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第1章
28.初クエスト完遂
しおりを挟むランテルへ帰還しギルドに戻ったキサギ達は、マティアスに連れられて2階の会議室へと入っていった。
外はそろそろ夕方を迎える頃で、窓からは薄橙色に映える空が見える。
各々が席に着いたころ、キサギは己のタグを首から外しマティアスへと差し出した。
「今回のクエスト、無事完了しました。ご確認よろしくお願いします。」
「あぁ、よくやってくれた」
マティアスは彼女のタグを受け取ると、手に持っていたクエスト用紙に近づける。
すると、彼女の魔宝石が小さく明滅し、暫くするとクエスト用紙の中央にぼんやりと“クエスト完了“の文字が浮かび上がってきた。
(へぇ……クエスト用紙自体にも魔力が込められてるのね。魔宝石とクエスト用紙が連動してるからこんな風に処理されるのか。優秀~~~)
完了の文字が浮かび上がったクエスト用紙をマジマジと見ながら、彼女はこの画期的なシステムに感心する。
「これでクエストは無事完了した。ご苦労だったな」
マティアスはいつもの厳めしい表情を緩め、受け取ったタグをキサギへと返した。
「オリガがとても感謝していたぞ……それから、王家からも感謝を記した親書が届いている」
返却されたタグを彼女が首にかけていると、思わぬ単語にビクリと肩を跳ね上げる。
「……げ。……あぁ、そうですか」
なんとも苦々しい表情で返答するキサギに、マティアスは少し目を丸くした後に苦笑いをこぼした。
「まぁ、そう嫌そうな顔をするな。王家のお陰で旅団の名声が確固たるものとなったんだからな」
「……あぁ。下の騒ぎはそれだったんですね」
「あぁ。まぁ、それだけではないんだが、確定要素は間違いなく王家、だな」
今回の上位魔獣討伐クエストを異例の新人S級冒険者パーティが受けるにあたって、案の定ギルドは騒ついた。
大きな騒ぎにならなかったのはマティアスの人望と説明。
そして証人となった天狼の存在とカイル、テリーのフォロー。
加えて、天狼との模擬戦とベリアル戦を間近で見ていた冒険者達が他の冒険者達へ、彼女らの異様な強さを懇切丁寧に説明してくれたから、という背景があった。
それでも納得出来ない人間は圧倒的に多かった。
そこへ今日の昼時、王家からの使者が直々に親書を持ってギルドへ現れたのだ。
王太子ランバート、第2王子リカルドからそれぞれの感謝状を預かった使者は、ギルド長を前にし、冒険者達で賑わうホールのど真ん中でその内容を次々に披露していく。
ルシアンの件と、リンデルでの魔獣襲撃における多大な活躍が読み上げられると、騒ついた冒険者達も流石に口を噤んだ。
そしてその直後に受付スタッフがリンデルからの報告を受け、慌ててマティアスの元へと走り寄って来た。
「ギルド長!今リンデルから連絡が入りました!S級冒険者キサギ率いる神楽旅団が、昨晩、大型魔獣を含め上位魔獣アモンの討伐を無事完遂!リンデルは通常業務に移行!数時間後にランテルへ帰還するとの事です!」
昨日出発したばかりであるにも関わらず、異様な早さでの討伐完了の報告に、周囲の冒険者達やスタッフ達は更に騒然とする。
「おぉ!それは良かった。その件は城に戻りこちらで報告しておきましょう。リンデルの戒厳令を解くよう、上申しておきますね。我が国に、世界で3組目となる全員S級冒険者パーティが誕生した事を誉れとし、彼の地の平定に感謝申し上げます」
使者はにこやかにマティアスに伝えると、親書を手渡しギルドを去って行った。
眉を顰めていた冒険者達は、一部を除いて、概ね受け入れたようだ。
「……まぁ、一部の冒険者達は天狼とカイル、テリー兄弟の活躍があったからではないかと、まだ半信半疑のようだが、まぁそれはいずれリンデルから戻った冒険者達から話が伝われば少しずつ納得するだろう」
「そうですか。まぁ、何にしても我々としてはクエストが無事完了し、リンデルから危険が取り除かれたのであれば、外野に何を言われようが知った事ではないです」
