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53話 フォルセの感情
しおりを挟む(フォルセ視点)
「フォルセよ、ここに居たか」
「父上……」
庭で空を見上げていた私の前に、父上が現れた。父上も私と同じく、表情が芳しいとは言えない。
「アーチェの件について、既に話は聞いているのだろう?」
「はい、聞いております。側室として、ネプト国王陛下と一緒になるという事実も」
「それなら良い」
私は失望を隠せなかった。アーチェ姉さまが望んだとしても、スザンヌ様がいるネプト国王陛下は断るべきなのでは? と思えてならないからだ。これは身内だから甘く映ってしまっているのだろうか?
まあ、本音を言えば姉さまも側室の件は断るべきだったと考えてはいるが……。
「フォルセよ、話は聞いているぞ」
「話でございますか?」
「ネプト国王陛下を含めた幼馴染から離す為に、アーチェをセルガス殿と会わせたのだろう?」
「その話ですか……確かにその通りですが……」
父上は私を責めるだろうか? いや、あの選択肢が間違っていたとは思えない。結果的にセルガスは振られてしまったのだが。彼には悪いことをしてしまったな……婚約者のエルザも私が奪ったという噂が一時期は流れたようだし。まあ、子供の頃は本気で取り合っていたからな……子供の頃と言っても数年前の話なのでそんなに昔ではないのが問題か。
「セルガスには申し訳なことをしました。今度、食事にでも誘って謝罪しようかと思っています」
「はは、それは良いかもしれんな。まあ、セルガス殿は大して気にしていないだろうが」
それは考えられた。セルガスは大らかな性格をしているからな。まあ、それよりも問題はアーチェ姉さまとネプト国王陛下か。
「父上は本当に姉さまが国王陛下と一緒になることを良し、としているのですか?」
「難しい質問だな。アーチェには相当な苦労が待っていることは間違いないだろう。しかしそれは、側室という立場上当然のものだし、それに見合うリターンも必ず発生はする」
「リターンですか……?」
「ああ、リターンだ。お前なら少し考えれば分かるだろう?」
リターンか……考えられるものは、ノーム伯爵家に関することだろうか。この屋敷の長女が国王陛下の側室になったのであれば、王家とのパイプラインが生まれたことになる。貴族としての格も上がるし、領地経営でマズイことになった場合、金銭的な援助を受けやすくなるだろう。
私とエルザが結婚した場合、そのパーティーに国王陛下が来るかもしれない。間接的にエルザの家系にもメリットが出て来るかもしれないな。
「確かに少し考えるだけでもメリットは出て来そうですね」
「そうだろう? つまり、ノーム家の当主としては今回の事態を断る意味は薄いのだ。アーチェも愛する者と一緒になれて幸せだろうからな」
「……」
これが父上の本音なのだろうか? いや、当主として本音を出さないようにしているだけかもしれないが……私自身はやはり反対したい気持ちが強かった。しかしそれは、アーチェ姉さまへの裏切りだし、私は単純に自分の見える範囲に姉さまを置いておきたいだけなのかもしれないと、自問自答してしまうのだ。
私も姉さまもまだまだ若い……失敗を恐れないくらいの気持ちで進むのが正解なのかもしれないな。
私は無理矢理にでもそのように考えることにした。それよりも、自分の結婚について考えた方が良いかもしれない。それはつまりエルザとの仲を考えるということだ。
「フォルセ……エルザ嬢との仲を拗らせることのないようにな? セルガス殿とは決着がついているのだろうな?」
「大丈夫ですよ、父上。私達はウォーレスやニーナとは違います。セルガスとは決着がついていますし、きっとエルザのことを幸せにしてみます」
「うむ、その心意気を忘れるんじゃないぞ」
「はい!」
大きく頷き私は父上に満面の笑みを見せた。人生は複雑で大変だ……願わくば、アーチェ姉さまに真の幸せが訪れますように。
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