どうやら異世界転生しても最強魔法剣士になってしまった模様

あっきー

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第2章

52.それぞれが担うもの

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キサギは右手に持つ八咫烏へ魔力を流すと、愛刀は顕現した時とは違っていつもの様にブワリと漆黒の羽の渦を巻き上げながらキサギの中へと帰って行った。


まるで主の静かな苛立ちが収まった事を確認出来、安心したかの様に。


静寂な広間の中で、キサギはパァンとひとつ柏手を打ち鳴らす。


途端に広間に張られていた結界が解かれ、キサギが蹴破って粉々になってしまった扉も、ボロボロに荒れていた室内も、全て何事もなかったかの様に元の姿へと戻って行く。


勿論、結界が解かれただけで、広間の幻術と防音の魔法はそのままに。


もしもジェノヴィアの警備にでも引っ掛かれば厄介な事この上ない。


解放していた禁術“守“も同時に解け、室内に充満していた濃厚過ぎるキサギの魔力が霧散する。


キサギはフゥッと肩をすくめながら軽く息を吐くと、背後で見守っていた式神らへとゆっくり向き直り歩み寄った。


「……ありがとね」


キサギの表情に、少しバツが悪そうにしながらも、はにかんだ笑顔が浮かぶ。


その笑顔を見た式神らは皆一様に微笑みを浮かべて軽く頷き、彼女へと近づいた。


「スッキリした顔になったじゃねぇか」


シュリが柔らかな笑みを浮かべながらキサギの頭を優しくポンポンと撫でる。


シュリの大きな手に安心したのか、キサギの眉がハの字に下がり表情が緩んだ。


「……私、駄目ねぇ。禁術の第一段階目を解放しただけなのに、あの頃の感情に引っ張られちゃうんだもの……なんだかんだ言ってまだまだ子供だわ……ほんと、お恥ずかしい限りです。穴があったら入りたい」


