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第5章(4)アルバートside

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〈回想〉

ヴァロン君が”マオ”としての長期任務を終え、アカリとまだ赤ん坊だったヒナタを迎えに来た時の事。

私の別荘から港街へ戻る前夜。
彼は一人で私の部屋に訪れ、酒に付き合ってくれた。


「さぁ、ヴァロン君。
どんどん飲んでくれたまえ!」

「……はい、頂きます」

私のコレクションの一つである地酒の数々。
仕事先で買ってきたり、私の酒好きを知っている者達からお土産に貰った宝物だ。

自慢の酒の瓶を目の前のテーブルに並べて上機嫌の私に、とても言えなかったのだろう。
後にアカリからヴァロン君は酒が全く飲めない下戸なのだと聞いた。

それなのに、彼は全く嫌な顔一つせず進めた酒を飲み干し、私が「お開きにしよう」と言う最後まで付き合ってくれた。


勿論、そんな彼も気に入った。
だが、私が認めたのはそれだけではない。


それは、長期任務の際に”マオ”として仕事を熟していた彼を私が褒めた時の事。
何でもやってのけるヴァロン君に、正直私は不安を抱えていた。

あんなにすごい才能を持つ彼に、アカリはちゃんと相応しい妻なのか……。
物足りない、と思っている事はないのか?……と。


すると、ヴァロン君はこう言った。

「それは、私の台詞ですよ。
今回の任務の事だって、いつだって……。アカリさんに嫌われないか不安なのは、私の方です。
いつか、彼女の魅力に気付いた誰かに奪われたりしないか必死で、必死で……。
私の方が、絶対にアカリさんに夢中です」

そう答えた後、聞いてもいないのにひたすらアカリの事ばかり話し始めた。
アカリとの想い出や、好きな手料理の話。

後から思えば、酔っていて歯止めが利かず話していたのだろうな。
だが、その表情からは優しさと幸せが満ち溢れ、聞いているこちらが思わず笑ってしまう程で……。

彼にはアカリしか見えていないのだと、私は心から安心した。
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