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第4章(4)マオside

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「……眼鏡があってもなくても、”本当の僕”なんて何処にもいないのかもね」

そんな事を思って、壊れた伊達メガネを両手で握り締めていると……。


「マオ様、み~つけた!」

明るい声と同時に、背中にフワッと暖かい温もりを感じた。
聴き慣れた声と、柑橘系の香水の香り。


「!……ミネア、さん?」

顔を上げて振り向くと、ベンチに座る僕の背後でミネアさんが微笑んでいた。


「も~、マオ様ったら酷いですわ!
本屋にいるって言ったのに、勝手に移動しちゃうんですもの。捜しましたわよ!」

「!……あ」

ミネアさんに指摘されて、僕はハッとした。

最悪だ。
自分で待ち合わせ場所を指定しておきながら移動して、しかも今の今まですっかり忘れていた。
汗がタラタラと垂れそうな位に慌てる。


「あ、あのっ……!」

「あ~あ、マオ様にとって私の存在なんてその程度なんですのね~。悲しい……」

少し拗ねたようにそう言うと、さっきまでの笑顔を曇らせたミネアさんは僕の隣に座って俯いてしまった。


その寂し気な横姿に本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
が、何と声を掛けていいのか分からない。
弁解の言葉も、気の利いた言葉も、僕には上手く言えなかった。


「っ……」

情けなくて嫌になる。
シーンと静まり返る微妙な空気。

自分の至らなさが原因だと、ビクビクおどおどした態度がみんなを困らせて不快にさせると分かりながらも変われない。

だからみんな、僕の事なんて嫌いなんだ。
そう心の中で呟いた瞬間。


「……な~んて!
嘘ですわよ、怒ってませんわ!」

弾むような優しい声と、目の前に広がる嬉しそうな笑顔。
ミネアさんは自分の鞄から伊達メガネを取り出すと、僕にそっとはめてくれた。


「!……これ、……」

「雑貨屋さんで見付けて買ってきたんですの。
安物ですけど、ないよりはマシでしょう?」

自分の顔に装着された伊達メガネに触れながら驚く僕に、微笑んだ彼女が子供をあやすように言う。


「独りにしてごめんなさい。
人の多い知らない街で、心細かったわよね?」

僕を見つめてくれる、優しい瞳。
出逢った時から変わらない笑顔に、安心する。

ミネアさんは、いつだって僕の傍にいてくれた。


……
…………。
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