頬を赤く染め、キサギはバツが悪そうに、そして恥ずかしそうに両手で顔を隠す。


そんな素直な彼女にシュリは胸を暖める。


が。


「……いい加減、その手をどけろ」


パシリとソウエイがすかさずシュリの手をはたき落とす。


そして懐から綺麗な布を取り出し、キサギの顔や頭を優しく拭って行く。


「……お疲れ様でした。禁術の初段階とはいえ、解放の反動で体に異変はございませんか?」


表情はいつもの無表情ながらも、よく見れば分かるほどにソウエイの目元や声音は心配気だ。


「相変わらず心配性ねぇ、ふふふ。問題ないわ。いつもありがとう」


歳相応に無邪気な笑顔を向けるキサギに、珍しくソウエイの顔に笑みが浮かぶ。


「見たところ魔力と神気の巡りに滞りは見られません。この体での初めての禁術解放でしたが、異変も無さそうで安心しました」


ビャクランが眉尻を下げながら柔らかな声音でキサギの頬を優しく撫でる。


「そういえばそうだったわね。すっかり忘れてた!あはは!」


先程までの冷淡な当主モードはすっかり霧散し、いつもように軽快に笑う主にビャクランが胸を撫で下ろす。


『ほぉれ、儂の言うた通り、この中で1番の脳筋は御前だったじゃろうが』


キサギの足元に体を寄せ、コクヨウが呆れた声音で頭をスリスリと当て付ける。


「はいはい。認めますよ、認めますぅ。もぉ~。勘弁して下さぁい」


地面に膝をついたキサギがガバリとコクヨウに抱きつき、モフモフした胸元のたわわな長い毛に顔をグシグシと埋める。


式神らから珍しく笑い声が漏れる。


彼女らの和やかな空気に安堵したジェノヴァがキサギへと歩み寄って行く。


「見事だった。流石だな」


「ありがと。まぁ完全に討伐した訳じゃないから、クエスト自体は失敗なんだけどね」


「それでも影とはいえ、奴らは脅威だ。それを難なく払った力量に賛辞を送ろう」


「その言葉、有り難く受け取るわ……アイツらも暫くは動けない筈よ。土産に魔力封じの術式を埋め込んでやったから」


キサギがニシシと悪戯な笑みを浮かべる。


側に立つ式神らは少し呆れた表情だ。


「なんと!あんな短い時間によくぞそんな術式を……」


ジェノヴァは感嘆の声を上げた。


だがキサギはすぐに表情を少し曇らせ首を横に振る。


「でも所詮は影だから、いくら情報が並列化されるからと言っても長くは持たないだろうけどね。それにフードの者に、それを解除出来る程の力量があれば意味がないわ」


「この世界に其方程の力量を持つ者がおるとは思えんがな……まぁ過信は禁物だな」


「えぇ……それにこれはただの一時凌ぎに過ぎないわ。奴らは着々と世界に手を伸ばして来ている。四魔闘将はザガンとベリアル以外に、まだ他に2人動ける奴がいるし、他の上位魔人だって力量は未知。フードの者が自ら采配するかもしれない……今のうちに対策を練らないと、ね」


「あぁ、そうだな」


「ま、ザガンの脅威は無くなったし、貴方は安心して番と巣へ行って頂戴な。お幸せにね」


暗い話題を振り払うかの様にキサギがカラリと笑ってジェノヴァを祝福する。


その言葉にジェノヴァは素直に喜びを露わにした。


「……ありがとう。其方は弱き人々の為だけでなく、我をも救ってくれたのだな……その優しき心に、其方にとっては僅かだろうが、我の加護“も’’受けとってくれ」


そういうと、片手に神気を集めキサギへと向けて放つ。


放たれた神気がキサギを優しく包み込んだ。


「あら、流石ね。一応隠してたんだけど……アシェランの加護がある事、バレてた?」


「クククッ。最初は気付かなかったよ。たがよく辿るとアシェランの加護が其方にある事がわかった……竜は誰彼構わず、加護を振り撒いたりしない。余程アシェランに気に入られたようだな。今ならば奴の気持ちが分かるよ」


「アシェランの番が、何の因果かたまたま私の数少ない友人の1人でね。あそこのカップルも、結ばれるまでがなかなかに前途多難だったわ……それを解決した切欠で、アシェランが加護をくれたの……その子、“ミヤビ“って名前なんだけど、本当に良い子なのよ。シエラ姫ともきっと仲良くなれると思うから、縁があったら会わせてあげて。そして、あの子が元気で幸せに過ごしているか、私の代わりに見て来てくれたら嬉しい……」


「……そうか。機会を設けて一度奴を訪ねてみるとしよう」


「ありがと」


和やかな会話をひとしきり終えると、キサギはジェノヴァの背後に立つリカルドへと目を向ける。


「さてと、リカルド殿下。バリーさんは大丈夫ですか?」


広間の角で蹲るバリーの顔はまだ青い。


気絶まではいかないが、彼は少し朦朧としているようだ。


「……あぁ。情報過多でパニックになったのもあるだろうが、恐らく魔力酔いだろう。暫くすれば落ち着く筈だ」


「結界の中に居たのに……ま、普段ここまで濃い魔力に触れる機会なんてないから仕方ないですかね……さて、リカルド殿下。あらかたジェノヴァから聞いてますね?」


「……あぁ」


「なら結構。今から貴方とバリーさんを王城へ転移させます。あ、そうだ!ジェノヴァ、もうザガンに付き纏われる事はなくなったのだし、貴方もシエラ姫に会いに行ってらっしゃいな。彼らと一緒に送るわよ?」


キサギがおもむろにジェノヴァへそう尋ねると、彼は軽く頷いた。


「もとよりそのつもりだ。というか、その腹積りだったのだろう?」


ジェノヴァは肩をすくめながら苦笑いを浮かべる。


「竜の習性は理解しているつもりよ。ここに到着した時に扉から流れて来たあの異様な気配……あの時はザガンが来ていたのかと勘違いしちゃったけど、本当は番と離れる苦しみが竜気になって滲み出てしまったのでしょう?貴方はもうシエラ姫と離れている必要はないわ。すぐにでも会いたいんじゃないかと思ったの」


