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第8章(3)マオside

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……でも。
この時の僕には、この感情の名前が分からなくて……。

こんなにすぐ近くに、僕の探していたものがあるなんて思わなかった。

”自分の居場所”に、僕は還ってきていたのに……。

僕は、まだ気付けなくて。

それが後に、彼女達に流さなくてもいい涙を流させてしまう結果になる事にも……。

……
…………。


「も~わかった!一緒に遊ぼう!
マオさん、すみません。絵本はまた今度でもいいで……」

「すか?」と語尾を小さな声で言ったアカリさんが、僕の方を見て、目を見開いた。


一方の僕は、目の前に広がっていた愛おしい家族のやり取りを見て、思わず口元に手を当てて、笑っていたんだ。

可愛くて、愛おしくて、自然と込み上げた幸せに、心からの笑顔が溢れる。

今のマオの奥で眠ってる昔のヴァロンが、無意識に目覚めて、笑ってた。


「マオさん、ニコニコ~!なんかいいことあったの~?」

「!……えっ?」

そう。無意識だったから、ヒナタちゃんに問い掛けられて、僕はこの時初めて自分が笑っている事に気付いた。


その事を自覚して、一瞬驚き戸惑ったけど……。すぐに思った。

”大丈夫”だって。
「この人達の前でなら、そのままの自分でいいんだ」って……。
心の奥底で、言われた気がした。


「……ヒナタちゃん達が、楽しそうだからだよ?
仲良しなんだな~って思って、僕まで嬉しくなっちゃったんだ」

素直な気持ちが、すんなり口から出て言葉になった。

飾らなくていい。
飾る必要なんて、ないんだよね?

心の中で問い掛けたら、ヒナタちゃんが僕の手を握り締めて笑った。


「マオさんもだよ!
マオさんも、いっしょだからたのしいんだよ~!」

言葉を選ぶ必要も、全くなくて。
温かい言葉が返ってくる事が、こんなにも嬉しい事だって知った。
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