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第22章(4)スズカside

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不思議な方ーー。
私と同様、きっとみんながそう感じていた。
数年前この邸に滞在していたマオ様を前にした時と、同じような気持ち……。
その場にこの方が居るだけで空気が和らぎ、心が自然と軽くなるのだ。


しかし……。
ほんの少しの休憩。
その筈が和気藹々とした雰囲気にいつの間にか、想像よりも時間が過ぎてしまっていた。


「これはこれは、皆様こちらにおられたのですな?」

ガチャッと開く食堂の扉の音と、ジュゼ様のその言葉にアカリ様以外のみんなが夢から醒めたようにハッとする。
そして……。

「ほう、主人の出迎えもせず……何やら楽しそうだな」

威圧感のこもった、主人の声。
ジュゼ様の後ろから姿を現したアラン様を目にして、みんなその場から凍り付いて動けなくなってしまった。

アラン様がご連絡もなしにお戻りになる事は珍しい事ではない。その為にこの邸には普段必ず門番が居る。
だが、まさか今……。たまたまその任務を抜けた僅かな時間にお戻りになってしまうなんて、なんて最悪なタイミングなのだろう。

楽しい雰囲気から一変。
この場はまるで地獄のような空間に変わった。


「使用人長、これはどういう事だ?」

「っ……も、申し訳ありませんっ!」

「聞こえなかったのか?どういう事だ、と聞いているのだ」

「っ……」

咄嗟に謝り頭を下げる使用人長だったが、アラン様に正面に立たれ、ビリッとする声で問い掛けられて、言葉を詰まらせた。
当然だ。アラン様にあんな風に迫られて、普通に対処出来る人間などいない。

誰もその場から動く事も、言葉を発する事も出来ない状況だった。
が、頭の中でこれだけはハッキリとみんな思っていた。

もうダメだ、とーー……。


「みんなでお茶会してたのよ?それがどうかしたの?」

でも、その瞬間。
優しい無垢な声が、ピリッとしていた空気をかき消すように流れ込んできた。まるで寒い冬の中に、暖かい春風が吹き込んでくるみたいに、とても自然に……。

その言葉に「なに?」とばかりにアラン様が目を向けると、その視線に怯む事もなく、奥様は自ら歩み寄り真っ直ぐと見上げた。
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