上 下
35 / 62
1

第三十三話 優一の事

しおりを挟む
あれから一週間、優一はほぼ毎日仕事漬けで家に帰るのも遅く、葵と話すこともあまり無かった。
葵も忙しい優一に気を使って、上手く話せずにいた。けれど、その間別に、本当に誰とも話さずにいた訳ではなかった。
あれからすぐに栄人から連絡が来たのだ。

その内容はこれだ。

【来週の14時頃、迎えに行くから駐車場で待っててくれ。】

こんな簡素なメールだ。
けど、栄人とやり取りすることはあまりないので、新鮮な感じがした。

(たのしみだな…)

仕事ばかりしている優一には申し訳なかったが、自分だってまだ高校生だし、優一の親友である栄人が葵を誘ってくれているのだから快く受け入れるのが普通だろう。

でも一つだけ、心に引っかかっていることがあった。
それはーーーー

(なんでかよく分からないけど…この前のキス…)

なんで急にあんなことをしたのだろうか。
答えが聞きたくて、聞けずに一週間が経ってしまったのだ。

どうしても気になってしまって1度、帰ってきた時に話そうと思ったのだが、優一はクタクタな状態で、とてもじゃないけれど会話ができる暇などなかった。

聞けば、雑誌の表紙に選ばれたとかなんとか。

でもそれなら忙しいわけだと納得もいった。


ーーーー

(よし…あと二時間後か…)

葵は壁掛け時計を眺めつつ、お昼ご飯を一人で食べ終えると、素早く食器を片付けた。

栄人が来るのは14時、そして今の時刻は12時だった。

特に支度なんてするものもないけれど、何となく…何か持って行った方がいいだろうか?と考えた。
一緒に暮らしてるならまだしも、相手はわざわざ誘ってくれたのだし。
でも変に気を使っても相手を困らせる気がした。

なんと言っても、優一と出かける訳では無いのだから。

(栄人さんて、気軽に接してくれるイメージだけど、怒ると怖そうだし…)

とにかく優一の知り合いでもあり、国民的な俳優でもある栄人に嫌われる訳には行かなかった。

それには訳があった。

その訳はーーーー


優一の過去を聞き出すということだった。


実は、葵は今までに何度か優一の過去についてを優一に尋ねたことがあった。
栄人が言う通り、毎回パーティーをするようなお金持ちの家で過ごしているとしたならば、それはどんな一日だったのだろうとか、どうして小説を書こうと思ったのか…とか。
考えれば考えるほど、知りたいことは増えていく。
なのに優一は一言も過去のことを話そうとしないのだ。
もっといえば、上手く交わして別の話題に摩り替えたり、逆に葵の過去を聞いてくるだけで、結局最後には葵が話して、優一が聞くという形になっているのである。
テレビでもミステリアスな王子様俳優と扱われているぐらいだし、本当に話さないのだとは思うけれど…

(それでも知りたくなるんだから仕方ないよな…?)

というわけで、栄人と話す機会というのはそういう貴重な話を聞くことが出来る絶好のチャンスなのである。

これを活用しない訳にはいかないのだ。

とまあ、そんなことを考えていると、いつしか2時間が経過していた。
葵は急いでエレベーターに乗り込み、マンションの地下駐車場にて栄人の車を探した。

すると、暫くしてクラクションが1つ鳴った。
音のする方へ向くと、運転席の窓から顔を出してこちらに笑いかける栄人の姿があった。

「こんにちは!」

「よっ、待たせたな。早速行こうぜ」

「はい!」

葵は栄人の車の助手席に乗り込む。
栄人はシートベルトを閉めたのを確認してから、車を走らせた。
夏休みは、京都旅行から行き来する以外、特には都会の道を走ったりもしていなかったため、夏休みを迎えた都会の人混みはまた新鮮なものだった。

「どこもかしこも混んでてやべぇな。」

「そうですよね…都会は本当に、凄い…」

「葵の地元の夏休みはどうだったんだ?」

「そうですね…子供たちが外に出たりするのは多くなりますが、街灯も少なくて危ないので16時ぐらいにはもう人影もぱったりなくなる感じです。」

「ほーん。そんなド田舎なんだ。でも、都会には慣れたか?」

「だいぶ…最初の時に優一さんに色々連れてってもらったのでそれもあるかもです。」

「ほーん。ま、そうだよな。」

栄人は都会の十字路を右へ左へ走らせていく。
過ぎていく街並みを眺めながら、葵はこれから一体どこへ行くのだろう?と考えた。
栄人からは特に何も言われていないので、行ってからのお楽しみと言うやつだろうか?