「そうだな。天狼諸君も多忙な中、よくやってくれた。ギルド長として礼を言う。カイル、テリーもよくやってくれた、ありがとう」
彼らへ向き直りマティアスが頭を下げる。
「いやいや、ハッキリ言って魔獣襲撃以外は俺達殆ど出番なかったですよ」
「ちがいねぇ!やっぱ旅団、強かったっすわ!」
グエンが苦笑いしながら肩をすくめ、そしてカイルも豪快に笑い飛ばしている。
「いえ。皆さんのフォローがあったからこそ、様々な難局を解決出来ました。ありがとうございました」
キサギは改めて席から立ち上がり、彼らへと深々と頭を下げて礼を言った。
「いや、お世辞でも何でもなく、これは君を始めとした神楽旅団が解決したんだ。君達は立派なS級冒険者だ。胸を張ると良い」
頭を下げる彼女に、グエンは優しい雰囲気ながらもS級冒険者の先達としての威厳を持って、そう声をかける。
キサギは顔をあげ、少しはにかみながら「はい」と答えた。
「さて、これをもって今回の君達への選定試験は、完全に終了だ。そして、既に各地のギルドに伝達を飛ばした。我がランテル冒険者組合から新たなS級冒険者4人の誕生と、世界で3組目となる全員S級冒険者パーティ“神楽旅団“の誕生を、な」
ランテル冒険者組合初のS級冒険者の誕生と、イギリー王国初の全員S級冒険者パーティの誕生を喜ぶように、マティアスはにこやかに宣言した。
天狼も保証人として誇らしげに微笑みを浮かべながら頷いている。
「今後も皆さんの期待を裏切らない、S級冒険者として相応しい仕事をするとお約束します。よろしくお願いしますね」
そうキサギは堂々と胸を張り、改めて皆へ威信表明をした。
「さて、もう時間も遅い。今日はこれで解散としよう。旅団は明日昼にまたギルドへ来てくれ。仕事の相談をしたい」
「わかりました」
「グエン達はどうする?このまま王都へ戻るのか?」
「えぇ。早速仕事の話が来てるので、明日の午後から打ち合わせが入りました。今出れば夜には王都へ着きそうですし、このまま戻ります」
「そうか。重ね重ね世話になった。また何かあればよろしく頼む」
「こちらこそ。いつでも呼んで下さい。キサギちゃんに会えるなら飛んで来ます」
昼間の撃沈した姿はどこへやら、いつもの無駄にキラキラした軟派な優男に戻ったグエンは、彼女へ熱い視線を向けると一つウィンクを投げた。
折れない心を持つその強靭な精神力にキサギは感心するものの、やはりグエンが苦手な彼女は露骨にうへぇと顔を歪める。
案の定、旅団3人と加えて精霊獣1体からの刺すような睨みを返されていたのは、言わずもがな。
そうして、マティアス、キサギを始めとした旅団、カイル、テリーらに見送られて、天狼は王都へと戻って行った。
カイル、テリーとも軽い挨拶を交わし、その場で別れる。
彼らとは同じランテル所属という事もあり、いつでも顔を合わせるのだ。
また何かの機会があれば共に仕事をする事もあるだろう。
そんな空気の中、マティアスがコクヨウをまじまじと凝視している。
「……それにしても、話には軽く聞いていたが、“精霊王“を側に置くとは……キサギは本当に規格外だな」
コクヨウをマジマジと見つめながら、マティアスの顔は苦笑いを浮かべている。
それもそのはず。
召喚術師が契約する精霊獣と、コクヨウの現在の姿である精霊獣はその種類が違う。
幻と呼ばれるほど個体数が少なく、精霊獣の上位互換となる存在。
天狼の召喚術師リアのような精霊に詳しい者からは、上位精霊獣とも呼ばれている。
しかし一般的な世間での通り名は“精霊王“。
豊潤で清らかな魔力がある森や山の奥地でひっそりと暮らし、まず余程の事がない限り人間と相まみえることは無いと言われており、土地神としての意味合いが非常に強い為、そう呼ばれる。
実際、遥か昔リンデルの地が森深かった頃、コクヨウの体の持ち主は一帯を統べる精霊王だったのだろう。
土地神としてその地に住まう人々から畏敬の念を持って崇められ、祀られていた祠と祭壇が最たるものだ。
そのような存在が堂々とその姿を顕現し、キサギにくっ付いて離れないのだから、マティアスはなんとも言えない顔になるのも当然だ。
