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1話 婚約の解消をしていただきます
しおりを挟む「バルカン様、本日は大切なお話があるのですが……」
「ん? どうかしたのか、リリナ。そんなに怖い顔をしてどうしたのだ?」
バルカン・ドネイブ侯爵……私はこの方と婚約をしているけれど、今では後悔しかない。この数か月間を見る限りでも、彼は何度も浮気をしているのだ。娼婦を屋敷に呼び寄せただけでも何回あるのか分からない程だ。
私が把握していないものも含めれば、相当数に上るだろう。バルカン様はそれだけではなく、子爵令嬢などを呼び寄せてはいかがわしい行為をしているという噂まで出ている。メイド達が喘ぎ声を聞いたのだとか……まあ、事実なのでしょうね。
バルカン様は本当にどうしようもないわ……よくこれで、侯爵を務めていられると思ってしまう。
私は彼が手を近づけて来たので、強く払ってみせた。彼は予想通り、驚いた表情になっている。でも、なぜそんなことをされたのかは、分かっていないようね。
「な、何をするんだ……! リリナ!」
「バルカン様……本当に身に覚えがないのですか? 私に手を払われる覚えが……」
「な、何を言っているのだ……」
バルカン様は焦っているようにも見受けられる。もしかしたら、悟ったのかもしれないわね。まあ、悟ったところで許すことはないのだけれど……。
「私はもう我慢することが出来ません。貴方と婚約をして半年になりますが、その間だけでも何回の浮気をしましたか? 何人の女性をベッドに連れ込んだのでしょうか……?」
「なっ……そ、それは……!」
明らかにバルカン様の様子が変わる。自分でも数えきれない程の人数になっているのでしょうね……はあ、本当にどうしようもないわ。
「バルカン様、はっきりと申し上げます。私と婚約解消をしてください」
「ななっ! リリナ、そんな……! 冗談なのだろう……?」
この雰囲気で冗談と言えるバルカン様は、ある意味で凄いと言えた。もちろん、冗談なんかではないけれど……。
「冗談なんかではありません、バルカン様。婚約解消は絶対にしていただきます。私はもう貴方を信用することが出来ないので……お願い致します」
私は出来るだけ感情的にならず、深々と頭を下げてお願いした。万が一にも、彼が逆上しないようにとの配慮だ。逆上してしまうと、色々と厄介なことになりかねないから。私は伯爵令嬢でしかないのだし。
「リリナ……本気なんだな……?」
「はい、バルカン様」
「まさか、こんな形で君との仲が終わることになるとはな……非常に残念だよ……」
「それは、私も同じ気持ちでございます、バルカン様」
これは半分は本当だ。こんな形で終わることを、私は望んでいなかったのだから。でも、彼を愛することは絶対に出来ないだろうと断言できる。そうなると……婚約解消以外に道はないと言えるだろう。
バルカン様も納得してくれたようだった。
「僕と同じ気持ち……。リリナ……僕が彼女達との関係を絶てば……」
「バルカン様……?」
最後の方の言葉は良く聞こえなかったけれど、こうして私とバルカン様の婚約解消は成立することになった。私は新しい恋を見つけようと思っている。
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