「わかっておるさ。竜の習性を正しく知る其方であれば、その配慮に感謝しかない。そのついでに此奴ら王族に軽く釘を刺しておいてやる。真実を知った奴らの悔し気に歪む顔が間近で見られない事を、悔やんでいた所だったのだ。シエラにも会えて、奴らの悔恨に歪む顔も拝めるなど、我にとっては最高の褒美でしかない。それで少しでも其方への礼として返せるのなるなら、こんな安いものはない」


「そう。まぁ、あちらへの釘刺しは程々にね」


フンスと息巻くジェノヴァにキサギが苦笑いを浮かべた。


その時。


「……俺の記憶は無くなるのか」


キサギとジェノヴァの軽口が飛び交う中、リカルドの重々しい声が響く。


彼の表情が悔し気に歪んでおり、少し俯き気味だ。


それを視界に捉えたキサギが、ゆっくりとリカルドへと向き直る。


「ご安心を。私達旅団に関する事だけです。人体に影響などありません」


「そんな事はどうでも良い!先程の見事な戦いを忘れてしまうのか?!」


少し俯いた姿勢からバッと顔を跳ね上げ、リカルドが声を張り上げる。


「はい」


キサギは真っ直ぐリカルドを見つめたままに即答した。


あまりにも即答。


あまりにも真っ直ぐなキサギの藍色の目。


そんな彼女に、リカルドは愕然としながら、また顔をゆっくり俯かせた。


「……それ程、我ら王族を忌避するのか……」


掠れたリカルドの声には悲哀と遺憾の念がこもる。


力なく項垂れるリカルドに、キサギはフゥッと軽い溜息をこぼす。


「貴方のその真っ直ぐな心根は素晴らしい長所です。王族という立場では珍しいでしょうね。ですが、私はそれが恐ろしい」


「恐ろしい?」


顔を上げたリカルドが、正面に立つキサギを見つめ、意味が分からないとばかりに困惑気に問い返す。


キサギの表情は真剣そのままに、彼のその問いかけに対しゆっくりと頷いてみせる。


「純粋さは時に悪意にもなるんです。自分の思惑とは別の場所で。私はそれを散々見て体験してきた……貴方には、一生私の心はわからない」


キサギが切り捨てるように断言する。


『一生私の心はわからない』


そこまでハッキリと言い放たれ、完全に切り捨てられれば、最早リカルドは失笑するしか出来ない。


「……そう……か……」


精一杯出した声は上手く発声出来ず、喉奥に何かが絡まったかのようで、苦しそうに掠れた声を漏らす。


そんなリカルドの姿を目の当たりにしても、キサギは表情を崩さない。


むしろしっかりと真っ直ぐ彼を見つめ、口を開く。


「しっかりして下さい。呆けている場合ですか?貴方は貴方の仕事をして下さい。私達に構っている暇などありませんよ。上位魔人達がこの世界を乗っ取ろうとしているのです。対策を練り、人々を導くのが王族の役目でしょう?貴方はイギリー王国の第2王子という立場だけでなく、王国騎士団の総団長として国民を守らねばならない。その立場に戻って下さい。私達は冒険者として陰から人々を、国を、世界を守ります」


キサギが毅然とした態度で言い放つ。


その言葉にリカルドはハッと大きく息を呑み、ゆっくりと目を大きく開く。


キサギや旅団の情報を持ち帰れない事ばかりに気を取られていたが、そんな事よりも重大な事が差し迫っているのだ。


魔人達の脅威。


これを知ってしまった今、早く報告を上げ対策を練らねばならない。


イギリーだけでなく、それは世界規模で、だ。


ぐずぐずしている暇などない。


それに漸く気付いたリカルドの心が、瞬時に晴れ渡って行く。


それと同時に表情もいつものリカルドらしい精悍さが戻って来た。


「……あぁ。そうだな。その通りだ」


声に生気と覇気が戻って来た。


そんなリカルドの姿に安堵したキサギが真剣な表情のままに頷く。


「お願いしますよ」


「もう無様な姿は見せん。俺は俺の仕事をすると約束する」


リカルドはしっかりと頷く。


その表情はリンデルで出会った時と同じ、王族然とした自信と覇気に溢れていた。


その姿にキサギの顔に漸く笑みが戻る。


そしてリカルドはバリーを担ぐと、ジェノヴァと共にキサギの転移魔法によって王城へと戻って行った。






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