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第6章(2)ツバサside
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しおりを挟む「……少し前、白金バッジを賭けた下剋上があったんだ」
『え?』
「チャンスだと思った。
こんなに早く白金バッジの人と下剋上出来るなんて、ラッキーだと、思った」
ミライさんの時は、いきなりで驚いたけど、下剋上の内容が"演技なら"って思った。
瞬空さんの時は、ナツキさん、シャロンさんからの連続の成功で勢い付いてて"このまま白金バッジも取れる"って、思ってた。事務所で、瞬空さんと顔を合わせるまでは……。
「……っ、でも。駄目、だったんだ。
二回とも、どっちも失敗して……。一回は、ほんと……全然、駄目駄目で……っ」
甘かった。
勝負内容が自分の苦手分野である格闘じゃない事を、相手の得意分野である格闘じゃない事を、俺は喜んでたんだ。
瞬空さんはミライさんより下だから、心の何処かでどうにか出来ると……思ってたんだ。
自分自身と向き合えない雑魚のクセに遥か上を見て、スカスカの足元のまま背伸びして飛び越えようとしていた。
「っ……ごめん」
『……』
「すぐに迎えにいけなくてっ……ごめ、……」
『ーーすごいね、ツバサ。
もう白金バッジの人と下剋上してるの?』
「!っ、……え?」
耳を疑う。
謝る俺に聞こえてきたのは、それはそれは、綺麗な音だった。そしてその声は、隙間から溢れ出した弱味を中和して、痛みを癒やして、心の中に浸透する。
『焦る必要、ないと思う』
「……」
『だって、まだ始まったばかりなんだよ?
それに私、音信不通だったあの頃より、今とっても幸せなの』
「……」
『ツバサとちゃんと繋がってるんだって、思えるから』
「……っ」
『ありがとう、ツバサ』
彼女は、とても些細な事に幸せを感じてくれていた。
そして、悩んでいた、暗闇にいた俺を、導いてくれる。
『私、信じてるよ。
来年の今頃、ツバサと「こんな事あったね」って、今を笑って話せるって……信じてる』
「っーー……レノア」
パァッと、何かが弾けて心に光が灯る。
レノアが目の前にいる筈がないのに、彼女をすごく身近に感じた。
ーーそうだ。
何を迷ってるんだ?
何を、怖がってたんだ?
俺がやるべき事はレノアを自由にしてやる事。
レノアの笑顔が消えてしまう事に比べたら、怖いものなんて何もない。
「……。ありがとう、レノア」
ようやく歩き出せそうな俺がそう言うと、急に電波が悪くなったのか通話はプツリと切れた。
ポケ電を耳から離し、右手で握り締めながら俺の中に浮かぶ想い。
そうだ。恐るな、前に進め。
レノアを救えるのならば、それが例え化け物の能力でも構わないじゃないかーー……。
彼女を救いたい。
その強い想いから俺は、そう、思い始めていた。
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