『儂の事なら構わんでくれ、若いの。其方らにはどうせ理解は出来ん。余計な詮索はせず、そういうものじゃとただ受け入れておれば、それで良い』
壮年のマティアスに対して若者扱い、そしてキサギ以外への塩対応。
彼女以外の人間を瑣末なものとしか認識しない、この態度。
彼女の式神として、この認識は他の3人同様コクヨウも漏れなくブレがない。
「冒険者のプライベートへの詮索は御法度。そんな真似はせんよ」
フゥッと軽く息を吐きながら、マティアスは軽く肩をすくめてみせた。
「さて、詳しい話はまた明日だ。君達も今日は帰りたまえ……」
「おい、お前!!」
キサギへ向き直り解散を告げようとしたマティアスの言葉に被せて、ギルドの入り口から何やら物騒な声があがる。
一同がその声の主へと顔を向けると、そこにはエルフと呼ばれる耳の長い独特な美しさを持つ亜人の男性が、その美しい顔を歪めてキサギを一点に睨みつけていた。
さらにその後ろには冷たい表情で、これまたこちらを睨むエルフの女性1人と、モフモフとした三角耳と尻尾を携えた獣人男女2人が立っている。
恐らくこの男性エルフの仲間らで、彼らは4人組のパーティなのだろう。
「?……あぁ、私ですか?見ず知らずの人にお前呼ばわりされる覚えはないですが……とりあえず、何か御用ですか?」
キサギは至ってあっさりと、さして彼への興味を持つ事もなく、返事を返す。
その態度に苛立ったのか、男性エルフはますますその美しい顔を歪ませる。
「そこに御座すは古の精霊王ではないか!お前のような人間が何故そのような方を連れている!!」
どうやら彼はキサギへと難癖を吹っ掛けてきたようだ。
仲間らも同様なのか、彼女へと向けられる目線は蔑みを浮かべ非常に冷たい。
エルフや獣人にとって、コクヨウのような存在はまさに神と同義。
彼らも滅多に会える存在では無く、彼ら独特の宗教観を精霊王に対して持っているようだ。
それをただの人間が付き従えているともなれば、冷静ではいられないのだろう。
が。
キサギへ向ける侮蔑の視線と不敬な態度に、式神達は容赦なくその苛立ちを魔力に乗せて彼らへと遠慮なしに放つ。
濃密な魔力に、神々しい神気。
それをまともにぶつけられた男性エルフは「ヒィッ」と悲鳴をあげ震えながら膝をつき、後ろの仲間たちも漏れなく腰を抜かした。
「んだぁ、テメェ。御前に喧嘩売ってんのか、コルァ」
「……御前への不敬。身の程を知らず、愚かとしか言いようがありませんね」
「御前に対しなんたる不敬千万。万死に値する」
『ただ静かに受け入れておれば良いものを……我が御前への態度。許すまじ』
3人と1体からの容赦ない怒りに、流石の彼らは青ざめ震え上がり、隣のマティアスも己に向けられた訳ではないその尋常ではない圧に身を震わせていた。
だが、いつもの如く。
「やめんかぃ!この大馬鹿ものどもっ!」
彼らの後頭部を順繰りにキサギがチョップを入れていく。
途端に容赦なく放たれていた圧力が一気に霧散する。
「もう!いい加減、その暴走癖なんとかならないの?!しまいには、アンタ達全員、消し炭にするわよ!!」
式神達の暴走はいつもの事ながらも、さすがに冒険者仲間への暴挙はいただけない。
キサギは憤怒の表情で、己の魔力を背中にユラユラ漂わせながら、3人と1体にジワジワと詰め寄る。
その姿は鬼神の如く。
主に叱られた彼らは大きな体を縮こませ、シュンッと萎びてしまっていた。
だが。
イチャモンを吹っ掛けてきたエルフと獣人パーティは、式神達からの圧力に加え、更にキサギの尋常でない魔圧も当てられ、とうとう泡を吹いて失神してしまった。
マティアスが大慌てでキサギを宥め、スタッフへと指示を出し彼らを救護室へと運ばせるという、なんとも頓珍漢な騒動となってしまった。
これを目の当たりにしていた他の冒険者達とギルドスタッフらは騒然とする。
この一件で。
たったこの一件だけで、彼女らの実力を疑っていた者達を容赦なく捻じ伏せ、なんとも呆気なくS級冒険者として恐れられ、認められるハメに……いや、事件となったのだった……。
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