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第8章(1)マオside
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しおりを挟む何度もちゃんとお礼を言えるよう練習したのに、全くの無駄だった。
恥ずかしすぎて、絶対に真っ赤になっている顔を僕は頭を下げるフリをして俯かせていた。
受け取ってもらったら、さっさと帰ろう。
これ以上また情けない姿を見せたくなくて、差し出していた紙袋を彼女が受け取った感覚を感じたら、すぐ去るつもりだった。
でも。
そうはさせてくれないのがアカリさん。
「!……え?
じゃあ、私に会いに……わざわざ、来てくれたんですか?」
「はっ、はい!」
「……」
……。
……。
ーーあれ?
なかなか、受け取ってもらえない。
どうしたのかな?と顔を上げて彼女の様子を確認した。
その、瞬間。
っーーー!!!
アカリさんを見た、瞬間。
まるで、今自分が世界で1番幸せな気がした。
僕を見て、少女のように嬉しそうに微笑む彼女の姿が輝いて映る。
本当に、月の国のお姫様が天から舞い降りて来たみたいだ。
「ありがとうございますっ!
すごく、すごく嬉しいですっ!」
声を弾ませて、紙袋を持つ僕の手を両手で包むように握り締めるアカリさん。
ーーああ、なんでだろ?
涙が、出そうになる……。
握られた手から伝わる温もりが、全身に行き渡っていくように。
見上げる瞳と重なって、感情が心まで沁み渡って、溢れ出すみたいだ。
この手を……。
いや、僕は確かに思った。
彼女を、離したくないってーー。
「ママ~!なにもらったの~?」
「!!……ぁ」
婚約者がいながら、別の女性にやましい感情を抱いた僕を打ち消したのは……。小さな少女の声。
無邪気な声に視線を移すと、僕とアカリさんが持つ紙袋を必死にピョンピョン跳ねながら覗き込もうとする彼女の娘さん。
娘さんの言葉に我に返って、バッと包まれていた手を引っ込めると、紙袋が地面に落ちて中から猫のおもちゃが飛び出した。
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