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第23章(2)アカリside
2-1
しおりを挟むーートサッ。
「あ!っ……やだ。ごめんね?」
私は手から床に落ちてしまったぬいぐるみを拾い、撫でながら謝った。
それは、三毛猫のぬいぐるみ。猫バロンにそっくりな、ヴァロンが手作りしてくれた大切なぬいぐるみだった。
アラン邸に来てからニ週間程。
未練を残さない為に、私がここに持ってきたものは最小限のもの。
お母さんの形見の宝石箱、子供達の写真が保存されたポケ電、『月姫の祈り』の絵本、そしてこのぬいぐるみ。
大きな旅行用の鞄に入れてきたのはそれだけで……。普段は人目につかないように、そのままクローゼットにしまっていた。
いつもは夜中とか、絶対に誰にも見られない時間にしか出さないんだけど……。今日は急に抱き締めたくなったのだ。
ここでの生活が辛い訳ではない。
むしろ、十分過ぎる程に大切にしてもらっているし、無理にではなく私は微笑う事が出来ている。
それなのに……。
「それなのにやっぱり寂しい、なんて……。贅沢、だよね?」
時折、ヴァロンの生死が不明だった時よりも孤独を感じる自分がいた。
「貴女は、好きな男性の為にどれだけ長い刻を頑張ったの?
来世では、巡り逢う事が出来ましたか?」
ぬいぐるみを抱き締めたままベッドに座り、その傍らに置いた『月姫の祈り』の表紙を見つめる。
絵本から舞台化された際、その作品には自分の名前と同じ"明里"という曲が使われていた。
今世では結ばれなかった悲しい結末に関わらず、その曲は優しくてまるで包まれるような暖かさのあるもので……。舞台をヴァロンと観に行った時は「きっと来世では幸せになれるよね?」って、ボロボロ泣きながら言ったなぁ。
「結末を教えて下さいよ、ノイエルさん」
ノイエルーー。
それは、『月姫の祈り』の作者さん。
残念ながら、この人がこの世に出した作品はこの一作だけ。
何故なのか分からないが、続編も、他の作品もない。
だからこそ、唯一の作品だからこそ、愛され、人の心に残るのかも知れないが……。
「月明かりがなくて、手探りで暗闇を歩くのは大変なんですからね……」
そう呟くと、自然と一筋の涙が頬をつたり落ちた。
その時。
コンコンッと部屋の扉をノックされ、条件反射で「はい」と返事をすると、「失礼します」と言う声の後にスズカが部屋に入ってきた。
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