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第7章(5)シュウside
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しおりを挟むだから、私から言う事は何もない。
マスターとして、これまで人の夢を叶え続けて来た配達人やそれをサポートしてきた調査員が、今度は己の夢を掴めるように新たな門出を見送るだけ。
それが、マスターである私の務め。
リディアが去り、ヴァロンが去り。
レナとレイが去った今、ユイがいなくなればリディアとヴァロンと私を繋ぐものは、もう何もなくなる。
その現実に寂しさを感じるが、これはどうしようも出来ない事。
そう、言えない想いを封じた私。
けれど。
変わらない絆は、確かにここにあった。
「マスター、違うんです!
私は調査員を辞めたりしません!これからも、ここで働きたいんです!」
「!……え?」
ユイの言葉に、耳を疑う。
しかしそれと同時に、マスターではなく私自身の気持ちが溢れて口が自然と開いた。
「何故、ですか?」
久しく忘れていた気持ちが甦ってくる。
大切な二人が残してくれた光に心を照らされるようにして、素直な、私の問い掛けが溢れた。
「ヴァロンを、取り戻したくはないのですか?
レナとレイと一緒に、アカリさんの手助けをしなくてもいいんですか?」
その質問を聞いて、ユイは微笑った。
ハッキリと表情が見えた訳ではない。
答える声と、雰囲気が、彼女が笑顔である事を教えてくれる。
「私はまだ、何もしていませんから……。
自分で決めて調査員になったのに、まだスタートラインに立っただけなんです。
こんな中途半端な私が、もしヴァロンさんを取り戻す事が出来ても……呼べませんから。
……”お父さん”、って」
お父さんーー。
それはユイの口から、初めて聞いた言葉。
そして。
そう言った彼女の凜とした声の張りが、ようやく自分の気持ちに整理がついた事を告げていた。
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