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第26章(2)アンナside
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……それから、更に月日が流れて。
良かった事、三つ目。
それは突然の事だった。
「すみません!占ってもらえますかっ?」
とある有名な神社がある観光地。その片隅に小さなテーブルと椅子を用意して占い業をしていた時の事。とても必死な声で一人の女性が話し掛けてきた。
ふと顔をあげて見ると、紫に近い薄いピンク色の和服に身を包んだ黒髪に黒い瞳の……。まだ、少女のようなあどけなさを残す可愛らしい女性が立っていた。
何か余程不安な事があるのだろうか?
心配そう、というか今にも泣き出してしまうのではないか?と思わせるその表情を見て、私は安心させるように答えた。
「ええ、大丈夫よ」
すると、私の返答にホッとした女性が少し離れた場所に居た連れに手招きしながらその名を呼ぶ。
「ヴァロン!占ってくれるって~!」
ーーーえっ、?!
その名前を聞いた瞬間。呼吸と心臓が、一瞬止まった。
普段から服に着いていたフードを深く被っていたし、口元を薄い布で隠していていたから良かった。
けれど、女性に促されて「はいはい」って苦笑いしながら正面の椅子に座る男性を見て、動揺は隠せなかった。
ヴァロンッ……!!
心の声が、口から出なかった事はまさに奇跡……。いや、並の驚きをきっと通り越していたのだろう。
黒髪に黒い瞳の容姿に変装しているけど、見間違える筈がない。目の前に居るのは、離れてから一度だって忘れた事のない私の息子だった。
っ……大きく、なったのね?
椅子に座っていても分かる。
別れた時は私が屈んであげないと目線が合わなかったのに、すっかりリオよりも大きくなって、今では私が見上げないといけないだろう。
成長した姿に、視野が滲みかける。
でも、そんな私を冷静にしたのはヴァロンの瞳。
なんて優しい瞳で、その子を見つめるのかしら……。
私の方になど見向きもしないで、ヴァロンは隣に座る女性をじっと見つめていた。
一目で、大切な女性なのだと……。愛おしく想っているのだと感じる。
幸せ、なのよね?
そう心の中で問い掛けながら、少し落ち着いた私が「何について占いましょう?」と尋ねると、女性が顔を真っ赤にしながら「わ、私と彼の相性を……」と言った。
その姿を見て、抑えきれない愛おしさに「ククッ」って微笑みを溢すヴァロンの姿に、また胸を締め付けられながらも……私は占いを始めた。
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