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3話 エレナの苦悩
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「どういうつもりですか、リグリット様!?」
「うるさいな……耳元で叫ぶのは止めてくれ……」
私はその日、リグリット様を問い詰めていた。彼は適当にしか聞いていないけれど、私は真剣だ。最近のリグリット様の態度は目に見えておかしかった。幼馴染のアミーナ様を優先し過ぎている。
この前のパーティーの進行自体も彼が主催したにも関わらず、私に完全に丸投げをしていたし。さらに、私への何らかのプレゼントを用意するという名目で、二人は何度も貴族街でのデートを重ねていたのだった。私にプレゼントが送られたことはなく、全てアミーナ様に還元されているし。
これでは、誰がリグリット様の婚約者か分かったものではない。
「最近のリグリット様は、アミーナ様との仲を優先し過ぎていますね」
「おいおい、だから言っているだろう? アミーナは私の大切な幼馴染なんだと。彼女の家系は長期の遠征に出ていた。何年か振りの再会なんだ、少しくらい大目に見てくれても良いだろう?」
「少しくらいなら大目に見ますが……」
二人の関係性は明らかに度を越していると思う。現に何人かの貴族は、リグリット様とアミーナ様の二人が婚約関係にあると思っているほどだし。その辺りを全て鑑みた上で、私は彼に問いかけた。
「リグリット様は私への愛は……ないのですか?」
「もしかして、ヤキモチか? エレナ、お前はなかなか面倒くさい女だな……」
「リグリット様……」
彼は本気で私の態度に嫌がっているようだった。正直に言って、私のセリフなんだけれど……。
「お前との仲よりも、アミーナとの関係を深めていきたいと考えているのは事実だ」
「り、リグリット様……!? 本気で言っているのですか?」
信じられない言葉をハッキリと言った彼に対して、私は感情的になり始めていた。こんな言葉を悪びれる様子もなく言える人だったなんて、という思いが先行している。
「過ごして来た時間の問題だ、当たり前だろう? しかしだな、エレナ。お前との婚約は破棄しないから安心しろ」
「えっ……? どういうことですか?」
別れ話になるかと思っていたのに、リグリット様はそれはしないと言い出した。どういうつもりだろうか?
「侯爵令嬢であるお前の家系との縁を切りたくはないのだ。アミーナのことは好きだが、彼女は伯爵令嬢でしかないからな。政略結婚にはお前の方が向いている、ということだ」
「そ、そんな! それでは私は……」
政略結婚の為の道具でしかない……リグリット様はそう言っているも同然だった。おそらくはアミーナ様とは愛人としての関係になるのだろうけど……この国では推奨されていることではない。
「エレナ。私との婚約を破棄した場合、どうなるか分かっているのだろうな? 公爵家の力を最大限に使わせてもらうぞ」
「そんな……リグリット様……」
「ふはははは、お前は優秀な女だからな。私の元から一生離れることは許さんよ!」
最初からだったのかしら……リグリット様はずっと隠していただけで、今、本音を打ち明けたというの? 私は彼から逃げ出すことは出来ない、これからもずっと……。
---------------------------
私はその日は、貴族街にあるランカスター家に帰ることにした。今頃、リグリット様はアミーナ・ファルス伯爵令嬢と仲良くしているのだろう。簡単にその光景が頭に浮かんでしまう。
真実を知った今、彼との関係を続けたいとは思わなかった。
婚約破棄をしたい、その思いが強くなってくる。
しかし、それをしてしまうと、我がランカスター家がどうなってしまうか。お父様達に迷惑を掛けてしまうことになるだろう。それだけは避けたかった。私一人が我慢すれば、家を守ることが出来る。
そう、私が我慢すれば……それしか選択肢はない。
「エレナか、久しぶりだな」
そうだ、私が我慢するんだ……リグリット様と結婚するのはとても嫌だけれど……あれ、何か聞こえたような?
