悠々自適な高校生活を送ろうと思ったのに美少女がそれを許してくれないんだが

逸真芙蘭

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幕間劇其の弐

ビデオレター

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 今日も今日とて神宮かみのみや高校の校庭には部活動をする生徒たちの盛んな声が響いている。青春を部活に捧げている彼らをしり目に、我ら山岳部員はいささか早めの下校を行っていた。
「山本君」
 雄清がとある女子に呼び止められる。身長は一五〇後半で、髪を後ろでひとつ束ねている。ポニーテールとか言うやつだろう。とびきりの美人と言うわけではないが、愛嬌あいきょうのある子だった。発情期の男子に囲まれた今では、男には不足しなさそうだ。

「何かな?」
 雄清は答える。
「例の映画の件どうなった?」
「ああ、悪いけど、都合がつかなくてね」
「そう、じゃあまたの機会に」
 その女子は肩を落として言った。
「考えとくよ」
 と雄清は答えた。
 その女子は小走りで去っていった。

「なんだ、雄清、あの女子は」
「ああ、執行部の子さ。文化祭実行委員会だよ」
「ああ文実《ぶんじつ》ってやつか」
「そうそう。あと、この前、彼女、前で表彰されてたけど知らないかい?」
「表彰?」
「まあ、知らないか。太郎だもんな。物化部にも所属していて、大会で研究賞を貰ってたんだよ」
 へーそりゃすごい。文実のきみは優秀なようだ。
「それで、映画って生徒会がやってるやつのことか」
 俺たちは生徒会が文化祭で発表する映画撮影の協力を夏休みに行っていた。
「それがね、違うんだよ。あの子に映画に誘われているんだ」
 ほう、佐藤以外にも物好きがいたもんだ。蓼食う虫も好き好きとはよく言うが、男には困らなさそうな彼女が、好んで食う奴でもなさそうなんだがな。
「でなんて返事したんだよ」
「考えとくって」
「お前、それさっきも言っていたじゃないか」
「そうだっけ」
「ああ。お前あの女子のことが好きなわけじゃないんだろう」
「まーね、恋愛対象って感じではないね」
 雄清も雄清で、物好きだ。あの気の強い幼馴染のどこに惚れているのかは、俺にはわからん。

「お前貧乳好きだからな」
 と冗談を飛ばす。

 佐藤はつるぺただ。おかげでこの十数年間、あいつのことを上も下も真っ平らな、男友達として認識することができていた。……最近はくびれなんかが出てきて、どうもそれは難しいが。
 それに対し、先ほどの文実の君は、萌菜先輩ほどではないにせよ、ボインちゃんだった。

「そういうことではないんだけど」
 まあ、こいつは女子女子している女が嫌いだからな。俺も同じく。
 雄清と俺とで違うのは、気丈な女を好むか、大和撫子を好むかという点だな。そういうことを口にすると顰蹙ひんしゅくを買うから言わないけど。いいじゃないか、どのような女性を好むか言うぐらい。
 ……え、何、もしかして俺に選ぶ権利が無いって?

 こほん。
「だったら、はっきり断れよ。佐藤が聞いたらぶたれるかもしれんぞ」
 そう、あいつすぐぶつんだよ。俺とか会うたびに叩かれている気がする。俺のこと好きすぎだろ。好きな異性には意地悪をしてしまうというあれだな。そうまでして俺とスキンシップ取りたいのか。いや違うか。
「いやあ、それがなかなか。……というかさっきの太郎の言葉のほうがひどいと思うけど」
 雄清はポリポリと頬をく。
 最後の方、なんかゴニョゴニョ言っていたが。

「いいか、女の中には、はっきり言わないとわからん奴もいるんだ。思わせぶりな態度とるほうが惨いぞ」
「ほー、太郎が女性について語るとは。経験談かい?」
「まあな」
 小説の経験だがな。
「そうだねえ、頑張ってみるよ」
 そういう雄清はどこか飄飄ひょうひょうとしていた。



 次の日は部室で本を読んでいた。秋雨の降る日、放課後の余暇をじっくりと楽しんでいたのだ。綿貫は向かいで宿題をしている。佐藤は来ていないし、雄清もいない。佐藤のことはわからないが、雄清と教室で別れた時、確かに部室に行くと言っていたので、そろそろ来てもいい頃なんだが。
 だが、雄清がいなければ困るというわけではないので俺の意識は本へと没入していった。好きな女と二人っきりの部屋。互いの息づかいが聞こえる距離。シチュエーションは最高。それでも読書に集中しちゃうのが、この俺。
 俺が読んでいるのは、ある男子高校生が、大病院の令嬢と結婚するまでの軌跡を描いた、青春ラブコメディーだ。あ、いや、それは俺の妄想。……全然集中できてないじゃん。

 楽しい妄想にふけっていたところ、何分か経ってから、がらりと戸が開き、佐藤が入ってきた。
「ねえ深山、雄くんから変なビデオ送られてきて、メールしても何も返信が来ないんだけど」
 いちいち報告することでもないのに。部室に入ってきたとたんぎゃあぎゃあ話し出すのはこいつの悪い癖だ。
「変なビデオ?お前が喜びそうなやつか?」
 俺の妄そ……もとい読書を中断された腹いせに軽口をたたく。
「喜ばないっ!」
 過剰に反応するのはどうかと思う。こいつも大概好き者だな。
「大きな声出すなよ。ビデオってどんなのだ」 
「これよ、あんたに宛てて」

