明さと、思慮深さとを物語っているような気がした。
雄清が門前払いされたと聞いていたから、歓迎はされないだろうと思っていた。たしかに厚遇とは言えなかったが、俺たちを邪険に扱う様子は微塵も見せず、山岳部一行という来訪者に対して、一応の礼儀を逸することはなかった。
「山本君。また来たと思ったら、不正選挙調査の手伝いがしたいって?」
西脇先輩は雄清を見ていった。橋田は宣言通りに詳しく話をしてくれたようだ。
「そうなんです」
「……君は執行部で、確かに立案とは立場を異《こと》にするのかもしれないけど、生徒会役員として生徒会の運営に支障をきたすようなことをしていいのかい?」
西脇先輩は俺が抱いた疑問を雄清にぶつけた。雄清は、俺に対してならばまだしも、「そんなことより不正選挙の調査の方が『面白そう』だ」、なんて先輩に対して言えるのだろうか。
俺は雄清がどのように返答するのだろうかと、すこし関心を持った。
「組織の健全さを維持するためには身を切る必要も、時には要求されると思います。僕はここで見て見ぬふりをすることが長期的に見れば生徒会のためにならない事だと思っています。システムに欠陥があるのならばその穴を埋める必要があるでしょう」
随分な大言壮語だ。たかが高校の生徒会で不正だ、汚職だ、と叫んでその仕組みを改善しようとしたところで、訪れる変化は微々たるものだろうに。それが雄清にわからないはずがない。
要するにだ。山本雄清はいつものように「事件」を面白がっているだけに過ぎない。
部誌の完成という大義名分がなかったのだとしたら、こんな茶番に付き合ってはいないのだが。
西脇先輩は雄清の返答を聞いて、笑った。可笑しいと言えば可笑しいかもしれないが、雄清はそんな面白い事を言っただろうか。
「いやすまない。山本君、君面白いな。実を言うと、調査はするんだけど、それを公表する気はないんだ。僕の好きでやることなんだよ。君たちが橋田に指摘したように、今、生徒会運営をストップさせるようなことをすれば、新聞部は全校生徒から恨まれかねないからね。犯人がいたとして、それを白日《はくじつ》の下にさらしたとしても、誰も幸せにならない。
そうだね、僕の知的好奇心を満たす、というのが主目的かな。真実が知れればそれで満足なんだよ。君の言うように選管のシステムに欠陥があったのだとして、それを修正する役に立てれば御の字だね。でもそこまでは望まないさ」
この西脇理人先輩は雄清と同じ人種か。
己《おのれ》の好奇心を満たすために、貴重な時間を費やそうとするとは。
俺は思ったよりも、新聞部の部長が柔和な人に見えたので、取引に臨むことにした。
「一年の深山と言います。西脇先輩、もし俺たち山岳部が生徒会の不正選挙の解決に一役買ったら、過去記事のバックナンバーを見せてはもらえませんか。この山本は執行部の一員ですし、生徒会の方で探りを入れるのにも役に立つと思いますし、うちには選管の佐藤もいます。内通者がいるのならばあなた方の調査も随分とはかどると思うんですが」
西脇先輩は、顎を撫でながら、少し思案する様子を見せて、
「……実を言うと、さっき山本君を部室に入れなかったのは、不正選挙についての事が漏れることを心配したからで、別に過去の記事を無条件で見せることは構わないんだけど。うちの記事に興味を持ってくれるというのは、新聞部にしてみれば光栄極まりない事だからね」
ああそうなのか。だったら、見せてもらえませんか。と言おうとしたところで雄清が俺を制止し、
「いや先輩。ただで見せてもらうというのは悪いですよ。ぜひ調査のお手伝いをさせてください。先ほどこいつが言ったように、うちには執行委員も選管委員もいますから。絶対に役に立ちます」
「……そこまで言うなら、手伝ってもらおうかな」
ぬかった。余計な事を言うんじゃなかった。
雄清と西脇先輩はがっしりと握手を交わしている。協力を辞退できる雰囲気《ふんいき》ではない。後悔先に立たずとはこのこと。
自分は大胆な方ではないと思うのだが、慎重さというのはどれほどそうあろうとしても際限がないものらしい。俺は思わず溜め息を吐いた。
どうして俺の高校生活はトラブルに事欠かないのだろうか。入学してから幾度となく苦々しく抱いた思いを圧し殺し、雄清、佐藤、綿貫のあとに続いて、新聞部の部室へと入っていった。
部室棟4階から一度一階まで降り、本館の二階へと向かう。
橋田真紀《はしだまき》が先頭を歩いたのだが、先も言ったように彼女はスカートの裾《すそ》をずいぶんと短くしていたので、階段を上がる際は、下着が見えるんじゃないかと心配したが、そのようなことはなかった。さすがに十数年とスカートと付き合ってくると、どれくらいで見えてしまうのか、というのもわかるようになるのかもしれない。
あえていうが、決して熱心に見ようとはしていない。
新聞部の部室に到着して、まず橋田が先に入った。部長に話をつけてくれるらしい。
俺は、部室の入り口から一番離れたところに立っていた。山岳部総出で来てしまって、おそらく新聞部の連中はいい顔をしないだろう。さっき雄清が門前払いをされたばかりなので、なおさらだ。不機嫌な先輩と話をするなんて御免被る。それに俺はお世辞にも交渉に長けているとは言えない。やはり雄清や佐藤に任せておくのが得策だろう。
橋田が中に入ってから、五分ほどしてから、三年の先輩が新聞部の部室の中から出てきた。
「こちら、新聞部の部長の西脇理人《にしわきりと》先輩です」
一緒に出てきた橋田がそのように彼を紹介した。
西脇先輩は縁なしの眼鏡をかけていて、身長は俺と同じくらい。文化部らしく日に焼けておらず、青白い顔をしていた。それでも病弱という感じは見られず至って健康そうだ。眼鏡の奥できらめく眼光が、彼の聡明さと、思慮深さとを物語っているような気がした。
雄清が門前払いされたと聞いていたから、歓迎はされないだろうと思っていた。たしかに厚遇とは言えなかったが、俺たちを邪険に扱う様子は微塵も見せず、山岳部一行という来訪者に対して、一応の礼儀を逸することはなかった。
「山本君。また来たと思ったら、不正選挙調査の手伝いがしたいって?」
西脇先輩は雄清を見ていった。橋田は宣言通りに詳しく話をしてくれたようだ。
「そうなんです」
「……君は執行部で、確かに立案とは立場を異《こと》にするのかもしれないけど、生徒会役員として生徒会の運営に支障をきたすようなことをしていいのかい?」
西脇先輩は俺が抱いた疑問を雄清にぶつけた。雄清は、俺に対してならばまだしも、「そんなことより不正選挙の調査の方が『面白そう』だ」、なんて先輩に対して言えるのだろうか。
俺は雄清がどのように返答するのだろうかと、すこし関心を持った。
「組織の健全さを維持するためには身を切る必要も、時には要求されると思います。僕はここで見て見ぬふりをすることが長期的に見れば生徒会のためにならない事だと思っています。システムに欠陥があるのならばその穴を埋める必要があるでしょう」
