その瞳に映るは"魔王"か"勇者"か。 〜元最強の武人は、魔王が持つ『魔眼』を持って成り上がる。

ゆうらしあ

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第1章 人攫い

第16話 坑道の住人

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 その中は、一切の光を許さない暗闇だった。道幅は狭く、二人が横並びになってやっとぐらいの広さで木枠で補強された坑道、何年もの間誰も使っていないのかそこには砂埃が舞っている。


「……おい、これ本当に入るのか?」
「………入る。何か生き延びる可能性があるなら入るべきだろう


 傷を治して貰ったアレクは、ツクヨを連れメイドと共に坑道へと入っていた。
 アレクは少し及び腰のメイドを置いて、先へと入る。

 実際、メイドが心配する事も分かる事だった。何年も使われていないとなれば、何があるのか分からない。

 しかし、地面は平坦にならされており、人の手が加わっている事は間違いはなく、何処かに繋がっているのかもしれないというのは可能性のある事だった。

 それにーー。


(……これは何なんだろうな)


 視界にある蒼白の煙が何かあると、自分の直感が告げていた。

 何かある、と。

 ツクヨと同じオーラをしたそれは空中を漂い、奥へと続いていた。アレクは早まる足のまま奥へと進む。


「お、おい! は、早いだろ!」


 それにメイドが声を上げた。

 自分の目に見える煙は微かに周囲を明るくしており、迷いなく踏み出す事が出来る。だが、彼女にとっては真っ暗闇。躊躇するのは当然だろう。


「なら、服の後ろの方を掴んでてくれ」
「……私がか?」
「嫌なら置いていくだけだ」


 強制する事はしない。そこに余裕を割ける程、今は暇では無い。

 再び今度はゆっくりとした足取りで前へと進む。するとメイドは渋々と言った様子で服の裾を掴んだ。

 子供とは言え、人一人を持って歩くのはそれなりの体力を要する。それも意識を失っている上に、自分よりも体格が大きい相手。


(本来ならコイツに任せたい所だが、この様子なら難しいだろう)


 自分の手に二人の命が掛かっている。
 前世なら何とも無い重圧だった筈なのに……。


「ハハッ」
「な、何だ!?」
「いやーー」


 この状況で焦る程に自分は弱い。

 そして、どれだけ自分が成長する事が出来るのかを示していた。まだ自分は魔法を使う事も出来ない、それを考えれば成長幅は無限大だろう。


「悪くない」


 此処から生きて帰れるかは分からない。しかし、それさえも糧となる。

 アレクは背後から戸惑う気配を感じるまま進んだ。


 ~~~


 同じような景色が続く中、後ろで「あっ」と声が聞こえてツクヨ越しにぶつかった様な衝撃が伝わって来る。振り返れば、そこにはメイドが鼻頭を抑えている様子が見て取れた。躓いてしまったという所だろう。


「休憩しよう」
「なッ! まだ私は!!」
「別にお前を気遣ってじゃない。俺が疲れたんだ」


 実際かなりの疲労が溜まっていたアレクは壁際にツクヨを寄り掛かる様に置くと、その隣に座り込む。それをメイドはワナワナと身体を震わせた後、向かいの壁際に座り込んだ。


「……お前は本当に『魔王』なのか?」


 このまま眠ってしまったらどれだけ良いだろうかと、変な希望を巡らせている時メイドが問い掛けて来る。

 どういう意図で聞いて来ているか分からなかったがーー。


「……世間的にはそう呼ばれてるらしいな」
「私は、お前みたいな子供が『魔王』だとは思わない」
「へぇ?」


 予想外な言葉にアレクは面白げに目を眇めた。
 この世界に来て、そう真正面から言って来た者は居なかったから。誰もが顔を見て嫌悪感を示した。侮蔑な視線を浴びせて来た。だが、メイドは違うと言う。


「お前にはこの目が見えないみたいだな」


 アレクは少し挑発する様に発すると、メイドは首を振った。


「見える。だけど、それだけで『魔王』だと決め付けるのはダメだと……私は思う」
「……それは良い考えだな。だが、それだけで信じられる程俺は人が出来てない」


 ハッキリと告げる。馬車の中のメイドを見れば、疑いを掛けるのはごく自然な事だった。
 そんなアレクにメイドは目を丸くした後クスッと笑った。


「お前って本当に子供か……? ……私はな、小さい時に両親に売られてスブデ様に買われたんだ」


 それからメイドは自分の半生を一人呟いていく。これまでやってきた事、そして生きてきて分かった事ーー。
 野営地では昔の自分と重ねって、ツクヨを助けようとした事も告げていた。


「つまり、お前は俺達と同じ立場だって言いたいのか?」
「……似た様なものだな」
「そうか……よく一人で此処まで頑張ったな、凄いぞ」
「はぁ? 子供が何を言ってるんだ?」


 うんうんと頷くと、メイドは不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。
 前世を含めれば親と子ぐらいの差はあるが、気にしない方が良いだろう。


「ーーまぁ、安心しろ。お前にはこの手を治してくれた恩がある。恩は……必ず返す」
「ッ!」


 言うと、メイドは息を呑む様に身を竦めた。

 恐らく、あの左手の治療が遅れていたら動かす事なんて出来なくなっていたかもしれない。強さを追い求める上で片手を失う事は、剣を扱う剣士が剣を使わない様なもの。相当な恩をを受けてしまった。


「さて、そろそろ再出発しよう」
「ん、あ、あぁ……あ、私がそいつを運ぼうか?」
「まだ先は暗いが、良いのか?」
「……お前みたいな子供にいつまでも頼ってられないからな」


 ツクヨを背負おうとして、メイドに止められた。
 年上のプライドという所なのだろう。これは受けない方が失礼だ。

 背負う事を頼み、蒼白の煙を追って一本道の坑道を何十分か進むと突然煙の量が多くなる。同時に背後から前方へ、風が吹き込む。

 視界に広がるのは半円状になった大きな広場だった。岩肌が剥き出しになっているにも関わらず、そこにあったのは整頓され綺麗に並んでいる沢山のーー。


「本棚、だな」


 本棚には目一杯の本が入っている。見れば特に変わった事はなく、強いて言うならどの本も古びていると言った所。蒼白の煙も、此処ら中に漂っている。


「お、おい、誰か此処に居るんじゃないか?」


 後ろをついて来るメイドが服を引っ張る。

 普通に考えて、この様な人工物が此処に残っている訳がない。もし何年も此処が使われていなければ、もっと埃が積もっている筈。

 つまりーー。


『何の用?』


 突然、奥から声が聞こえて来る。
 それは人の言語ではない。しかし意味が分かるという、不思議な言語だった。


「ど、どうするの?」
「……一先ず奥に行ってみよう」


 此方が気付いていない状況で声を掛けて来るというのは、敵意が無い状態か、それかーー。

 メイド共に奥へと進むと、そこに居たのは綺麗な少女だった。白髪というよりは、銀髪と言った方が良く似合う彼女は、足が緩やかなカーブを描いた椅子に揺られながら本を読んでいた。

 此方を見向きもせず、パラパラと本を捲っているその眼は金色に光り輝いており、視線を下せば格式ばった軍服の様な物を着ていた。胸部は慎ましながら膨らんでいる為、女性である事が分かる。

 そして何よりーー。


(コイツ、強いな……)


 自分の第六感が警報を鳴らしていた。この世界に来て初めての強者との対峙に身震いする。


『人の子と……へぇ、珍しいモノが来たわね』


 彼女は此方を見て、少し驚いたかの様に目を見開いて笑う。


「ヒッ……!」


 背後にいるメイドが声を上げ、アレクは自然と二人を守る様に立ち塞がった。

 珍しいモノ。『魔王』と呼ばれる自分の事を言っているのだろうと、アレクは物怖じせず余裕綽々に肩を竦めて彼女に告げる。


「こんな所で本を読み耽る奴に言われたくないな」
『ふふっ、それもそうね。それで、もう一回聞くけど何か用かしら?』
「……俺達は使い捨てられた坑道だと思って此処に入っただけだ。人が居ると思ってなかった。この坑道が街まで続いていればな、と」
『イカラムの城下町に?』


 アレクが頷くと女は少し考えるかの様に天井を煽る。


『街までの道のりなら、此処を真っ直ぐに行けば着くわ。アイスウルフ達には貴方達を襲わせない様に言っとくから安心して』


 彼女は奥へと続くであろう道を指差す。
 アイスウルフにどのように言えば襲わないようになるのか分からなかったが、今の自分には逆立ちをしようと勝てない相手。下手な事は言わない方が良いとは思っていた。

 しかし、アレクは奥の道へ向かう途中、足を止め本棚の隅。蒼白の煙が漂っている元になっている本を指差した。


「ついでと言っちゃなんだが……あそこにある本一冊、見せて貰っても良いか?


 すると、彼女はまた興味深そうに笑みを深めた。


『へぇ……やっぱり貴方は面白い人だわ。……見るだけじゃなくて、持って行っても良いのよ?』
「良いのか?」
『でも必ず返して欲しい。それは私にとって大事なモノだから』
「大事な物……なんで?」
『なんで、か……何となく。私の気まぐれ。そして、過去の恩を返す為かな……』
「過去の恩? 俺達は会った事なんてーー」
『話は終わり。早く此処から立ち去って貰える?』


 また彼女は本に視線を戻した。
 これ以上話すのは止めておこうと、アレクは本を一冊取るとメイドと共にそこから離れ、出口に続いてるであろう道へと入る。
 それから数分後、メイドは息を止めていたのか「ぶはぁッ」と大きく息を吐いた。


「な……何でお前はあんなに平然と話せたんだ?」
「何で、か……」
「わ、私にはあんなと話せる余裕なんて無い!」


 化け物。
 普通の者にはそう見えたのだろうか。聞こうとしたが、既に遅し。メイドは暗闇の中足元を覚束せながら前へと進んだ。
 それから数分もしない内に、通路の先から光が見え、アレク達は無事に外に出る。

 視界に広がるはラムサル山の山頂から顔を出す朝日。雪は止み、真っ白い地平線の先にはイカラムを囲む城壁が見えた。


「ん……何?」
「はぁ、はぁ……おい、コイツやっと起きたぞ」


 日差しの影響か、ツクヨが口からメイドの肩に一筋の糸を伸ばしながら目覚めた。


「お土産だ」


 アレクは手に持っていた本をツクヨへと手渡す。


「何これ……『氷の魔女』?」


 謎の女性から貰った本、蒼白の煙が上がっていた本は、この絵本だった。何故絵本からツクヨと同じ色をした煙が漂っていたのかは分からない。

 だが、見比べれば見比べる程に色は同じだった。



 ウ"オ"ォオ"オォォォォォォォォォンッ!!



 そんな時突然、アイスウルフの『死の遠吠え』など児戯に過ぎないと言わんばかりの鳴動が地を揺らす。


「え……今のアイスウルフ?」
「おい、今のって……」
「いや………行こう」


 アレクは振り返って怪訝に眉間に皺を寄せた後、首を横に振った。

 その遠吠えが聞こえて来たであろう坑道を背に、アレク達はイカラムを目指して歩き出すのだった。
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