 佐藤はそう言って、スマートフォンでビデオを再生する。
「太郎、誕生日おめでとう。あいにく今日は行けなくなったけど。悪いね。プレゼントのステータスはAAのMW105、132、105。
 17分46秒及び48分35秒で会おう。
 あと、太郎、数学がやばいって言ってたけど数字は英語と同じくらい大事だよ。よく注意しなきゃね」
 ビデオはそれで終わりだった。
「だってさ」

 明らかにおかしい点があるのだが、佐藤がその事に気づかないのがなんだか悲しかった。
「深山さん、どうしました?」
 俺の様子を見て、綿貫が聞いてくる。
「……このビデオにはおかしい点がある」 
「なんです?」
「一つ、俺の誕生日は今日ではない」
 あれそうだっけ? という佐藤の素っ気ない反応。なんたることだ。ずっと同じ学校だったのに……。
 いや俺もこいつの誕生日知らんかったな。 

 気を取り直して、
「二つ、プレゼントのステータスAAのMWってなんだ?そのあとの数字も。
 三つ、17分46秒と48分35秒じゃ何時かわからん。そして二つの時間を言ったのも。普通に考えると0時17分46秒と0時48分35秒で深夜になるが、そんな時間に呼びつけるのもおかしい。
 四つ、数学がやばいのは俺じゃなくてむしろ雄清の方だ」
「まあ確かに変なビデオレターだったけど」
「これはただのバースデーメッセージなどではない」
 よもや雄清まで俺の誕生日を忘れたはずがなかろう。……だよね、だよね?
「じゃあ何よ」
 勿体ぶらずに早く話せ、といいたげな口調だ。
「何か別な意味を持つか、ただの悪ふざけか……」
「その二つに違いあんの?」
 それは、なかなか的を射た質問だ。
「たぶんないな。よし帰るか」
 ちょうど本を読み終えたところだ。これ以上長居する必要もあるまい。

「ちょっと深山さん!」
 綿貫が俺を呼び止める。
「なんだよ」
 ひるみ、多少上ずった声になる。
「普段の行いを見るに、山本さんが悪ふざけをしたと考えるのは道理かもしれません。ですが今回は留奈さんのスマートフォンに送ってきているんですよ。留奈さんを巻き込んで深山さんに巧妙ないたずらを仕掛ける。そんなことを山本さんがするでしょうか」 
「何が言いたい」
「何か伝えたいことが、それも早急さっきゅうに、あったからこんなことをしたのではないですか」
「だが文言は意味不明だ。そんなメッセージがあるか」
「はっきりといえない事情があったとしたら?」
 はっきりといえない事情? このビデオが監視下で撮られたということか。誘拐? いや、そんな。あれでも男子高校生だぞ。でも……もし本当にそうだったとしたら。

 ……なんてな。
 まあ、確かに雄清はこんないたずらを今までしたことはなかった。それに雄清はふざけたやつだが俺と同じで無駄なことは好まない質だ。
 これはひょっとすると本当に重大なことなのかもしれない。……雄清にとっては。雄清にとって大事なのは面白いか否かだ。つまり雄清はふざけるときは本気でふざけるということだ。これは雄清にとって本気の遊び、なんだろう。

 どうせ暇だし、友人の遊びに付き合ってやるのも悪くない。
「わかったよ。ちょっと考えてみる」
「私も手伝います」
「じゃあ私も、なんか気になっちゃったし」
「そうだな、最初の下りはとりあえず無視するぞ。これは恐らくイントロダクションだろう。重要な意味はない。雄清も数字と英語が大事と言っていたしな。
 でプレゼントのステータスってのはよくわからんのだが、次のAAとMWと数字はなんだろうな」
 そういうと佐藤はその部分を再生した。
『プレゼントのステータスはAAのMW105、132、105  17分46秒及び48分35秒で会おう』
「105、132、105。一番目と最後は同じものなんだろうか?」
「プレゼントの品番ならそうなんじゃない」
「なぜまとめて105を二つと言わんのだ」
「さあ」
「それとAAとMWとは?」
「AAはよく分かりませんがMWの方はMotor Wrap? とかMechanical Wing? とかじゃないですか」
 綿貫がまじめな顔をして言う。なんだそれは、聞いたこともない。
「違うだろう」
「男と女じゃない?マン&ウーマン」
 と佐藤が言う。
「お前はいつもそれだな」
「はあ?」 
「MW MW ……綿貫、辞書を引いてみてくれないか」
「はい、いいですよ」
 綿貫は鞄から電子辞書を取り出し、引き始める。
「ありました。Molecule Weight ……」
「分子量か……。分子量105、132って何がある?」
「分かりませんねえ。恐らくいくつかあると思うんですが」
「コンピュータルームいく?」
 と佐藤が提案した。
「そうだな」
 部室を出て行き、三人で本館のコンピュータールームへと向かう。女二人に俺一人。両手に花!
 テンションは上がらないが。

 
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