随分な大言壮語だ。たかが高校の生徒会で不正だ、汚職だ、と叫んでその仕組みを改善しようとしたところで、訪れる変化は微々たるものだろうに。それが雄清にわからないはずがない。
要するにだ。山本雄清はいつものように「事件」を面白がっているだけに過ぎない。
部誌の完成という大義名分がなかったのだとしたら、こんな茶番に付き合ってはいないのだが。
西脇先輩は雄清の返答を聞いて、笑った。可笑しいと言えば可笑しいかもしれないが、雄清はそんな面白い事を言っただろうか。
「いやすまない。山本君、君面白いな。実を言うと、調査はするんだけど、それを公表する気はないんだ。僕の好きでやることなんだよ。君たちが橋田に指摘したように、今、生徒会運営をストップさせるようなことをすれば、新聞部は全校生徒から恨まれかねないからね。犯人がいたとして、それを白日《はくじつ》の下にさらしたとしても、誰も幸せにならない。
そうだね、僕の知的好奇心を満たす、というのが主目的かな。真実が知れればそれで満足なんだよ。君の言うように選管のシステムに欠陥があったのだとして、それを修正する役に立てれば御の字だね。でもそこまでは望まないさ」
この西脇理人先輩は雄清と同じ人種か。
己《おのれ》の好奇心を満たすために、貴重な時間を費やそうとするとは。
俺は思ったよりも、新聞部の部長が柔和な人に見えたので、取引に臨むことにした。
「一年の深山と言います。西脇先輩、もし俺たち山岳部が生徒会の不正選挙の解決に一役買ったら、過去記事のバックナンバーを見せてはもらえませんか。この山本は執行部の一員ですし、生徒会の方で探りを入れるのにも役に立つと思いますし、うちには選管の佐藤もいます。内通者がいるのならばあなた方の調査も随分とはかどると思うんですが」
西脇先輩は、顎を撫でながら、少し思案する様子を見せて、
「……実を言うと、さっき山本君を部室に入れなかったのは、不正選挙についての事が漏れることを心配したからで、別に過去の記事を無条件で見せることは構わないんだけど。うちの記事に興味を持ってくれるというのは、新聞部にしてみれば光栄極まりない事だからね」
ああそうなのか。だったら、見せてもらえませんか。と言おうとしたところで雄清が俺を制止し、
「いや先輩。ただで見せてもらうというのは悪いですよ。ぜひ調査のお手伝いをさせてください。先ほどこいつが言ったように、うちには執行委員も選管委員もいますから。絶対に役に立ちます」
「……そこまで言うなら、手伝ってもらおうかな」
ぬかった。余計な事を言うんじゃなかった。
雄清と西脇先輩はがっしりと握手を交わしている。協力を辞退できる雰囲気《ふんいき》ではない。後悔先に立たずとはこのこと。
自分は大胆な方ではないと思うのだが、慎重さというのはどれほどそうあろうとしても際限がないものらしい。俺は思わず溜め息を吐いた。
どうして俺の高校生活はトラブルに事欠かないのだろうか。入学してから幾度となく苦々しく抱いた思いを圧し殺し、雄清、佐藤、綿貫のあとに続いて、新聞部の部室へと入っていった。
0
あなたにおすすめの小説
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!
みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!
杉藤千夏はツンデレ少女である。
そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。
千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。
徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い!
※他サイトにも投稿しています。
※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
俺が宝くじで10億円当選してから、幼馴染の様子がおかしい
沢尻夏芽
恋愛
自他共に認める陰キャ・真城健康(まき・けんこう)は、高校入学前に宝くじで10億円を当てた。
それを知る、陽キャ幼馴染の白駒綾菜(しらこま・あやな)はどうも最近……。
『様子がおかしい』
※誤字脱字、設定上のミス等があれば、ぜひ教えてください。
現時点で1話に繋がる話は全て書き切っています。
他サイトでも掲載中。
迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる
九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。
※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。
『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』
まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。
朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。
「ご主人様の笑顔が見たいんです」
その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。
全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!?
甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。
【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。
東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」
──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。
購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。
それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、
いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!?
否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。
気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。
ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ!
最後は笑って、ちょっと泣ける。
#誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる