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第6章(3)マオside
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しおりを挟む僕は何故、断らなかったんだろう?
招かれた食事の席に着いて、目の前に並べられた食事を見つめながらそう思った。
彼女にはーー。
アカリさんには可愛いお子さんと、まだ見た事はないが旦那さんがいる。
そのご家族の留守中に家に上がり込んで、その上お風呂に食事まで……。
旦那さんに知られたら、大変な事になるんじゃないか?
そう頭で分かっていながら、断れなかった。
きっとそれは、僕を食事に誘った時の彼女の表情がすごくよく似ていると思ったからだ。
誰もいなくて、リハビリも食事も、何もかもが孤独だった時の僕に。
可愛いお子さんに旦那さん。
暖かい家族を持つ彼女が僕と同じ境遇だなんてある筈がないが、少なくとも今孤独を感じているんだと悟って……断れなかったんだ。
ご馳走になる。
と僕が言った瞬間の、瞳を輝かせて微笑った少女のようなアカリさん。
ずっと、見ていたいと思う程の笑顔だった。
「さっ、温かいうちに食べて下さい」
「!……あ、はいっ。いただき、ます」
声を掛けられてハッとすると、食卓に用意されていたスプーンを慌てて手に取る。
アカリさんが作ってくれた昼食はオムライスにスープにサラダ。
ふわふわに焼かれた玉子が乗ったケチャップのオムライス。
玉ねぎが入ったコンソメスープ。
彩り綺麗なサラダ。
食欲をそそられながらも、僕は口にするのを躊躇していた。
理由は、味覚障害。
三年前、目が覚めて初めて食事を口にした時から、僕には食べ物の味がよく分からなくて……。無理に噛んで飲み込もうとすれば、気分が悪くなって吐き戻してしまうのだ。
お医者さんからは、精神的ストレスが原因だと言われた。
だから普段はあまり噛まなくても飲み込めるスープ系だったりリゾットだったり、口当たりの良い果物しかほとんど口にしていない。
もし、また吐いてしまったら?
そんな不安を抱えながらスプーンを握ったままでいると、そんな僕をじっと見つめている視線に気付く。
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