129 / 185
第26章(4)ヴァロン&アカリside
4-5
しおりを挟む
【ヴァロンside】
『夢か幻か。主人公が昔助けた、もうすでに亡くなっている筈の三毛猫が現れて、愛おしい女性の元へ導いてくれる』
俺が考えた、父さんの小説のラストシーン。
チリンッチリンッと鈴の音を弾ませながら走る三毛猫を追い、辿り着いた場所。
それは、俺がずっとずっと求めていた明るい里ーーー。
心の中で、薄い桃色の着物を纏った女性が、長い黒髪を風になびかせながら、大きな黒い瞳を細ませて微笑った。
チリンッ……!!
大きく鳴った鈴の音と同時に、夢のような、幻のような光景は消える。
……いや、消えない。
俺はようやく見付けたんだ。帰ってきたんだ。
たった一人の、運命の相手の元に……、……。
「ーーーアカリッ……!!」
庭園の中心にある噴水の前に、彼女は立っていた。
階段の1番下から名前を呼ぶと、さっきの心の中と同じの、全く変わらない笑顔が俺を迎えてくれる。
嬉しさを通り越して、涙が出た。
おかしいな。
俺が考えたラストシーンでは、ここで主人公がカッコいい台詞を言って、ヒロインに駆け寄って抱き締める筈だったのに……。ここまではシナリオ通りだったのに、本当のラストは、俺だけでは描く事は出来なかった。
きっとそれは、この物語が"俺と彼女"。二人の物語だからだ。
彼女は言った。
「遅い!
私、言ったよね?"真っ直ぐ最短で帰って来てほしい"って」
拗ねた口調で言いながら、想像もしてなかった使用人姿でゆっくりと階段を降りて来て……。ここに辿り着くまでに全ての羽を失って、もう羽ばたく事が出来ない鳥のような俺を、彼女がそっと抱き締めた。
彼女の言葉に「ごめん」って返したいのに、暖かい温もりに胸がいっぱいになって上手く声が出せない。そんな俺に、彼女が言葉を続ける。
「……でも、もういいの。帰ってきてくれたから」
「っ……」
可愛い我が儘の後の優しい言葉が、余計に心に沁みた。
「待ってたよ。この瞬間を……」
彼女の一言一言にズキズキと胸が痛いのに、嬉しくて……。
こんな愛おしい痛みがあっていいのだろうか?と、幸せを噛み締める俺に、心に響く大好きな声が、教えてくれる。
「ずっとずっと、待ってたよ!」
たくさん遠回りしたけど、俺の歩んできた人生は間違いなく最幸の結末に繋がっていたのだと……。
そして、この結末がまた新しい物語を生み出していくのだ、と……。……、……。
『夢か幻か。主人公が昔助けた、もうすでに亡くなっている筈の三毛猫が現れて、愛おしい女性の元へ導いてくれる』
俺が考えた、父さんの小説のラストシーン。
チリンッチリンッと鈴の音を弾ませながら走る三毛猫を追い、辿り着いた場所。
それは、俺がずっとずっと求めていた明るい里ーーー。
心の中で、薄い桃色の着物を纏った女性が、長い黒髪を風になびかせながら、大きな黒い瞳を細ませて微笑った。
チリンッ……!!
大きく鳴った鈴の音と同時に、夢のような、幻のような光景は消える。
……いや、消えない。
俺はようやく見付けたんだ。帰ってきたんだ。
たった一人の、運命の相手の元に……、……。
「ーーーアカリッ……!!」
庭園の中心にある噴水の前に、彼女は立っていた。
階段の1番下から名前を呼ぶと、さっきの心の中と同じの、全く変わらない笑顔が俺を迎えてくれる。
嬉しさを通り越して、涙が出た。
おかしいな。
俺が考えたラストシーンでは、ここで主人公がカッコいい台詞を言って、ヒロインに駆け寄って抱き締める筈だったのに……。ここまではシナリオ通りだったのに、本当のラストは、俺だけでは描く事は出来なかった。
きっとそれは、この物語が"俺と彼女"。二人の物語だからだ。
彼女は言った。
「遅い!
私、言ったよね?"真っ直ぐ最短で帰って来てほしい"って」
拗ねた口調で言いながら、想像もしてなかった使用人姿でゆっくりと階段を降りて来て……。ここに辿り着くまでに全ての羽を失って、もう羽ばたく事が出来ない鳥のような俺を、彼女がそっと抱き締めた。
彼女の言葉に「ごめん」って返したいのに、暖かい温もりに胸がいっぱいになって上手く声が出せない。そんな俺に、彼女が言葉を続ける。
「……でも、もういいの。帰ってきてくれたから」
「っ……」
可愛い我が儘の後の優しい言葉が、余計に心に沁みた。
「待ってたよ。この瞬間を……」
彼女の一言一言にズキズキと胸が痛いのに、嬉しくて……。
こんな愛おしい痛みがあっていいのだろうか?と、幸せを噛み締める俺に、心に響く大好きな声が、教えてくれる。
「ずっとずっと、待ってたよ!」
たくさん遠回りしたけど、俺の歩んできた人生は間違いなく最幸の結末に繋がっていたのだと……。
そして、この結末がまた新しい物語を生み出していくのだ、と……。……、……。
0
あなたにおすすめの小説
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる