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第5章(5)ローザside
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【ローザ33歳/アルバート別荘】
「使用人長って、お綺麗なのにご結婚はされないのかしら?」
廊下の曲がり角に差しかかろうとした時、そんな声が聞こえた。
ーー全く、若い娘はそういう話が好きね。
心の中で溜め息を漏らしながら私が自分の存在をアピールするように「ゴホンッ」と咳をすると、それに気付いた若い使用人達はワタワタと散って行った。
誰にも語ってはいないが、私は結婚する気はない。
己の身を、アルバート様に託されたこの別荘の使用人長として一生捧げ終えるつもりだ。
そりゃあ、私だって若い頃はあったし、青春がなかった訳ではない。
それなりに裕福な家庭に産まれた私は暮らしに不自由はなかったし、教養にも恵まれ、将来は素敵なお嫁さんであり母親になるのを夢見ていた時期もある。
それは、17歳の時。
ずっとずっと大好きだった、幼馴染の彼との婚約が決まったのは。
5つ年上の彼は、お世辞にもしっかりしているとは言えなくて……。むしろ、年下の私が世話を焼く側。
でも、口うるさい私に「はいはい、ローザはしっかり者だな」、そう言って優しい笑顔で、大きな手で頭をくしゃくしゃと撫でてくれる。
そんな彼が、大好きだった。
ずっとずっと変わらないと思っていた。
彼と結婚して、一生彼の傍で「もうっ」と言いながら生きていくのだと思っていた。
そう、あの日まではーー。
結婚式まであと一ヶ月。
彼は仕事先で災害に巻き込まれ、もう二度と、私の元へ帰ってくる事はなかったのだ。
信じられなくて、受け入れる事が出来なかった私。
けれど、本当に信じられなかったのは……。
「いや~結婚前で良かった良かった。
清いままの今なら、またすぐに嫁ぎ先が見付かると言うものだ」
両親や親族の、心ない言葉。
「使用人長って、お綺麗なのにご結婚はされないのかしら?」
廊下の曲がり角に差しかかろうとした時、そんな声が聞こえた。
ーー全く、若い娘はそういう話が好きね。
心の中で溜め息を漏らしながら私が自分の存在をアピールするように「ゴホンッ」と咳をすると、それに気付いた若い使用人達はワタワタと散って行った。
誰にも語ってはいないが、私は結婚する気はない。
己の身を、アルバート様に託されたこの別荘の使用人長として一生捧げ終えるつもりだ。
そりゃあ、私だって若い頃はあったし、青春がなかった訳ではない。
それなりに裕福な家庭に産まれた私は暮らしに不自由はなかったし、教養にも恵まれ、将来は素敵なお嫁さんであり母親になるのを夢見ていた時期もある。
それは、17歳の時。
ずっとずっと大好きだった、幼馴染の彼との婚約が決まったのは。
5つ年上の彼は、お世辞にもしっかりしているとは言えなくて……。むしろ、年下の私が世話を焼く側。
でも、口うるさい私に「はいはい、ローザはしっかり者だな」、そう言って優しい笑顔で、大きな手で頭をくしゃくしゃと撫でてくれる。
そんな彼が、大好きだった。
ずっとずっと変わらないと思っていた。
彼と結婚して、一生彼の傍で「もうっ」と言いながら生きていくのだと思っていた。
そう、あの日まではーー。
結婚式まであと一ヶ月。
彼は仕事先で災害に巻き込まれ、もう二度と、私の元へ帰ってくる事はなかったのだ。
信じられなくて、受け入れる事が出来なかった私。
けれど、本当に信じられなかったのは……。
「いや~結婚前で良かった良かった。
清いままの今なら、またすぐに嫁ぎ先が見付かると言うものだ」
両親や親族の、心ない言葉。
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