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第20章(3)ローザside

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第一印象は、最悪だった。

「ーーと言うように、この別荘では……。
って!聞いているんですかっ?ヴァロン殿!!」

「ふぁ~……っ」

任務に来て初日。
下宿部屋へ案内し、任務の詳細やこの別荘での事を説明している最中。その男は椅子に座って数秒ともたず席を立ち、勝手に部屋を歩き、窓を開けるとその窓枠に腰掛けて縦枠を背もたれにして欠伸をした。

それは、まるで迷い込んで来たクセに我が物顔で寛ぐ図々しい野良猫。
伝説の夢の配達人、と聞いていて私が想像していた姿とは全くの別人。知性も品性も感じさせない。
こんな不真面目そうな男が、この家の大切な運命を握るお嬢様の家庭教師だと言う事に私は不安しかなかった。

「ヴァロン殿ッ!!」

「あーーッ、うるせぇなぁ!
任務内容くらいちゃんと頭に入ってるっつーの!貰うもん貰うんだからキッチリやるよ。
……ま、あの無難そうなお嬢様が何処までついて来られるか。だけどな」

そう言って切れ長の目を細めてニッと笑う姿も、私には妖しい色気を放つ危険な生き物のようで……。
更に上着のボタンを上から数個外して着崩し、合間から首筋や鎖骨を晒す、その今までに見た事のない男性の淫らな姿に悪い印象しか受けない。


「っ……明日からはしっかりと召使い用の制服を着て頂きますからね!
その男娼のような姿でこの別荘内を歩き回ったりしたら即アルバート様にご報告させて頂き、解雇させて頂きますから!」

アルバート様より任された大切な別荘。
こんな男に風紀を乱されては堪らない、と私は必死だった。
どういう訳か、すでにお嬢様が心を許してしまっているから尚更。私が目を光らせていなければ、まだお若いお嬢様は簡単にほだされてしまうかも知れない。

ここはビシッと言っておかなくては、と勢い良く詰め寄り注意を促すが、「ふーん」と言いながら首を傾けて微笑む男の姿を間近で直視出来なくて、私は顔を逸らした。
すると、その反応を見逃さない、とでも言うように男が言う。

「あんたさ、大人っぽいけどまだ初心ウブなんだね?」

「っな……!」

男の言葉にカッとなると同時に、恋愛経験がたいしてない事を言い当てられ私は顔を赤くしながらキッと睨み付けた。
そんな私を見て、男はフッと吹き出して笑う。
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