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第5章(1)アカリside

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もう、あの人は……。
きっとヴァロンで在って、ヴァロンではない。
別の人に、なってしまったのだ。

そう思って、諦めようとした。

私は母親だもの。
子供達を守らなきゃいけない。
きっとヴァロンも、それを望んでいる。

そう、自分に言い聞かせた。

彼が幸せに生きていてくれるなら、それでいいって……。


……。
でも、神様は意地悪で……。
運命は残酷なくらいに私に思い知らせるの。

彼じゃなきゃ、ダメなんだって。


……。

ふとレジからお店の出入り口のガラス戸を見ると、いつの間にか外は雨が降り始めていた。

梅雨の時期、今日は6月15日。
ヴァロンの師匠であり、想い人だったリディアさんの命日。

そう思い出した瞬間。
カランカラーン!と鈴が鳴り、お店の扉が開いた。


「!……あ、いらっしゃいませ~!
……。え……っ?」

ハッとして声を発した私は、お店に入って来た人物を見て思わず口を手で押さえた。


これは神様の意地悪。

……いや。
きっと、リディアさんのイタズラだった。

……。

突然の雨に降られ、雨宿りの場所を求めるようにお店に入ってきた男性。

それは、間違いなくヴァロンだった。


嘘っ……、どうして?

ドキンッと高鳴る鼓動。

黒に近い灰色の髪と瞳と、黒縁の伊達メガネ。
仕事中なのだろうか?
先日の私服とは違って、今日はビシッとしたスーツ姿の彼。
メガネを外して、雨に濡れた髪や服をハンカチで拭いている。

おかしい。
そんな彼の姿にでさえ、胸が弾む。
今にも涙が溢れそうな位に、愛おしさが溢れてきてしまう。


普通に接客なんて、絶対に出来ない!

私は彼に気付かれる前に奥に引っ込んで、レジ番を誰かに代わってもらおうと思った。

……のに。


「……あの、っ……。
ここのお店って……ホットミルクはありますか?」

控え目に尋ねてくる声。
大好きな彼に声をかけられたら、無視なんて出来なかった。
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