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第4章(5)マオside

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「……早く、結婚したい」

「?……ミネアさん?」

「早く、マオ様と結婚したいですっ……」

「……」

変わる事がないと思っていた、僕とミネアさんの関係。

来年の春に、僕達は結婚する予定だ。
一番の難関だと思われたミネアさんのお父様にもようやく了承を得て、もう僕達を遮る障害など何もない筈だった。

それなのに、まるで何かに怯えるように結婚を焦る彼女の発言。


この時の僕は何も知らなくて……。
これから起ころうとしている事。
運命の歯車が動き出している事にも、気付かなかった。

港街の広場の噴水で、僕が思わず目を奪われたあの黒髪の女性の願い事も……。
目を奪われた理由が、なんなのかも……。

……。

今まで一度だって結婚を急ぐ事をしなかったミネアさんの突然の変貌に驚いて、ただなだめるように頭を撫でていた僕に彼女が言った。


「マオ様。
今夜は、わたくしと一緒にずっといて……」

滅多に我が儘を言わないミネアさんの、数少ないお願い。
辛い時、ずっと傍に居てくれた彼女の願い。

僕には断る選択肢なんて、なかった。

……
…………。
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