「エレナ、どうしたんだ? 元気がなさそうだが……」
「えっ……?」
空耳ではない。屋敷の入り口に佇んでいた私に話しかける男性の声……確かに聞こえた。私はその人物に向き直る。そこに居たのは……。
「ヨハン王子殿下……?」
「うるさいな……耳元で叫ぶのは止めてくれ……」
私はその日、リグリット様を問い詰めていた。彼は適当にしか聞いていないけれど、私は真剣だ。最近のリグリット様の態度は目に見えておかしかった。幼馴染のアミーナ様を優先し過ぎている。
この前のパーティーの進行自体も彼が主催したにも関わらず、私に完全に丸投げをしていたし。さらに、私への何らかのプレゼントを用意するという名目で、二人は何度も貴族街でのデートを重ねていたのだった。私にプレゼントが送られたことはなく、全てアミーナ様に還元されているし。
これでは、誰がリグリット様の婚約者か分かったものではない。
「最近のリグリット様は、アミーナ様との仲を優先し過ぎていますね」
「おいおい、だから言っているだろう? アミーナは私の大切な幼馴染なんだと。彼女の家系は長期の遠征に出ていた。何年か振りの再会なんだ、少しくらい大目に見てくれても良いだろう?」
「少しくらいなら大目に見ますが……」
二人の関係性は明らかに度を越していると思う。現に何人かの貴族は、リグリット様とアミーナ様の二人が婚約関係にあると思っているほどだし。その辺りを全て鑑みた上で、私は彼に問いかけた。
「リグリット様は私への愛は……ないのですか?」
「もしかして、ヤキモチか? エレナ、お前はなかなか面倒くさい女だな……」
「リグリット様……」
彼は本気で私の態度に嫌がっているようだった。正直に言って、私のセリフなんだけれど……。
「お前との仲よりも、アミーナとの関係を深めていきたいと考えているのは事実だ」
「り、リグリット様……!? 本気で言っているのですか?」
信じられない言葉をハッキリと言った彼に対して、私は感情的になり始めていた。こんな言葉を悪びれる様子もなく言える人だったなんて、という思いが先行している。
「過ごして来た時間の問題だ、当たり前だろう? しかしだな、エレナ。お前との婚約は破棄しないから安心しろ」
「えっ……? どういうことですか?」
別れ話になるかと思っていたのに、リグリット様はそれはしないと言い出した。どういうつもりだろうか?
「侯爵令嬢であるお前の家系との縁を切りたくはないのだ。アミーナのことは好きだが、彼女は伯爵令嬢でしかないからな。政略結婚にはお前の方が向いている、ということだ」
「そ、そんな! それでは私は……」
政略結婚の為の道具でしかない……リグリット様はそう言っているも同然だった。おそらくはアミーナ様とは愛人としての関係になるのだろうけど……この国では推奨されていることではない。
「エレナ。私との婚約を破棄した場合、どうなるか分かっているのだろうな? 公爵家の力を最大限に使わせてもらうぞ」
「そんな……リグリット様……」
「ふはははは、お前は優秀な女だからな。私の元から一生離れることは許さんよ!」
最初からだったのかしら……リグリット様はずっと隠していただけで、今、本音を打ち明けたというの? 私は彼から逃げ出すことは出来ない、これからもずっと……。
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私はその日は、貴族街にあるランカスター家に帰ることにした。今頃、リグリット様はアミーナ・ファルス伯爵令嬢と仲良くしているのだろう。簡単にその光景が頭に浮かんでしまう。
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しかし、それをしてしまうと、我がランカスター家がどうなってしまうか。お父様達に迷惑を掛けてしまうことになるだろう。それだけは避けたかった。私一人が我慢すれば、家を守ることが出来る。
そう、私が我慢すれば……それしか選択肢はない。
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そうだ、私が我慢するんだ……リグリット様と結婚するのはとても嫌だけれど……あれ、何か聞こえたような?
「エレナ、どうしたんだ? 元気がなさそうだが……」
「えっ……?」
空耳ではない。屋敷の入り口に佇んでいた私に話しかける男性の声……確かに聞こえた。私はその人物に向き直る。そこに居たのは……。
「ヨハン王子殿下……?」
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