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第22章(4)スズカside
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しおりを挟む「だから、みんなでお茶会をしながら自己紹介をしていたんです」
「自己紹介?」
「はい。だって、これから一緒に暮らすのに名前も知らないんじゃ不便でしょう?」
「……それ、必要か?」
「必要に決まってるじゃない!
まさか貴方、みんなの名前を知らない訳じゃないわよねっ?」
「……。知らん」
「!っ……嘘でしょ~?!」
いやいやいや!!
嘘でしょ~?!は、こちらの台詞です!奥様!!
そのアラン様と奥様のやり取りを見て、その場に居たみんなは全員一致でそう思っていた。
これは、なんなのだろう。本当に今日は、夢でも見ているような信じられない事ばかりが目の前で起きている。
驚きのあまりただただお二人のやり取りを見つめる事しか出来ない私達に構う事なく、奥様は更にアラン様に向かって言葉を続ける。
「大体、使用人達にお茶の時間がないって本当?」
「それも、必要か?」
「当たり前よ!貴方だって疲れたら休憩するでしょ?お茶を飲むでしょっ?それと同じよ!」
「……」
「……貴方ね、自分が仕事に集中出来るのは一体誰のお陰か分からないの?疲れて帰った来たこの家が、いつも綺麗なのは誰のお陰?」
「……」
「みんな貴方と一緒で働いてるの。頑張ってるの。
そりゃ、貴方の稼ぎに比べたら小さいかも知れないけど……。みんなそれぞれ、自分の仕事を精一杯やってるのよっ?」
奥様のその言葉に、驚きはいつの間にか感動に変わっていた。
それはずっと、この邸に勤める者みんなが主人に感じてほしいと思っていた事。
褒めてほしい訳ではない。特別な対応なんてしてくれなくてもいい。
ただ……。
「使用人は物じゃない。貴方の欲を満たす為の道具じゃないわ!
みんなが微笑ってくれて、仕事を少しでも楽しいって感じてくれた方が、嬉しいじゃない?
貴方だって、どうせなら笑顔でお出迎えしてもらえる方が、嬉しいほしいでしょう?」
奥様は今まで誰も口に出来なかった想いを口にして、にっこりと微笑んだ。
その笑顔は本当に本当にお美しくて、みんな視線を逸らす事が出来なくなっていた。
そして、そんな柔らかな空間に響くのは、笑い声。
「ふっ、……あははははっ!」
それはこの場で誰もが予想しなかった、私達が初めて見て聞くアラン様の笑顔と笑い声だった。
その光景に、私の予感は確信に変わる。
この邸が……。いや、私達の主人が確実に変わっていく事を。
奥様が……。いや、アカリ様が変えて下さるのだと。
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