55 / 60
55話 スザンヌとウィンスタート その2
しおりを挟む「スザンヌ様が……逃亡?」
「ああ、国を捨て野に下るという趣旨の置き手紙があった……」
ネプト様からその報告を受けた時、私はとても信じられなかった。以前に話した時は全力でサポートをしてくれる、と聞いていたからだ。
「スザンヌ様のお立場を考えると……仕方ないのかもしれませんね」
「そうだな。全ての原因は私にあるだろう。アーチェを愛することに注視し過ぎて、彼女のことを蔑ろにしてしまったのだからな」
フォローの言葉が思いつかない……おそらく、それは事実だろうからだ。あの時、私をサポートしてくれると言った時も、内心ではきつかったのかもしれない。
「スザンヌ様はお一人で出て行かれたのですか?」
「いや……手紙の内容から護衛のウィンスタート・ドルチェという人物と一緒に、駆け落ちしたようだな」
駆け落ち……現役の王妃様がまさかそれをするとは思わなかったけれど。一般人の間では偶に見かける光景らしいわね。
「私はスザンヌの気持ちを汲み取り、このまま何もせずにいたいと思っている」
「ネプト様……」
確かにそれが良いのかもしれない。強制的に連れ戻したところで、護衛のウィンスタートは間違いなく死刑になるし、その時、スザンヌ様の心がどうなってしまうかも分からないから。
「このままにしてはならん、ネプト」
「アルダー? どうしてここに……?」
そんな時、大臣の一人でありネプト様の叔父様に当たるアルダー様が現れた。前国王陛下の弟君であり、現在は参謀役を担っている。ネプト様は国王陛下ではあるけれど、お互いの信頼関係から普通の話し方がデフォルトだ。
「スザンヌの信頼は国民にも幅広く行き渡っている。そんな彼女が消えたとなれば動揺は隠せないだろう。それ以外にも、スザンヌ派の公爵などが暴動を起こす危険すらある」
「それはそうかもしれないが、スザンヌの気持ちを考えると、このまま他国で幸せになってもらいたいのだ」
「お前の気持ちも分かる。だが、このまま駆け落ちを見逃すのだけはならん。連れ戻したとしても、ウィンスタートに対する罪は免除すると言えばどうだろうか?」
「ウィンスタートの罪を免除する……だと?」
アルダー様は強く頷いた。そして、さらに続ける。
「スザンヌは宮殿内でウィンスタートとの愛を育めば良い。望むのであれば、別荘を与えても良かろう。もちろん公務は執り行ってもらうが、ネプトとは完全に仮面夫婦となるといった寸法だ。これならば、彼女の幸せにも配慮出来るだろう? 上手く行くかが不明過ぎる駆け落ちなどより、余程、安全かと思われるがな」
「ウィンスタートは実質、人質となるわけか」
「まあ、そればかりは仕方あるまい。彼は歴史的な犯罪を犯しているのだからな。王妃と共に逃亡など、本来は即刻死刑なのだから」
「……」
ネプト様は納得している様子はなかったけれど、これといって大きな反論もしなかった。その後、スザンヌ様とウィンスタートを探す捜索隊が編成されることになる……。
79
あなたにおすすめの小説
【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜
早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。
寵愛していた侍女と駆け落ちした王太子殿下が今更戻ってきた所で、受け入れられるとお思いですか?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるユーリアは、王国の王太子と婚約していた。
しかしある時彼は、ユーリアの侍女だった女性とともに失踪する。彼らは複雑な事情がある王国を捨てて、他国へと渡ったのだ。
そこユーリアは、第二王子であるリオレスと婚約することになった。
兄と違い王子としての使命に燃える彼とともに、ユーリアは王国を導いていくことになったのだ。
それからしばらくして、王太子が国へと戻ってきた。
他国で上手くいかなかった彼は、自国に戻ることを選んだのだ。
そんな彼に対して、ユーリアとリオレスは言い渡す。最早この国に、王太子の居場所などないと。
殿下が私を愛していないことは知っていますから。
木山楽斗
恋愛
エリーフェ→エリーファ・アーカンス公爵令嬢は、王国の第一王子であるナーゼル・フォルヴァインに妻として迎え入れられた。
しかし、結婚してからというもの彼女は王城の一室に軟禁されていた。
夫であるナーゼル殿下は、私のことを愛していない。
危険な存在である竜を宿した私のことを彼は軟禁しており、会いに来ることもなかった。
「……いつも会いに来られなくてすまないな」
そのためそんな彼が初めて部屋を訪ねてきた時の発言に耳を疑うことになった。
彼はまるで私に会いに来るつもりがあったようなことを言ってきたからだ。
「いいえ、殿下が私を愛していないことは知っていますから」
そんなナーゼル様に対して私は思わず嫌味のような言葉を返してしまった。
すると彼は、何故か悲しそうな表情をしてくる。
その反応によって、私は益々訳がわからなくなっていた。彼は確かに私を軟禁して会いに来なかった。それなのにどうしてそんな反応をするのだろうか。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵令息から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
「優秀な妹の相手は疲れるので平凡な姉で妥協したい」なんて言われて、受け入れると思っているんですか?