すると、察したように栄人が口を開いた。

「高いところって大丈夫か?」

「高いところ…あ、はい。大丈夫です。」

「おっそうか。」

栄人は頷くと、また、黙って車を走らせた。

葵にはなんのことかよく分からなかったが、次第に多くの交差点やビルが立ち並ぶ場所へと車が入り込むと、その理由が直ぐにわかった。
目の前にそびえ立っていた白く高い塔の姿に思わず、感嘆の吐息が漏れた。

「わぁあ!もしかして、スカイツリーですか!?」

「おう。葵はまだ行ったことないだろ?」

「ないです!!すごいっ!近くで見るとこんなに大きいんですね!」

「そうだよ。でも中に入ったらもっとすげーから。…登ってみたくないか?」

「えっ、で、でも…混んでるんじゃないですか?」

「大丈夫。すぐ入れるから」

意味深な笑みを浮かべる栄人に首を傾げた葵だったが、直ぐにその意味がわかった。

「え、もしかして…元々準備してたんですか?」

「まあ、ちょこっとな。」

「え!そ、それは…ありがとうございますっ」

葵はお礼を言いつつ、なんだか疑問に思った。
どうしてそこまでするのだろう?と。

そこまで葵を気に入ってくれたのなら嬉しいけれど、何だかすごく申し訳ない気持ちになってしまう。
まあ折角連れてきてもらったのだから行くしか選択はないけれど。


車を近くに停めると、そのままスカイツリー延元へと向かった。
高すぎててっぺんの方はもう見えない。

「凄い……人が立てたとは思えない…」

「だよなぁ。ここは2年前くらいにロケで行ったことがあるんだが、凄かったよ。」

「え、あるんですか!」

(ないのかと思ってた…!)

「そりゃあな。ロケとか撮影とかで付近を渡り歩いてるもんだから」

「そうなんですね!」

中には宇宙空間のようなエレベーターが備わっていて、夏のバージョンとして今は江戸切子の模様が映し出されていた。

人混みの中でその模様を見つめていると、次第にエレベーターは上がっていく。
そういえばーーーー栄人は周りからバレないのだろうか?
そう思ってふと周りに夢中だった視線を栄人に移すと、いつの間にやら頑丈そうなサングラスに分厚そうなマスクをつけていた。

(げっ…優一さんの時も思ったけど絶対この方がバレる気が…)

けれど周りは親子連れやらカップルでむしろ誰も周りのことなど気にも留めていなかった。

楽しそうな話し声、楽しそうな笑い声。

こんな時にふと、昔のことを思い出してしまった。

(いいな、家族…)

「ーーーー葵?」

「……あっ、はい!」

「降りるぞ。」

「あ、はいっ」

人ごみを掻き分けるようにして降りると、そこはどうやら展望デッキのようだった。

「レストランですか?」

「そう。地上三百四十五mのレストラン。」

「ひえええっ!」

葵が驚くと、栄人は可笑しそうに笑った。

「葵、お前おもしれぇ反応するんだな。」

栄人はそう言うと、葵の頭をポンポンっと撫でた。

(えっ……?)


「ん?どうしたんだ?」

栄人に顔を覗きこまれて葵は益々キョドってしまった。

「あっ…い、いや…なんでもないです…」

(な、なんだ…?なにか、さっきから妙に栄人さんの距離感近い気が…気のせいか?)


