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5話 忍び寄る その2
しおりを挟むクインスと久しぶりに会ってから少しだけ時間が経過した。
私達はその間も交流を続けている。元々は幼馴染だったし、久しぶりの再会が二人の会いたいと言う気持ちに拍車を掛けたようだ。
「シルファ、最近は自然な笑顔になってきたな」
「そうかしら? 自分ではあまり変わっていないように見えるんだけれど……」
外に出る機会は増えたけれど、まだまだ婚約破棄のダメージというのは消えていないからね。私から破棄をしたとはいえ。
「いや、これは他人にしか分からない変化かもしれないけど。確かに変わったように思うよ」
「それなら嬉しいんだけど……リーガス様のことは一刻も早く忘れたいしね」
「ああ、それが良いだろうな」
「クインスには迷惑を掛けているかもしれないけれど」
「まさか、そんなことはないさ。シルファが元気になってくれれば、私としてもとても嬉しいからね」
クインスは笑顔でドキッとする言葉を言ってくれた。どういう意図があるのかまでは分からないけれど、今の私には良い意味でダメージを負う言葉になっている。5年間、彼とは会えていなかったけれど、最初からクインスと婚約していれば婚約破棄なんてことには絶対にならなかっただろうに……。
まあ、結果論でしかないけれどね。
「それにしても、私との時間をたくさん取ってくれているけれど、大丈夫なの?」
「何がだい?」
「いえ、その……愛している人とかが居ないのかしら?」
クインスは優しいと思うし背も高い。二枚目だとも思うけれど、ここは好みの問題もあるし何とも言えないけれど。普通にモテそうではある。運命の相手が居ないとは考えにくかった。
「ははは、そういうことか。あいにくだけど、私に相思相愛の相手は居ないんだよね。つまりは婚約者はいないということさ」
「へえ……そうなんだ」
婚約者は居ない……か。ということは、私がその婚約者になることも不可能ではないのかしら? クインスもこれだけ時間を割いて会いに来てくれているのだし、少しだけ期待してしまう。と、そんな時だった。私の部屋に使用人が入って来たのは。
「失礼致します、シルファ様。至急、お伝えしたいことがございまして……」
「どうかしたのかしら?」
「はい。実は……先ほど、リーガス・ドルアット侯爵令息の使者の方がお見えになりまして……」
「使者の方……?」
なんだか突然、場の空気が変わった気がした。私はソファから無意識に立ち上がっている。
「使者の方はなんて言っていたの?」
「それが……本日中に、リーガス様がこの屋敷を訪れると」
「ええっ、リーガス様が……!?」
驚いた……わざわざ、使者を先に寄越したのもそうだけれど、婚約破棄をしたはずのリーガス様がこの屋敷に来るなんて。なんだか、嫌な予感がするわ……。
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