木山楽斗
恋愛
子爵令嬢であるラルーナは、平凡な令嬢であった。
ただ彼女には一つだけ普通ではない点がある。それは優秀な妹の存在だ。
魔法学園においても入学以来首位を独占している妹は、多くの貴族令息から注目されており、学園内で何度も求婚されていた。
そんな妹が求婚を受け入れたという噂を聞いて、ラルーナは驚いた。
ずっと求婚され続けても断っていた妹を射止めたのか誰なのか、彼女は気になった。そこでラルーナは、自分にも無関係ではないため、その婚約者の元を訪ねてみることにした。
妹の婚約者だと噂される人物と顔を合わせたラルーナは、ひどく不快な気持ちになった。
侯爵家の令息であるその男は、嫌味な人であったからだ。そんな人を婚約者に選ぶなんて信じられない。ラルーナはそう思っていた。
しかし彼女は、すぐに知ることとなった。自分の周りで、不可解なことが起きているということを。
妹のように思っているからといって、それは彼女のことを優先する理由にはなりませんよね?
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルリアは、婚約者の行動に辟易としていた。
彼は実の妹がいるにも関わらず、他家のある令嬢を心の妹として、その人物のことばかりを優先していたのだ。
その異常な行動に、アルリアは彼との婚約を破棄することを決めた。
いつでも心の妹を優先する彼と婚約しても、家の利益にならないと考えたのだ。
それを伝えると、婚約者は怒り始めた。あくまでも妹のように思っているだけで、男女の関係ではないというのだ。
「妹のように思っているからといって、それは彼女のことを優先する理由にはなりませんよね?」
アルリアはそう言って、婚約者と別れた。
そしてその後、婚約者はその歪な関係の報いを受けることになった。彼と心の妹との間には、様々な思惑が隠れていたのだ。
※登場人物の名前を途中から間違えていました。メレティアではなく、レメティアが正しい名前です。混乱させてしまい、誠に申し訳ありません。(2024/08/10)
※登場人物の名前を途中から間違えていました。モルダン子爵ではなく、ボルダン子爵が正しい名前です。混乱させてしまい、誠に申し訳ありません。(2024/08/14)
地味でつまらない私は、殿下の婚約者として相応しくなかったのではありませんか?
木山楽斗
恋愛
「君のような地味でつまらない女は僕には相応しくない」
侯爵令嬢イルセアは、婚約者である第三王子からある日そう言われて婚約破棄された。
彼は貴族には華やかさが重要であると考えており、イルセアとは正反対の派手な令嬢を婚約者として迎えることを、独断で決めたのである。
そんな彼の行動を愚かと思いながらも、イルセアは変わる必要があるとも考えていた。
第三王子の批判は真っ当なものではないと理解しながらも、一理あるものだと彼女は感じていたのである。
そこでイルセアは、兄の婚約者の手を借りて派手過ぎない程に自らを着飾った。
そして彼女は、婚約破棄されたことによって自身に降りかかってきた悪評などを覆すためにも、とある舞踏会に臨んだのだ。
その舞踏会において、イルセアは第三王子と再会することになった。
彼はイルセアのことを誰であるか知らずに、初対面として声をかけてきたのである。
意気揚々と口説いてくる第三王子に対して、イルセアは言葉を返した。
「地味でつまらない私は、殿下の婚約者として相応しくなかったのではありませんか?」と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる