5 / 43
5話 ヨハン王子殿下 その2
しおりを挟む
「ヨハン王子殿下、ようこそいらつしゃいました。大したおもてなしが出来ず、非常に申し訳ないことでございます」
「いえ、気にしないでいただきたい、グリフィス殿。元々、私が訪問する予定はなかったのだから、当然のことです」
私とお父様のグリフィス・ランカスターは、ヨハン様を客室へと案内し急ごしらえで作った軽食と飲み物を用意した。メイドに用意してもらったのだけれど、急すぎる依頼に苦笑いになっていたわね。
まあ、いきなり「王子殿下が訪問されたから、何かご用意できる物はない?」と聞かれれば、苦笑いにもなるだろう。それでも、なんとか用意してくれたメイドのみんなには感謝しか出来なかった。流石はプロといったところね。
でも、おかしいわね……ヨハン様は訪問の予定がないと言っていたけれど、私に声を掛けてきたので、屋敷の近くには居たことになる。ランカスター家の屋敷の前を通りかかったのは偶然なのかしら?
「急な訪問に対する手厚いもてなし、感謝いたします」
「勿体ないお言葉ありがとうございます、ヨハン王子殿下」
ヨハン様とお父様は互いに深々と頭を下げていた。そもそもの地位で考えればヨハン様が頭を下げる必要はないのだけれど、彼はお父様とも面識が深く、幼かった当時も敬語を使って話していたわね。その時の名残りが18歳になった今でも残っているようだ。
私は初心を忘れていないというか、王子殿下の地位を鼻にかけないヨハン様を好意的に見ていた。なんだか、とても安心したわ。
---------------------------
その後、お父様は私に気を使ってくれたのか、ヨハン様と二人きりにしてくれる。客室に待機していたメイド達にも出て行くように促して。いえ、私には婚約者が居るんだけれど……その気遣いは本来なら、駄目な気がする。
まあ、今の私の場合は違うのだけれど……それと、お父様にリグリット様に一件を伝えることが出来なかった。今からお父様を呼び戻したり、私が向かうのも不自然だし。
私がそんなことを考えていると、対面に座っていたヨハン様が口を開いた。私の顔を真剣な眼差しで見つめながら。
「どうしたんだ、エレナ? 先ほどからソワソワしているし……何かあったのか?」
「えっ? い、いえ……別になにもありませんけれど……変に見えますか?」
「そうだな……」
「や、やだな……私達は久しぶりに会ったんですから。私もこういう冗談をするようになったんですよ?」
私はヨハン様風に身振り手振りを使って冗談めいた空気を再現してみた。しかし、今の彼にはそれは通じなかった。一緒に笑ってはくれていないから。
「話したくないことならば、無理に聞こうとは思わないが……私は知りたいと思っている。後は君次第だな」
「ヨハン様……」
凄い確信だった。ヨハン様は自分の勘違いだとおそらく微塵も思っていないはず。どうしてそこまで確信が持てるのかは不明だけれど、これも幼馴染としての絆なのかしら?
幼馴染……リグリット様とアミーナ様もそういえば幼馴染同士だったっけ。今日の一件に関して、ヨハン様には知られたくないと思っていたけれど、出会って早々に元気がないことを見破られた以上は、黙っているのも失礼な気がした。
話してみよう……それで私の心も晴れるかもしれないから。このモヤモヤとした心の状態で、ヨハン様と会話するのは嫌だしね。
「いえ、気にしないでいただきたい、グリフィス殿。元々、私が訪問する予定はなかったのだから、当然のことです」
私とお父様のグリフィス・ランカスターは、ヨハン様を客室へと案内し急ごしらえで作った軽食と飲み物を用意した。メイドに用意してもらったのだけれど、急すぎる依頼に苦笑いになっていたわね。
まあ、いきなり「王子殿下が訪問されたから、何かご用意できる物はない?」と聞かれれば、苦笑いにもなるだろう。それでも、なんとか用意してくれたメイドのみんなには感謝しか出来なかった。流石はプロといったところね。
でも、おかしいわね……ヨハン様は訪問の予定がないと言っていたけれど、私に声を掛けてきたので、屋敷の近くには居たことになる。ランカスター家の屋敷の前を通りかかったのは偶然なのかしら?