そう思いつつも、声には出せないまま…展望デッキのレストランの席へと案内され、座ることになったのだった。

(こ、こんなことなら家でご飯食べなきゃよかったか…)

そこはゴリゴリの日本料理店だった。
いかにも、コース料理っぽいのが出そうなところだ。

しかしまたなぜこんなに高そうな所に連れてきてくれたのだろうか。

「まだ食べれる時間じゃなかったか?」

「あっ…い、いや…食べれることは食べれます。というか、折角連れてきて頂いたのに食べない訳には…」

「はは、無理すんなって。俺が行きたかっただけだし。」

「あ、そうなんですか?」

「そう。あと、ゆっくり話したいと思ったから。」

「あっ…そ、それは俺もです。」

(そうだ!優一さんの事聞くんだから!)

「お、そうなの?じゃあー早速聞きたいことあるんだけどいい?」

(え、質問…?)

「ど、どうぞ?」

「ぶっちゃけ優一のこと好きか?」

「ぶっ!!」

(はぁぁあぁあ!!え、なに!?なんで!?)

「その反応は…グレーだな。」

「い、いやいや!そんなわけないじゃないですか!!ていうかなんですかその質問、前も聞いてきませんでした!?」

「確かに聞いたかもしれないな。」

「で、ですよね!?な、なんでそんなに疑ってるんです?」

「いや……そんな感じがした。」

「そんな感じって…。普通に過ごしてるだけですし…」

「おう、ならいいんだ。…よし、じゃあ次、葵が話したいこと話していいぞ?」

栄人に満面の笑みを浮かべられ、葵は思わずごくりと唾を飲み込んだ。

(いや、いや…いや!!!!)


ーーーーこんな質問された後に優一さんの質問できねぇ!!!ーーーー


「あ、あーー…栄人さんの普段の生活…とか?気になってましてー」

(こうなったら徐々に優一さんへの質問に切り替えていくか…)

「へぇ。俺の生活、か。あんま面白味ねぇかもな。」

「面白味ですか…?」

「そうそう。まあ、なんて言ったって普通の家庭で普通に育ってきただけだからな。特に不自由した訳でもねぇし。」

「一人暮らしでも難なくこなしていくイメージありますしね」

「あるかー?」

「これ言うと失礼かもなんですけど、最初は…優一さんがしっかりしていて、栄人さんがちょっと抜けてるってイメージだったんです。」

「あー!よく言われるよそれ」

「そ、そうなんですか!」

「そうそう。世間的な意見としては、優一はお偉い社長の子供だからしっかりしてそうって。でも優一本人も、憶測って怖いなーなんて言ってたな。」

「まあ確かに…優一さんて実際はどんな生活してたか分かりませんしね。」

(親に甘えて育ってきたからああなってしまったのだろうか…)

「まああいつはなんというか………」

栄人は突然そこで口篭ってしまった。

「なんというか……?」


「可哀想なやつだなとは思うよ。」

「……え?」

(可哀想…?なんで…?)

「あ、まあ…これはあまり言えないことなんだけどな。」

「ど、どういうことなんですか…?」

「まあ葵も一緒に暮らしているのなら薄々気づいてるとは思うが、あいつは過去のことを一切話したがらないだろ?」

「あ……はい。」

(そうだ…それがずっと気になってーーーー)

「あいつはあえて、話さないようにしているんだろうな。」

「話さないようにしてるって……」

「高校時代は俺の家に頻繁に泊まったりもしてたし家ではかなり悪い状態だったと思うからな。」

「え、そうなんですか……」

(まさか優一さんにそんな過去が……?)

「ま、俺も詳しくは聞いたことねぇし分からないからな。それこそ憶測だし。とりあえず過去のことは聞かないようにしてる。それが本人にとっては1番だろうしな。」

「あぁ…そうですよね…」

葵は自分が聞き出そうとしていた浅かな行動が申し訳なくなって、頼んだ料理が上手く喉を通らなかった。

思い出したくない過去、封印したい過去。
それは葵自身にもあるものだ。

「て、こんな暗い話するために出かけてるわけじゃねぇのにすまないな。」

「い、いや…その話を聞けてよかったです。うっかり聞いてしまったら嫌な気持ちにさせちゃうだろうし…」

(まあ、既に何度か聞いちゃってたけど…)

「そうだな。まあ、葵もストレスためないように過ごせよ。折角念願の東京に来たんだろ?」

「は、はい!」

「優一の親友として、応援してるからな。」

「あ、ありがとうございますっ」


その後錦糸町付近のデザートを食べ歩いて、今後の目標や次に行きたい場所なんかを話し、日が暮れた18時半、2人は高級マンションの地下駐車場へと到着したのだった。

「今日は本当にありがとうございました!栄人さんもお仕事頑張ってくださいね」

「おう。葵もな。優一にもよろしく」

「はいっ!おやすみなさい」

「おやすみ」

葵は丁寧にお辞儀をしてから、中央エレベーターのロビーの方へと戻って行った。
その姿を見つめながら栄人は小さくため息をついたのだった。


「はぁ、俺もどうしたもんかな…」

こんなもの、お節介だとはわかっているーーーー…


(けど、優一は今のままが一番だって俺は思ってるんだ。)




ーーーー

ーーーーーーーーーーーー




「葵くん、おかえり」

「ただいま戻りました!て、あれ。優一さんもう帰ってたんですか。早かったですね。」

葵が玄関から入ると既にリビングのソファでノートパソコンにキーボードを打ち込む優一の姿があった。

「まあね、仕事詰めすぎて具合悪くなりそうだったから早めに切り上げさせてもらった。ちなみに明後日は休み。」

「明後日って……25日ですよね?あれ、その日優一さん休みでしたっけ?」

(確か26日まで仕事だって言ってた気がするけどーーーー)

「ふふ、まあーーーー休みって言うのは嘘で、マネージャーに頼んで休みにしてもらった。」

「え、そうなんですか?」

「うん。」

「あ、まあーーーー…仕事ありすぎると体壊しちゃいますもんね…。休む暇もないって言ってましたし、折角休み取れたんですからその日はゆっくり休んでーーーー」

「だからさ、その日夏祭りに行かない?」

「え?」

思わぬ誘いに声が少し高くなってしまった。
心臓も徐々に加速していく。

(優一さんと…夏祭り?)

「葵くんはその日友達と遊んだりするの?」

「あ、いや…予定は無いですよ。」

(というか夏休みむしろ暇すぎるくらいだし…)

「じゃあ、行こっか。」

「え、でも25日丁度にやってる夏祭りなんてあるんですか?」

「あるよ。調べたから。」

「あ、そうなんですかーーーー」

(って調べてたのか!?え、なんで…?もしかして元から既に行こうと思ってて……?)

葵は色々と考えてしまう脳内を一度フリーズさせた。
そしてニヤつきそうになった口元を思わず無理やり噤む。

変な顔になっていなければいいけれど。

ーーーー嬉しい。

訳を聞いたわけじゃないけれど、わざわざ休みにして夏祭りに誘ってくれたのかもしれない、そんな予感がして思わず笑みが零れてしまいそうだった。

「東京の夏祭り、初めてでしょ?田舎の夏祭りも結構雰囲気があって綺麗だけど、都会は色々な意味で盛り上がるから、葵くんには新鮮かもね。」

「はい!す、すごく…どんな感じか気になってたので…」

「でも浴衣とかは残念ながら今持ち合わせてないからなぁ…買う?」

「え、い、いやいや!良いですよ!屋台とか花火とか楽しめたらそれで充分なんで……」

「そっか。まぁたしかにね。」

「はいっ」

(うわぁあやったぁあ!!!)

「ふふ、楽しみ?」

「た、楽しみです!絶対持っていった方がいいものってありますか!?」

「はは、地元の夏祭りに行く時と変わらない荷物で平気だよ。駐車場もあるみたいだし、車で行こう。」

「そうですね!それに電車だと優一さんだって騒がれるかもですし……」

葵はそう言いながら、いや。待てよ。と心の中で制した。

(夏祭りとか行ったらそれこそ優一さんだーって、人に囲まれるんじゃ!?)

