上 下
59 / 163
第4章(4)マオside

4-4

しおりを挟む
〈回想〉
【三年前/病室】

目に映るのは、知らない天井。
上手く動かせない身体。

目線だけ泳がせて見ると、ほとんどが白色の知らない空間だった。

そこは病院の個室。


医師や看護師の説明で、僕は脳の病気で手術をしたんだと告げられた。

でも、僕には何も思い出せなかった。
病気の事だけじゃない。
自分の名前や、家族の事、これまで生きてきた事も……全部。

人が話す言葉はゆっくりと時間をかければ理解出来たけど、文字は書けないし、読む事も出来ない。

身体を動かす事にもリハビリが必要で、自分一人では思うように何も出来ない生活。


そんな中。
見舞いに来てくれた祖父と名乗る人物は、僕を見て失望していた。
呆れた表情で、溜め息を吐いて、冷たい視線で僕に言った。

”役立たず”って……。


身内と言われてもピンとこなかったけど、面と向かって言われたその一言はやっぱりショックだった。

初めのうちは祖父と一緒に顔を見せてくれた弟も、ある日を境に病院には来なくなった。
この二人が、僕の家族。


でも、後に分かった。
弟とは腹違いで、僕は父親が愛人との間に作った子供なんだという事。

一族の家系にはない、突然変異で色素の薄い僕の白金色の髪と瞳を祖父が嫌っている事。


唯一。手術前までは優秀だった僕の仕事ぶりだけは、祖父が気に入ってくれていたらしい。


ーーつまり。
それだけが僕の取り柄で、家族である絆だったんだと思う。

……。
けど、僕は忘れてしまった。
仕事どころか、普通の生活でさえ自分一人では満足に出来ない。

手術費用、入院費、リハビリ……。
お金ばかりかかる僕は、”役立たず”と言われても仕方ない存在だった。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

史上最悪の王妃は2度目の人生を与えられました

oro
恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:514

悲し寂しい時に

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

その関係はこれからのもの

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:4

後宮で侍女になった私は精霊に好かれている

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:90

1999年 魔都 魔王による世界統一

SF / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

-アプリ- 最後の1人

ホラー / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:2

泡沫の香り

H2O
青春 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...