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第6章(2)アカリside
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しおりを挟む「あ、あの……。
お風呂、ありがとうございました」
暫くして扉が開いたかと思うと、ものすごく遠慮がちに声を掛けながら彼が脱衣所から出て来た。
私が選んで用意した黒い細身のズボンと、深い緑をベースにした長袖シャツに身を包んだ彼は、三年前と全然変わらない。
まるでこれから私と出かける為に、変装してくれたヴァロンみたい。
元々彼の服なのだから当然なんだけど、とてもよく似合っていた。
「これ、旦那さんの服……ですよね?
僕が着ちゃって、良かったんですか?」
そんな事をつゆ知らず、そう尋ねてくる彼。
よく見るとまだ髪が上手く拭けておらず、毛先からポタポタと雫を垂らし肩を濡らしていた。
「気にしないで下さい。
て、言うか……。髪、まだ拭けてませんよ?」
私は側に寄ると彼が首に掛けていたタオルを手に取って、濡れている髪を拭いてあげる。
こういう事はヴァロンの方がしっかりしていた為、三年前では考えられなかった事だ。
世話を焼いてくれたのは、彼の方。
お風呂上がりに私の髪が上手く拭けていないと、ヴァロンはいつも優しく拭いて乾かしてくれた。
まさか、こんな風に立場が変わるなんてね。
「っ……あ、の。
自分で、やりますからっ……」
この状況をほんの少し楽しんでいた私の行動に頬を赤らめた彼が、タオルを取り返して身体ごと少しズラしてそっぽを向く。
その行動は拒絶されたみたいで悲しかったが、変にしつこくする事も出来ない私はゆっくり離れようとした。
その時。
お風呂上がりで手袋を外していた彼の左手が、私の目に映る。
「……えっ?」
思わず声が漏れて、私は驚きのあまり凝視してしまった。
彼の左手の甲には、まるで何かがそこに突き刺さったような傷跡があったからだ。
「!……あ、っ。
すみません……気持ち悪い、ですよね?」
視線に気付いた彼は慌てて隠そうとしたが、私はさっとその手を取り、自分の両手で包み込むようにしながら傷跡をゆっくりと見た。
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