どうやら異世界転生しても最強魔法剣士になってしまった模様

あっきー

文字の大きさ
3 / 66
第1章

2.歪な世界

しおりを挟む



自分以外誰もいない部屋で、彼女はベッドボードに置かれたクッションに痩せ衰えた体を委ね、無表情のままにただぼんやりと窓の外を眺める。


あれから数日が経ち、キサギは自分の置かれた状況に思いを巡らせた。


自分は死に、どうしてかはわからないがこの少女に転生した。


この体の持ち主の名はレイスリーネ。


ハロルド伯爵令嬢。15歳。


黄金色のサラサラした長い髪に、エメラルドに輝く切長の美しい瞳。白く艶やかな美しい肌、形の整った鼻やくちびる。


倒れるまでの彼女は、スラリとした体に誰もが羨む程の美貌を持つ、それはそれは美しい少女だった。
 

ではそんな彼女に何があったのか…


実は、レイスリーネはこの国の第3王子の婚約者である。


彼女より2つ歳上の王子とは、3年前に王家から望まれて結ばれたもの。


そして事件は王城で王子と散策中におきた。


老朽化した建物の石壁が突然崩落し、彼女はとっさに王子を庇いその石壁の残骸の下敷きになり、意識不明の重体となったのだ。


いや、正しくは亡くなった。


レイスリーネは亡くなり、何故かたまたまキサギの魂がその中に入ったのだ。


事故が起きてからゆうに3ヶ月重体状態だったその期間は、キサギの魂とレイスリーネの体の融合、そして前の世で傷ついたキサギの魂を癒す為のもの。


キサギの魂の傷が癒え目覚めたとはいえ、魂と体の融合がまだ完全ではなかった為、あの時は体を動かせなかったようだ。


レイスリーネの記憶がゆっくりと流れこみ、キサギの魂と溶け合って一つになった今、ようやく自分に起こっている状況を理解するに至った。


そして転生した場所はキサギの全く知らない名前の国だった。


以前いた世界には存在しない国。


イギリー王国と呼ばれ、王都はロンダリア。花の都と呼ばれている。


(これってどう考えても異世界というやつよね)


キサギの中にあらゆる国、事象、言葉などレイスリーネの持っていた全ての記憶が根付き、良い意味でも悪い意味でも、今まで自分が生きてきた立場とは全く違うものであることをまざまざと見せつけてくる。


ワクワクする未知は好きだ。


だが、知りたくも無い貴族社会の記憶など反吐が出る。


なんとも筆舌しがたい気分だが、悪い事ばかりではなかった。


レイスリーネは王子の婚約者なだけあり非常に優秀な少女だったようで、融合して得たその記憶と知識はこれからこの世界で生きていくキサギにとって大きな武器になり、安心感を与えるものとなった。


彼女は現在王都の伯爵邸ではなく、そこからはるか東に位置するハロルド伯爵の領地に移され療養中である。


家族構成は父、母、2歳上の兄。


ハロルド伯爵はこの地の領主であり、普段は王宮に勤める優秀な魔術師で魔力研究所に所属している研究者らしい。


母のほうは代々優秀な魔術師を輩出する侯爵家の出身で、現・魔法研究所所長の娘だ。


17歳の兄は現在、東の隣国フランソワにある魔法学園に留学中。容姿端麗・頭脳明晰な青年で、この国の資産家の子爵令嬢と5年前から婚約している。


(この世界にも魔法があった…)


自分がいた世界と同じく魔力の存在する世界である事、そして自分にもちゃんと魔力がある事に、キサギはとても安心した。


自分が死んだ事に関してはあの歪みの暴走を抑えるため、生命力を魔力として上乗せした時点で生きていられるはずがないと思っていたのですんなり受け入れている。


(けどまさか前の記憶を持ったまま、しかも死んだ少女の体を乗っ取っての転生とは思っていなかったな…)


目覚めて予想だにしなかった事が起こっていた事に、落ち着いた今ならパニックにならず、ただただため息を吐くだけで済む。


思い出されるのは目覚めてからすぐのあの重苦しい場面。


というのも、レイスリーネが目覚めるまで3ヶ月、そりゃあ両親も心配するわな…と思いきや、どっこい。


心配した理由は違ったのだ。


王族との婚約話がなくなる可能性を、あの両親はあの時心配したのである。


「いや、自分の娘を心配せんのかいっっっ」というのがキサギの正直な気持ちだった。 


だが、どうにもレイスリーネの記憶から家族との仲の良さが流れてこない。


父は王宮での仕事、母は社交、兄は幼い頃から留学中。


レイスリーネは一人だった。


生まれてから今まで乳母や侍女従者と過ごし、本当の家族と過ごす光景がないのだ。


あまりにも希薄な関係。


(貴族の家の子は皆こういうものなの?まるで家にとって利益になる為の駒としか思われてない)


心に鈍く流れこんでくる感情に、キサギは眉を顰めた。


更に不幸な事に、婚約者である王子との関係もまた冷めたものだった。


婚約者として王城で茶会をするものの、記憶から窺える2人の関係はなんとも悲しいものだった。


美しく可憐な少女が優しく一生懸命笑顔で王子に話かけるも、王子はその姿に目を向けることもなく生返事。


なにもレイスリーネは王子に愛だの恋だのといった感情は持っていなかった。


ー貴族とは政略結婚するものである。
ー王族との婚姻は家にとって名誉である。
ー貴族たるもの感情に左右される事なく己を律するものである。


……無機質な心にそう刷り込まれた思考を持ちながらも、良い関係を作ろうと彼女なりに努力していたのだ。


(レイスリーネは恋愛というものはわからなくとも、王子に寄り添おうと努力したのねぇ)


己の意思とは関係の無い婚姻。


しかも彼女はまだ15歳。


少しの笑顔も反応も返してくれない冷たい婚約者であっても、レイスリーネは一生懸命歩み寄っていた。
 

だがそんな努力の甲斐もなく、目覚めた今になっても、婚約者である第3王子の見舞いはない。


父親であるハロルド伯爵は、目覚めたものの今だ重体といえる娘を王都の伯爵邸からこの領地に療養という名目で早々に追いやった。


世間には、悲劇の愛娘を心配し王都の喧騒から離れた静かな空気の良い自領で療養させる為を装った、真実王家との縁を微妙にした役に立たない駒に苛立ち、遠ざけるかのように…


王都からはるか東に位置する領地までかなりの距離がある為、王子教育や政務のある婚約者は、見舞いの来訪となるとなかなか時間も取れないのだろう。


それでも一応婚約者であり命の恩人であれば、見舞いの手紙とか花くらい寄越しても良いのではなかろうか。


「目覚めた娘がこんな状態なのに早々に領地に引っ込めた父親、例え相手の事を何とも思ってないにしても命を救われた癖に何の見舞いもしてこない婚約者、何より……自分の息子を救われたにも関わらず何のアクションも起こさない王家。……全く、どいつもこいつもほんと胸糞悪いわ」


キサギはおよそ自分の常識とかけ離れた彼らに、そして彼女が身を置く独特の世界に、怒りと嫌気がさした。


「回復したところで、いいように利用されるのはお断りよ」


本当はもう既に動けるまで回復しているにも関わらず、今まで隠してこのまま動けないフリを続けていたキサギは、密かに企てていた事を決行することにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...