グレイ

第４章（３）弥夜side

4-3-1

お父さんが生きているかも知れないーー。

そう思ったら、ずっと胸の奥底に閉じ込めて来た感情が一気に熱く噴き出した。


「弥夜やよい、一体どうしたの？」

「私達はついさっき遠征から帰って来たばかりなのよ？長期任務明けの隊員は休暇を取る事は必須。
もう何年も隊員をやっているのだから、貴方も分かっている筈でしょう？」

会議室を連れ出されて来た中庭。
同じ隊であり先輩のハルさんとリンさんは、僕を心配しながら優しく語りかけてくれる。
けど、今の僕にはそんな二人の優しい言葉も煩わずらわしく思えてしまった。

幼い頃に離れ離れになってしまったきり、ずっと何の手掛かりもなかった響夜きょうやお父さんの事ーー。

それが分かるかも知れないのに、居ても立っても居られない。

ハルさんの事は隊長リーダーとして頼りにしてる。
リンさんの事も、同じ部隊の隊員メンバーとして尊敬してる。

それでもこの事は話せない。
誰にも言えない。口にしてはいけない。
人型魔物の存在は普通の人には絶対に言ってはいけないし、同じ人型魔物の紫愛シアだって、僕の本当のお父さんが橘たちばな 響夜きょうやだとは知らないんだ。

僕を育ててくれた紫夕さん父さんの為にも、絶対に他人にバレてはいけないーー。

そんな想いから、何とか保たれていた理性。
たくさんの想いを飲み込んで、僕はハルさんとリンさんに、

「すみませんでした。
部屋に戻って、休みます……」

そう言って、頭を下げて、二人の前から立ち去った。

けれど、それは当然表向きの態度や建前で、僕はまだ諦めてはいなかった。
本当のお父さんかも知れないダークゲイルの事を、他人になんて任せてはおけない。僕は自分の手で探したい。
そして、自分の目でハッキリと確かめたかった。

……でも。
僕のそんな強い想いから、事態は大きく動いてしまう事になる。

……
…………。