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第1章.始まり

13.Koruseitラボ

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 ~現実~

 此処は都内のとあるビル。Koruseit world onlineの開発者達がゲームをやっている者達の様子を観察している場所である。

「ふぅ。みんな楽しそうにゲームしてるな。いいなー。俺もやりてぇ。」
 1人の男が小さくボヤく。


 そんな小さな声を聞き逃さずに反応したのは、
「そうですか? 案外やらずに見ているのも、楽しいと思いますけど?」
 教会の聖職者ロザンに入っていた人間、佐々木 翔平(ささき しょうへい)だった。


「いや。だってよー、Koruseit world onlineは日本のVRゲームの中で今1番注目を浴びてるゲームだぜ?やりたくもなるだろ。」


「まぁ、その気持ちも分かりますけど、そのゲームで色んな行動をしている人達を、リアルタイムで見る事が出来るんですよ?楽しくないですか?」


「はぁ、お前は…。なんというか、欲がないっていうか。」
 男は呆れた表情で佐々木を見ながら、大きな溜息を吐いた。


「ほら、この人なんか見てください。初日でユニーククエストに辿り着いている人がいますよ?」
 佐々木は楽しげにモニターを指差す。


「は? そんな訳ないだろ。ユニークをクリアするには色々な条件を満たさないといけないの。その他にも運も相当重要…」

 男はモニターを見た。



「…はぁ!?」


「どうです? 先輩?」
 佐々木はしてやったり! という表情で先輩を見る。


「嘘だろ…。他のユニークならともかく、『ソフィアの試練』かよ…。始まりの街でも最難関とされているユニークだぞ。まず場所の特定。場所は、人それぞれ違う所で発生するようにしている。人伝で聞いて行くのは不可能の筈だろ?」
 男は椅子に座り込む。


「しかも、レベル1の魔力50以上の幻術師しか行けませんからね。」


「あぁ。流石に魔力に50も振るバカ早々いる訳ないと踏んでたが…。」


「いましたね! バカが!」
 佐々木が今までないぐらいの笑顔を見せつける。


「はぁ。まぁ、クリアはされないだろ。行ける奴は今まで何人か居ただろ?」
 男は深く腰掛け、余裕そうな態度を見せる。


「まぁ。そうですね。」
 佐々木は黙る。


 佐々木が黙ると、捲し立てるように男が言う。
「そんなに俺達のゲームは甘くねぇーよ。俺達が何年かけて作り上げたと思ってんだよ?10年だぞ!! 学生の時から考えてたんだ!! その中でも最難関の『ソフィアの試練』。幻術師でも、本当に才能がある奴にしかクリアできない仕様になってる。簡単にクリアされてたまるか! バァ~カ!」
 男は舌を出して、佐々木をバカにする。


「…あ!」
 佐々木が画面を見て驚く。


「お! なんだなんだ? 追い出されたか?」
 男は立ち上がり、モニターを見に行く。そこには…




「は?」
 そこには、ソフィアと女の子が会話している姿があった。


「はははっ!やっぱり行きましたか!」
 佐々木は笑う。


「嘘だろ…しかも『混迷の幻惑書』まで…。ソフィアの好感度を最大まで上げないと貰えない筈だぞ…。こんな初対面で…。」


「この子がソフィアにどんな話をしたのか…やっぱり面白い子ですね。」


「おい! お前こいつの事知ってるみたいだな! 名前は!」
 男はモニターから目を離さずに、佐々木へ言う。


「ユーザー名はスプリング。パートナーは…インプです。」
 佐々木は丁寧にゆっくりと話すと、



「……なるほどな。通りで…幻術師に向いてる訳だ…。パートナーがインプで、職業が幻術師ってなると…。」
 男は俯き、思案する。


「はい。恐らくは先輩の思っている通りになる確率があります。」


「その確率も大分低いけどな。」


「そうですね。この後、彼女がどういう行動を取っていくか分かりませんが、私は楽しみでしかたないですね!」
 私は笑う。


「ま、確かにこうやって面白い奴が出てくるとゲームを作った甲斐があるってもんだ。」

 男はそう言うと、目を瞑って笑みを浮かべる。


「それと同時にもっと難しいユニークを作って良いという証明にもなったんだからなぁ!」
 男は部屋から走って出て行った。


「うわぁ…絶対あの人皆さんに言いに行きましたね。」




 Koruseit world onlineを作った人は全員で9人。
 うち2人は今ここで話し合っていた佐々木 翔平、阿部 寛(あべ ひろし)である。



 阿部が他の7人に話す事で、Koruseit world onlineは大きく変わろうとしていた。

 この事を予想できたのは、佐々木 翔平。

 ただ1人であった。
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