「あ、あのー…少し聞きたいことがあるんですけど…」

「うん?」

「へ、平気なんですか?夏祭りとか行っても…あ、その…目立つと思いますしバレたらとか…」

「大丈夫。マスクは外さないよ。それかお面でも買えばいい。それなら目立たないでしょ?」

「あ!お面!その手がありましたね」

「長いこと民衆にバレないように生きてきてるからね、そういう所は任せて。」

「ほんと、大変ですね…」

「まあ、ファンがいることはありがたいことだけどね…」

優一はノートパソコンの画面を見つめながら、そんなふうに呟いた。
葵は優一の声のトーンに少しだけ違和感を抱きつつも、ワクワクした気持ちが舞い上がってきて、いても立っても居られなくなり、「じゃあお風呂洗ってきますね!」と少し上がった声のまま、お風呂場へと駆け込んだのだった。



ーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



その日の夜、葵はいつものように目覚ましを6時にセットして、ベッドの中へと潜り込んだ。

別に明日は何もやることは無い。けれど、その次の日、優一と夏祭りに行けると思うと、胸が弾んで眠れそうになかった。

りんご飴とか綿あめとか食べようかな。
花火楽しみだな。

何より優一が自分を誘ってくれたことがーーーー

(って!明日も優一さん仕事早いんだし俺が早く寝ないと…)

その時、スマホに通知音が響いた。

(あれ?こんな時間に誰だろ…?)


スマホの画面をスライドして開くと、そこには小牧という文字が表示されていた。
あの京都の時から一切連絡が来ていなかっただけに、その瞬間妙な胸騒ぎがまた胸に湧き上がる。

(な、なんだろ……)

葵は恐る恐るメッセージを表示する。
するとそこには…

(え?)

【葵くん久しぶり!急なんだけどさ…】

葵はそのまま少し下へとスクロールする。

【25日に夏祭りがあるらしくて、良かったらそれに葵くんと一緒に行きたいなーって!その日予定ある?お返事待ってるね!】


ドクン…

25日の夏祭り…

(なんで…)

いまさっきそれを優一に誘われたばかりだと言うのに、どうしてこうもタイミングよく小牧は現れるのだろうか…。
もしや優一のスケジュールを知ってーーーー

(って流石にそこまでは考えすぎか…。でもーーーー)

ここで25日は優一に誘われて夏祭りに行くんだと言ったら、小牧は一体どう反応するのだろう?
小牧の恋を応援するーーーーそんなふうに言ってしまった葵にとって、小牧に言わずに優一と2人で出かけるなんて本当に悪気があるとしか思えないだろう。
何故なら小牧は優一が男をすきだと知っているのだから。
でも葵はーーーー

(優一さんから誘ってくれたんだし…俺は別に…)

【その日は友達と夏祭り行く予定だから!ごめん。でも、誘ってくれてありがとう】

最低だってわかってる。
葵はそう思いながらメッセージを送信した。

小牧からの返信はすぐに来た。


【そうなの?……良かった。その日優一さんも休みらしいからてっきりーーーー】


(え……?)



【ーーーー優一さんと行くのかと思っちゃった!】


(やっぱり……初めから俺じゃなくて優一さんと行くかどうか確認したかったんだ…)

いや、初めからそうだって分かっていたかもしれない。
なのに、どうしてもだめだ。

話せば話すほど、モヤモヤしたものが浮かび上がって、どうしようも無くなる。

(俺は小牧さんになんて言えばいいんだろう…なんて…言うべきなんだろう?)

恋を応援すると言ったくせに、自分は優一を独り占めしたいような、小牧に近付けたくないようなーーーー
そんな感情があって、どうしようもない。

(まあでももし、小牧さんがいても人混みの中から探すなんて難しいだろうし…)


そう思いつつも京都で楽しげに話すふたりの後ろ姿が浮かんで、また憂鬱になる前に葵は電気を消して、目を瞑ったのだった。
しおりを挟む

処理中です...