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第6章(2)アカリside
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しおりを挟む手の甲から手の平まで貫通した傷跡。
三年前の別れ際、そういえばヴァロンは左手に包帯をしていた。
これは、その時の傷なのだろうか?
痛々しい傷跡に、当時の事を思い出して視野が滲んでしまう。
「っ……あの、平気ですよ?
古傷なんで……もう、痛みはありません。
ただ少し動かしづらくて、物が掴みにくいだけです。
……だから。そんな表情、しないで下さい」
私の反応を見た彼が、困ったように微笑んで言った。
大丈夫な訳ない。
本来左利きだった彼にとって、それが上手く使えないという事はかなりの不自由な筈だ。
それに、こんな痕が残る位の怪我。
痛かったよね?
貴方の事だもん。きっとたくさん我慢して、頑張って、ここまで来たんだよね?
ーー傍に居たかった。
この傷だけじゃない。
私の知らない時間に、一体貴方はどんな試練を乗り越えてきたの?
溢れた想いが頬を伝って、彼の手に雫となって落ちた。
「っ……ごめん、なさい」
その瞬間に我に返ると、パッと離れて涙を拭う。
余計な事を考えたり、思ったりしてはいけない。
深く詮索してしまえば、どんどん気になる事が増えて止まらなくなってしまうから。
産まれてからずっとずっと苦しんで生きてきたヴァロン。
彼がこの三年間で築き上げていた人生が、もし幸せな道に続いているのならば放してあげよう。
彼がまた迷って、悲しんだり辛い想いをしないように……。
私が、自ら身を引こうと思った。
それがきっと自分に出来る最後の事だと思って、私は声を弾ませて言う。
「ね?お腹、空いてませんか?」
「!……え?」
「お昼ご飯、簡単ですが用意したんです。
……一緒に、食べてもらえませんか?」
これが私の最後のお願い。
”やっぱり、アカリの作る飯が一番だな!”。
ヴァロンはいつも私の手料理を食べて、そう言ってくれた。
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