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恋慕日記
旅が無事に済んだと思ったらこれだよ
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妙といえば、妙なことはたくさんあったかもしれない。つじつまの合わないことや、道理にそぐわないこと。
長い時間軸の中では、人の行動に整合性の取れないものが生じることなど、ありそうなものだ。
結局何がおかしくて、何に筋が通るかなんて、後で考えてみなければわからないもので、その時その時においては、人の行為になにか意味を見出そうとすることにそれほど重要な価値があるとは思えない。
考えて考えて、真実だろうと思われる答えが出せたとしても、最後の最後でどんでん返しが待っているだけなのかもしれない。
だが、だからといって、何も考えないでいいというわけにもならないだろうから、何が起こったのか、なるべく忠実に思い出したい。
*
合宿を終えて、無事に愛知県に戻ってきた俺達だったが、萌菜先輩が閉会の会をやりたいと言い出して、他の奴らもそれに賛同し、俺は流されるままに、綿貫亭の門をくぐった。
黒岩さんの運転する車は、行きは白のリムジンだったのだが、帰りは別の車で、黒塗りの左ハンドルだった。
綿貫亭のガレージのシャッターが開き、黒岩さんが危なげなくバック駐車をした後で、雄清が、運転席に座らせてくれと頼み込んだところ、黒岩さんは快諾して、雄清は楽しそうにいろいろいじっていた。俺はそんな様子をガレージの壁側の車の左後方で見ていたのだが、サイドミラーを見た雄清が窓から顔を出し、
「太郎の姿がミラーじゃ確認できないよ」
と言った。
「ここ死角なんだろ。教習所じゃ、巻き込み巻き込みって、酸っぱく言われるらしいぞ」
それを聞いて納得したのか知らんが、前を向き直り、その後もいろいろいじっていたみたいだが、トリップメーターのボタンを押して、リセットしてしまったようだ。
雄清がすまなさそうな顔をして謝ったところ、黒岩さんは別に使っていないので困ることはない、と言って笑って許してくれた。
合宿中、何から何まで世話になったうえで、綿貫家で、ご飯までごちそうになるのだから、本当を言うと、気が引ける思いがしたのだが、黒岩さんはじめ、他のお手伝いさんはもちろんのこと、綿貫の叔母さんもちっとも嫌な顔を見せずに、俺たち高校生の集団を歓待してくれた。
夕食を食べて、各々家に帰り、その日は皆、例外なくぐっすりと眠ったことだと思う。
気ままな合宿だったとはいえ、慣れない土地で過ごすというのは、知らず知らずのうちに神経に負荷をかけるのだろう。いつ眠りに落ちたのかわからないぐらい速く、意識は遠のいていった。
十分に睡眠をとった俺は、翌朝自然に目が覚めた。勉強合宿のおかげで、高校から出された課題はほとんど終わらせることができていた。なかなか楽しい合宿だったが、目的はしっかりと果されていたわけである。そう思うと、これを提案してくれた萌菜先輩には、感謝しておくべきなのだろう。
図書館にでも行って、参考書でも進めるかと思いながら、朝食を取っていたところで、スマートフォンが鳴った。綿貫からの電話である。
朝からラブコールかと思いきや、そんなに楽しいものではなかった。
何やら、とても緊急の事が起こったらしく、すぐに綿貫亭に集合するよう伝えられた後、具体的に何が起こったのか、聴き出す前に電話を切られてしまった。雄清や佐藤などにも電話を掛けるのかもしれない。
ただならぬことが起こったらしいことは分かったので、俺もすぐに着替えて、家を出る準備を始めた。
すでに起き出していた夏帆ちゃんは、そんな俺を見て、
「どうしたの? お兄ちゃん」
と尋ねてきた。
「なんか、トラブルが起こったらしくて、綿貫ん家に行ってくる」
「私も行く」
正直、夏帆ちゃんが何かの役に立つのかはわからなかったが、諭すような時間も惜しかったので、そのまま二人で家を出た。
誰それの下着がなくなった、ぐらいの話だったら、笑い話で済むのだが、本当に大変なことが起こったのかもしれないと思うと、俺は気が気でなかった。
電車に乗って名古屋駅に向かい、駅から綿貫亭までは歩いていく。夏帆ちゃんには少し早いくらいの速度で歩いてしまったかもしれないが、自分でついてゆくと言った以上、文句を言うことはしなかった。
門をくぐったところで、昨日乗った、ピカピカに磨き上げられた黒い外車がガレージの中に見えた。前からみた姿もスタイリッシュだったが、後方部分も何か大衆車とは違うものを匂わせている。だが、今は高級車に見とれているときではない。
ガレージをさっさと通り過ぎて、通用門となっている綿貫亭の裏口のドアホンを鳴らしたところ、すぐに綿貫が出てきた。
俺が着いたときには、雄清も佐藤も来ていた。二人とも走ってきたらしく、息を切らしている。
「突然および立てして申し訳ありません。夏帆さんもせっかくのお休みですのに、わざわざ来てくださって……」
と申し訳なさそうに綿貫は言った。
雄清と佐藤の顔を見るに、二人は何が起こったのか既に聞かされているようである。
俺はまず聞くべきことを尋ねた。
「何があったんだ?」
綿貫はきゅっと唇を結んでから、すぐに、