「急な訪問に対する手厚いもてなし、感謝いたします」
「勿体ないお言葉ありがとうございます、ヨハン王子殿下」
ヨハン様とお父様は互いに深々と頭を下げていた。そもそもの地位で考えればヨハン様が頭を下げる必要はないのだけれど、彼はお父様とも面識が深く、幼かった当時も敬語を使って話していたわね。その時の名残りが18歳になった今でも残っているようだ。
私は初心を忘れていないというか、王子殿下の地位を鼻にかけないヨハン様を好意的に見ていた。なんだか、とても安心したわ。
---------------------------
その後、お父様は私に気を使ってくれたのか、ヨハン様と二人きりにしてくれる。客室に待機していたメイド達にも出て行くように促して。いえ、私には婚約者が居るんだけれど……その気遣いは本来なら、駄目な気がする。
まあ、今の私の場合は違うのだけれど……それと、お父様にリグリット様に一件を伝えることが出来なかった。今からお父様を呼び戻したり、私が向かうのも不自然だし。
私がそんなことを考えていると、対面に座っていたヨハン様が口を開いた。私の顔を真剣な眼差しで見つめながら。
「どうしたんだ、エレナ? 先ほどからソワソワしているし……何かあったのか?」
「えっ? い、いえ……別になにもありませんけれど……変に見えますか?」
「そうだな……」
「や、やだな……私達は久しぶりに会ったんですから。私もこういう冗談をするようになったんですよ?」
私はヨハン様風に身振り手振りを使って冗談めいた空気を再現してみた。しかし、今の彼にはそれは通じなかった。一緒に笑ってはくれていないから。
「話したくないことならば、無理に聞こうとは思わないが……私は知りたいと思っている。後は君次第だな」
「ヨハン様……」
凄い確信だった。ヨハン様は自分の勘違いだとおそらく微塵も思っていないはず。どうしてそこまで確信が持てるのかは不明だけれど、これも幼馴染としての絆なのかしら?
幼馴染……リグリット様とアミーナ様もそういえば幼馴染同士だったっけ。今日の一件に関して、ヨハン様には知られたくないと思っていたけれど、出会って早々に元気がないことを見破られた以上は、黙っているのも失礼な気がした。
話してみよう……それで私の心も晴れるかもしれないから。このモヤモヤとした心の状態で、ヨハン様と会話するのは嫌だしね。
140
あなたにおすすめの小説
殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。
和泉鷹央
恋愛
雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。
女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。
聖女の健康が、その犠牲となっていた。
そんな生活をして十年近く。
カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。
その理由はカトリーナを救うためだという。
だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。
他の投稿サイトでも投稿しています。
幼馴染を溺愛する婚約者を懇切丁寧に説得してみた。
ましろ
恋愛
この度、婚約が決まりました。
100%政略。一度もお会いしたことはございませんが、社交界ではチラホラと噂有りの難物でございます。
曰く、幼馴染を溺愛しているとか。
それならばそのお二人で結婚したらいいのに、とは思いますが、決まったものは仕方がありません。
さて、どうしましょうか?
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
〖完結〗旦那様が愛していたのは、私ではありませんでした……
藍川みいな
恋愛
「アナベル、俺と結婚して欲しい。」
大好きだったエルビン様に結婚を申し込まれ、私達は結婚しました。優しくて大好きなエルビン様と、幸せな日々を過ごしていたのですが……
ある日、お姉様とエルビン様が密会しているのを見てしまいました。
「アナベルと結婚したら、こうして君に会うことが出来ると思ったんだ。俺達は家族だから、怪しまれる心配なくこの邸に出入り出来るだろ?」
エルビン様はお姉様にそう言った後、愛してると囁いた。私は1度も、エルビン様に愛してると言われたことがありませんでした。
エルビン様は私ではなくお姉様を愛していたと知っても、私はエルビン様のことを愛していたのですが、ある事件がきっかけで、私の心はエルビン様から離れていく。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
かなり気分が悪い展開のお話が2話あるのですが、読まなくても本編の内容に影響ありません。(36話37話)
全44話で完結になります。
幼馴染の王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。
藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。
何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。
同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。
もうやめる。
カイン様との婚約は解消する。
でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。
愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません!
一度完結したのですが、続編を書くことにしました。読んでいただけると嬉しいです。
いつもありがとうございます。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。
私が家出をしたことを知って、旦那様は分かりやすく後悔し始めたようです
睡蓮
恋愛
リヒト侯爵様、婚約者である私がいなくなった後で、どうぞお好きなようになさってください。あなたがどれだけ焦ろうとも、もう私には関係のない話ですので。
〖完結〗その愛、お断りします。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚して一年、幸せな毎日を送っていた。それが、一瞬で消え去った……
彼は突然愛人と子供を連れて来て、離れに住まわせると言った。愛する人に裏切られていたことを知り、胸が苦しくなる。
邪魔なのは、私だ。
そう思った私は離婚を決意し、邸を出て行こうとしたところを彼に見つかり部屋に閉じ込められてしまう。
「君を愛してる」と、何度も口にする彼。愛していれば、何をしても許されると思っているのだろうか。
冗談じゃない。私は、彼の思い通りになどならない!
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる