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第8章(1)マオside
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しおりを挟む予想外の出来事ですっかり動揺してしまった。
心臓がバクバクと音を立てている。
きっと、あの店員さんは僕の事を怪しいと思ったに違いない。
そう思って、商店街のショーウィンドウに映る自分をチラッと見た。
センスがないからどんな服装をしていいのか分からなくて、仕事もないのに今日はスーツ姿で来てしまった。
近くに海があるから多少風は涼しいが、やはり時刻によっては暑い。
しかも、慌ててしまったからか余計に暑くて汗が出てくる。
どうしようかな?
アカリさんの自宅を知らない訳じゃないけど、家まで押し掛けるのはさすがに馴れ馴れしく思われるかな?
そんな事を思いながら、額の汗をスーツの袖で拭った時だ。
「マオ、さん?」
!!……この、声は。
一度聴いたら忘れない、美しい声。
声のした方に目を向けると、長い黒髪を風に揺らしながら……。
僕が今、1番会いたかった人がそこに居た。
「っ……アカリ、さん」
彼女を見たら、また一層暑く感じる。
それに、鼓動もトクンッと跳ね上がった。
僕の事をじっと見つめる漆黒の瞳が綺麗で、固まったように目を逸らせないし、言葉も出て来ない。
以前も感じた。
傍に行きたいのに、行けない。
一緒に居たいのに、逃げ出したくなる矛盾の感情。
これは、なにーー?
その場から動けないでいると、アカリさんは自らが僕に歩み寄り、傍に来てくれた。
「お久し振りです。
どうしてここに?……あ、お仕事ですか?」
スーツ姿の僕を見て、彼女が首を傾げながら言った。
その可愛らしい仕草に釘付けになりそうになりながらも、僕はハッとして手に持っていた紙袋を差し出した。
「あ、あっ……あのっ!
先日は、そのっ……ありがとうございました!
これ、お礼と!それにお土産っ……渡したくて!」
本来の目的を思い出したが、すっかりテンパって言葉を詰まらせる。
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