「萌菜さんがいなくなったんです」
と言った。
その深刻な表情を見るに、どうやら、かくれんぼをしているわけではないらしい。
長い時間軸の中では、人の行動に整合性の取れないものが生じることなど、ありそうなものだ。
結局何がおかしくて、何に筋が通るかなんて、後で考えてみなければわからないもので、その時その時においては、人の行為になにか意味を見出そうとすることにそれほど重要な価値があるとは思えない。
考えて考えて、真実だろうと思われる答えが出せたとしても、最後の最後でどんでん返しが待っているだけなのかもしれない。
だが、だからといって、何も考えないでいいというわけにもならないだろうから、何が起こったのか、なるべく忠実に思い出したい。
*
合宿を終えて、無事に愛知県に戻ってきた俺達だったが、萌菜先輩が閉会の会をやりたいと言い出して、他の奴らもそれに賛同し、俺は流されるままに、綿貫亭の門をくぐった。
黒岩さんの運転する車は、行きは白のリムジンだったのだが、帰りは別の車で、黒塗りの左ハンドルだった。
綿貫亭のガレージのシャッターが開き、黒岩さんが危なげなくバック駐車をした後で、雄清が、運転席に座らせてくれと頼み込んだところ、黒岩さんは快諾して、雄清は楽しそうにいろいろいじっていた。俺はそんな様子をガレージの壁側の車の左後方で見ていたのだが、サイドミラーを見た雄清が窓から顔を出し、
「太郎の姿がミラーじゃ確認できないよ」
と言った。
「ここ死角なんだろ。教習所じゃ、巻き込み巻き込みって、酸っぱく言われるらしいぞ」
それを聞いて納得したのか知らんが、前を向き直り、その後もいろいろいじっていたみたいだが、トリップメーターのボタンを押して、リセットしてしまったようだ。
雄清がすまなさそうな顔をして謝ったところ、黒岩さんは別に使っていないので困ることはない、と言って笑って許してくれた。
合宿中、何から何まで世話になったうえで、綿貫家で、ご飯までごちそうになるのだから、本当を言うと、気が引ける思いがしたのだが、黒岩さんはじめ、他のお手伝いさんはもちろんのこと、綿貫の叔母さんもちっとも嫌な顔を見せずに、俺たち高校生の集団を歓待してくれた。
夕食を食べて、各々家に帰り、その日は皆、例外なくぐっすりと眠ったことだと思う。
気ままな合宿だったとはいえ、慣れない土地で過ごすというのは、知らず知らずのうちに神経に負荷をかけるのだろう。いつ眠りに落ちたのかわからないぐらい速く、意識は遠のいていった。
十分に睡眠をとった俺は、翌朝自然に目が覚めた。勉強合宿のおかげで、高校から出された課題はほとんど終わらせることができていた。なかなか楽しい合宿だったが、目的はしっかりと果されていたわけである。そう思うと、これを提案してくれた萌菜先輩には、感謝しておくべきなのだろう。
図書館にでも行って、参考書でも進めるかと思いながら、朝食を取っていたところで、スマートフォンが鳴った。綿貫からの電話である。
朝からラブコールかと思いきや、そんなに楽しいものではなかった。
何やら、とても緊急の事が起こったらしく、すぐに綿貫亭に集合するよう伝えられた後、具体的に何が起こったのか、聴き出す前に電話を切られてしまった。雄清や佐藤などにも電話を掛けるのかもしれない。
ただならぬことが起こったらしいことは分かったので、俺もすぐに着替えて、家を出る準備を始めた。
すでに起き出していた夏帆ちゃんは、そんな俺を見て、
「どうしたの? お兄ちゃん」
と尋ねてきた。
「なんか、トラブルが起こったらしくて、綿貫ん家に行ってくる」
「私も行く」
正直、夏帆ちゃんが何かの役に立つのかはわからなかったが、諭すような時間も惜しかったので、そのまま二人で家を出た。
誰それの下着がなくなった、ぐらいの話だったら、笑い話で済むのだが、本当に大変なことが起こったのかもしれないと思うと、俺は気が気でなかった。
電車に乗って名古屋駅に向かい、駅から綿貫亭までは歩いていく。夏帆ちゃんには少し早いくらいの速度で歩いてしまったかもしれないが、自分でついてゆくと言った以上、文句を言うことはしなかった。
門をくぐったところで、昨日乗った、ピカピカに磨き上げられた黒い外車がガレージの中に見えた。前からみた姿もスタイリッシュだったが、後方部分も何か大衆車とは違うものを匂わせている。だが、今は高級車に見とれているときではない。
ガレージをさっさと通り過ぎて、通用門となっている綿貫亭の裏口のドアホンを鳴らしたところ、すぐに綿貫が出てきた。
俺が着いたときには、雄清も佐藤も来ていた。二人とも走ってきたらしく、息を切らしている。
「突然および立てして申し訳ありません。夏帆さんもせっかくのお休みですのに、わざわざ来てくださって……」
と申し訳なさそうに綿貫は言った。
雄清と佐藤の顔を見るに、二人は何が起こったのか既に聞かされているようである。
俺はまず聞くべきことを尋ねた。
「何があったんだ?」
綿貫はきゅっと唇を結んでから、すぐに、
「萌菜さんがいなくなったんです」
と言った。
その深刻な表情を見るに、どうやら、かくれんぼをしているわけではないらしい。
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